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コラム

家族みんなで毎日のごはんを楽しむ、南極シェフ流「献立」アイディア

【南極シェフはお母さんを休ませたい vo.l2】コロナ禍の外出自粛による食生活への影響は大きく、3食の食事作りにストレスや悩みを感じる方も多いはず。コロナ禍の外出自粛生活と共通項の多い、南極観測基地という閉鎖空間で調理人として活躍した篠原洋一さんに、毎日の料理を楽しむアイディアやコツを伺います。

こんにちは! 南極観測隊に調理人として同行した経験をもつシェフの篠原洋一です。

日本が南極の気象や地質などの観測のために派遣する南極観測隊。僕は第33次、第50次の南極観測隊に調理人として同行し、隊員たちの食事作りを担当していました。

観測基地という閉ざされた空間を限られたメンバーで過ごす南極での生活は、いわば“究極の巣ごもり生活”で、実はコロナ禍による外出自粛期間中の日々とも共通項が多いんです。

前回、連載第1回目では、コロナ禍のストレスフルな毎日を癒やす「料理のチカラ」についてお話ししました。今回は、僕が南極生活で実践した、料