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コラム

たいやきや回転焼きが進化中!人気の「カステラ系和菓子」、東京と大阪でどう違う?

【あの食トレンドを深掘り!Vol.37】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

カステラ菓子が進化している!?

先日、経堂の商店街を歩いていたら、定番のあんこ入りのほか、カスタードや抹茶のクリーム入りなどが選べるアレンジ「大判焼き」を売る店に遭遇した。食べてみると生地はちょっとフニャフニャで頼りないが、確かに懐かしいカステラ生地のおやつだった。店が開業したのは2022年6月。調べてみると、各地であんをアレンジしたり形を工夫した進化系が出現しているようだ。実は最近、  さまざまなカステラ生地の和のおやつが進化し、人気を集めている。本稿ではそうしたおやつを「カステラ系和菓子」と呼び、どんなものがあり、なぜ流行しているのかを考えてみたい。

大判焼きは、私が幼少期を過ごした町に近い阪神西宮駅前商店街で、「回転焼き」として売っている店があった。名前がいろいろあってややこしいので、ここからは私が親しんだ回転焼きで統一したい。店内で食べることもでき、父親と散歩ついでに行き夏はソフトクリーム、冬は回転焼きをよく食べた。引っ越してからも、その町へ出かけた母親がおみやげに買ってくることがあった。阪神淡路大震災の際、商店街のアーケードはつぶれたが、店は仮設で営業を再開し始めたことや、創業は1927(昭和2)年だったことなどを、『昭和育ちのおいしい記憶』(筑摩書房)でも書いている。

回転焼きもたい焼きも、アレンジが豊富に

回転焼きという関西での名称は、2021年秋から2022年春に放送された朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)で使われ、全国区で知られるようになったが、先ほど書いたように地域によって呼び名は違う。どんな名前があるかを突き止めた一つが、『ニュースONE』(東海テレビ)。放送内容を2022年5月29日配信記事で公開している。大判焼きの呼び名は名古屋で使われること、関東では「今川焼き」と呼び、全国に100以上も呼び名がある、と記している。愛知県西尾市の「カテキン堂」は抹茶生地の皮を使い、三重県名張市「たまきや」は、サツマイモ生地の皮を使うなど、アレンジされたモノもあるらしい。

回転焼きはドラマがきっかけで流行したのか?と思って調べると、2010年2月28日にウェブマガジン『Walkerplus』が、『横浜ウォーカー』2010年2月16日発売号から配信した記事で、流行を告げていた。なんと、13年も前だ。同記事によると、東京都町田市の「マルヤ製菓」が、スイーツ系・食事系合わせて35種類の大判焼きを扱う、とある。イチゴとカスタードクリームを組み合わせたものや、オレンジピールとココアクリームを合わせる、といった洋のアレンジのクリームが入っている。横浜では他の店でも、ハンバーグやツナとコーンなどの食事系の具が入ったモノを売っていたらしい。そして冒頭で触れていたのが、2009年にタピオカ生地のたい焼きが出て脚光を浴びたという話。あの頃流行した白いたい焼きも、2022年9月からローソンが売り始めている。どうも、地味に流行が広がり、カステラ系和菓子は広まってきているようだ。そういえば、たい焼きもアレンジ版が定着している。

昭和の頃は、あんこ入りたい焼きしかなかったように思うが、1990年に大阪・梅田へロフトが進出した際、入り口前にアレンジたい焼きのフードトラックが出現するようになった。いち早くアレンジが定着した、カステラ系和菓子と言える。

大阪と言えば、2019年秋に大阪市内を歩き回ったときに、梅田その他の都心でやたら目についたのが「天然たいやき 鳴門鯛焼本舗」の店舗だった。カステラ生地を人間が作るのに「天然」って……と思っていたら、最近は東京の繁華街でも目につく。調べてみると、1枚1枚手焼きする「一丁焼き」を、たい焼きマニアが「天然もの」と呼ぶらしい。同チェーンは飲食ビジネスを営む東大阪のドリームアドバンスが、2009年に立ち上げたブランドだった。

ベビーカステラがじわじわ人気に

実は最近、関西人のベビーカステラ好きぶりをリサーチした。関西では、屋台の定番だったベビーカステラの専門店があちこちに出現し、人気を集めているのだ。スーパーに定期的に出店する屋台・フードトラックや、スーパー内で袋入りで売られるベビーカステラもあるようだ。東京ではお祭りの屋台しか見た記憶がない、と調べてみたら、下北沢の「青いレンガ」という専門店が、1993年にワゴン販売から始めていたことが分かった。

最近は、東京でもベビーカステラが流行しつつあるかもしれない。西武新宿線の都立家政駅前商店街に2022年に京都から、「京都すずなり屋」という専門店が進出。また、今年の2月、西荻窪駅前にフードトラックのベビーカステラ店が停まっているのを目撃した。また、吉祥寺で2020年、バター入りを謳う店も誕生。しかしカステラの材料は、卵・小麦粉・砂糖が基本で、バターが入ればそれはもはやカステラではなく、スポンジケーキだと思うのだが……。関西では10年ほど前から専門店が増え始めたが、東京にも最近その波が来ているようだ。

専門店には、抹茶味やチョコレート味などアレンジされたベビーカステラもある。そうしたバリエーションを揃えるところは、たい焼きや大判焼きと共通している。

「カステラ系和菓子」の発祥は江戸時代

カステラ自体は、南蛮貿易を通じてポルトガルから日本に入ってきた。カステラ系和菓子が出現したのは、江戸時代である。江戸で今川焼き(大判焼き)が売られていた。そうしたおやつが、明治以降に、さまざまな形に発展していく。ベビーカステラの発祥は定かではないが、大正時代にはあったらしい。たい焼きは麻布十番の「浪花家総本店」が1909(明治42)年に創業した折、今川焼きが売れず、鯛の形にしたらヒットしたとされている。ほかにも元祖説はあるが、明治後期からあるようだ。ちょっと違うが、カステラ生地を固く焼いた神戸名物の瓦せんべいも明治の誕生で、東京土産の人形焼きのもとになったと言われる大阪・四天王寺のあんこ入りカステラ系和菓子の釣鐘まんじゅうも、明治時代の1900年に生まれた。

近年、虎屋や八つ橋などの老舗が、洋の要素を組み合わせた新商品を出すなど、正統派和菓子が進化し、「ネオ和菓子」と呼ばれている。おはぎも、あんを絞り袋で絞るなどして味も形も進化したタイプが、各地の専門店で売られるようになって人気である。

カステラ菓子については、戦国時代に紹介されて江戸時代に和のおやつとして進化し、明治から昭和初期にかけて、たい焼きやベビーカステラが登場するなどしてラインナップが増加。そして今、洋の要素を盛り込んだり味のレベルを上げたりしてさらに進化している。いずれにせよ、選択肢が増えるのは楽しい。スイーツの進化が止まらない今、その進化の波に乗って素朴な味のカステラ系和菓子が再発見されているのは、うれしいことだ。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

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