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コラム

【家庭の味で元気回復♪】介護食作りのヒントは「いつものごはん」にアリ!

見た目にも食欲をそそる、おいしい介護食を作って夫の闘病を支えた料理研究家のクリコさん。以前、クックパッドニュースでも紹介した著書の『希望のごはん』は、そんなご夫婦の愛情とごはんの物語です。今回は、著者のクリコさんに介護食作りのコツや工夫についてお話をお聞きしました。

特別なメニューではなく、食べ慣れているものをアレンジ

――クリコさんの著書『希望のごはん』に掲載されている介護食・全レシピはクックパッドでも公開しています。クリコさんの介護食はどれも、オシャレな洋食が多いですよね。いつもこういうオシャレな食事をされていたんですか?

クリコ:わたしがイタリアンの料理教室を開いていたのと、主人もイタリアンが好きだったので、オシャレというより、自然と洋食が多かったですね。

――この「枝豆のポタージュ」も、ご夫婦が普通に元気に暮らしている時から食卓に出されていたものですか?

クリコ:はい、我が家の定番料理でした。

――病気になったから、介護食だから特別なメニューというのではなくて、もともと日常で食べ慣れている食事がやっぱり、「おふくろの味」じゃないけれど、そこに戻る。

クリコ:そうですね。
いつものメニューからあまりにもかけ離れた食事だと、違和感も大きいし、いつもの食事に近い方が安心感がありますよね。わたしは、いつも夫が食べていた「我が家の定番メニュー」の中から、どれを、どうアレンジしたら噛む力を失った夫でも食べられるかと、毎日自分のレシピとにらめっこしていました。
夫は口の中の手術の傷が治っていく過程で食べられるものが変化していったので、夫の状態に合わせて工夫して食事内容を変えられるのも、家庭で作る介護食ならではなのではないかと思います。
 「枝豆のポタージュ」も、いつもビシソワーズ(じゃがいもの冷製ポタージュ)を作っていて、翌日は余ったビシソワーズに枝豆をすり潰したものを入れて、二度楽しむというようなことをしていたんです。
 ポタージュは介護食としても、じゃがいもが入って「とろみ」がつくので飲み込みやすい。それを、もっと短時間で作るにはどうしたらいいかと考えたのが、ピュレ(野菜を茹でて、すり潰したもの)を使う方法です。

いかに短時間で作るか。野菜のピュレが大活躍!

クリコ:以前は、例えば、料理にコクを出す「あめ色玉ねぎ」を作る時も、細かく刻んだ玉ねぎをゆっくり炒める過程がすごく楽しくて、時間をかけて作るのが好きだったんです。キッチンにずっと立っていても全然苦じゃなくて、楽しい。
でも、夫の介護食を作るようになったら、普通の料理よりもひと手間、ふた手間多くかかるので、どうしても短時間で調理する工夫が必要になりました。とにかくテーマは「時短調理」。どんな料理でも、いかに短時間で作るかということを考えるようになりました。

――介護食作りは、それほど手間がかかる。

クリコ:はい。例えば、うどんを茹でるのも、夫にちょうど良いやわらかさにするには27分も茹でるんです。
だから、ビシソワーズを作る場合も、普通はポロネギとじゃがいもを炒めてスープで煮て、ミキサーにかけて裏ごしするんですが、「炒める」「煮る」の工程を省くために、じゃがいものピュレを使います。

――じゃがいものピュレはどう作るんですか?

クリコ:じゃがいもの皮をむいて切って、水にさらして耐熱容器に入れて電子レンジにかけて、マッシャーでつぶします。いろいろな料理に使えるので、時間がある時にたくさん作って小分け冷凍しておきます。あめ色玉ねぎも、はじめに刻んだタマネギを電子レンジで加熱して水分を飛ばせば、普通1時間くらい炒めるところを15分でできます。これも作り置きします。

――著書『希望のごはん』の中では、そのピュレ作りで苦労されたエピソードが登場しますね。

クリコ:はい。退院したばかりの夫は流動食が中心で、舌でつぶせるくらいやわらかければ少し形のあるものでも食べられる、という状況だったので、人参やほうれん草、かぼちゃなど、いろいろな野菜を茹でてすり潰してピュレにして、彩り良く付け合わせとして毎食出していたんです。野菜をたくさん食べてほしかったので。
でも、これがうまくいかない。野菜によってミキサーを使うか、フードプロセッサーを使うか。間違えるとうまく粉砕できない。その見極めがつくまでにすごく時間がかかりました。作業台はピュレが飛び散り、調理具が散乱して、ぐちゃぐちゃに。毎日3食、ピュレを出すのは本当に、つらかったです。あきらめちゃいけないと思うんだけれど、迷路に入ってしまった様な。そこから抜け出すのが大変でした。

――きっと、介護食の作り始めの頃は皆さん、ありますよね。最初は頑張るから、たぶんできるけれど、それが毎日毎食続きますからね。クリコさんは、どうやってそこから抜け出したんですか?

クリコ:初めはこのピュレ作りが大敵だったんですが、そのうちにこのピュレの活用方法がわかって、ものすごく楽しくなったんです。
 ポタージュも、初めから作ると結構な時間がかかりますが、小分け冷凍した野菜のピュレとあめ色玉ねぎがあれば、ピュレ自体はもう加熱済みなので、解凍してスープと一緒にミキサーにかけて裏ごしして、生クリームと牛乳を入れるだけで簡単にできます。
ピュレがあることで時短調理でき、しかも、いろいろな料理の素材になるとわかって、あんなに嫌いだったピュレ作りが大好きになりました(笑)。
小分け冷凍したピュレが可愛くて「私の冷凍ピュレCube」と名付けて(笑)。そのくらい私の介護食はピュレなくしては語れなくなったんです。

冷凍ピュレCubeが勢ぞろい。にんじん、かぼちゃ、ブロッコリー、ほうれん草など、いろいろな野菜を茹でてすり潰したピュレを小分け冷凍しておけば、手間のかかる介護食作りも短時間でできる上に、料理のバリエーションが広がります

冷凍庫に小分けピュレCubeがあれば百人力!

――自分の勝負できる何かが見つかった、みたいな?

クリコ:そうですね! ピュレを使えば時短調理ができる上に、ほかの素材と組み合わせることでたくさんバリエーションが広がるんです。

ポタージュはポテトピュレでビシソワーズ、にんじんのピュレを入れれば、にんじんのポタージュになる。かぼちゃのピュレとダシ汁と西京みそを混ぜればかぼちゃのすり流し、主食のお粥にかぼちゃのピュレを入れれば、かぼちゃのリゾットに、ほうれん草のピュレを入れればほうれん草のリゾットになるという具合です。
野菜の色がきれいで、見た目にもおいしそうに作れます。

介護食は特別なものじゃない。家庭料理の延長線上にあるもの

クリコ:もともと、料理は見た目の彩りが大事だと感じていて。食欲をそそる見た目に作って出すと、夫が「うわあ、うまそう!」と言ってくれる。そう言ってほしくて、介護のごはんでも、おいしそうな盛り付けにもこだわりました。

――「うわあ」と言ってくれるご主人だったんですね。

クリコ:はい。「クリコえらい!」「クリコ、天才」って(笑)。やっぱり、喜んでもらえると嬉しいですよね。

――男性って、なかなか、そういうフィードバックをしない人も多いようで、悶々とする女性も多そうですが…。クリコさんは、誰かのために作る料理というのが、すごくモチベーションになっているんですね。

クリコ:はい。料理って、誰かのために作って「おいしい」って言ってもらえて初めて楽しいものだと思うんです。「おいしい」って言ってもらいたいから工夫もするし、手間もかけられて、作っている時間も楽しくなります。

介護食作りも、最初は大変でしたが、やってみたらいつもの家庭料理の延長線上にあって特別な技術は必要なく、介護食作りならではの注意点はありますが、ごく普通の料理の知識で乗り越えられるものでした。
ミキサーやハンディプロセッサーなどの道具や、できあいの食材を取り入れることもできる。自由な発想で作っていいんだ。そう気づいたら、途中から楽しいものに変わっていきました。そして何より、そこには夫の「おいしい笑顔」が待っていました(笑)。

――今回、お話をお聞きして思ったのは「すべてが日常から始まっていること」。クリコさんのレシピも、日常で作っているものの延長でのレシピでした。
当たり前に過ごしている日常をどう大切に過ごしているかで、ピンチ(ここでは家族の病気) に陥っても乗り越えられる。介護という場面にぶつかった場合は、気合いを入れて大きく変えようとせず、日々の延長線上からまずは介護を少しずつ受け入れてみるといい。そんなことを感じました。
クリコさん、ありがとうございました!

取材協力:日経BP

希望のごはん〜夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー〜
料理研究家クリコ・著
定価(本体1,300円+税)

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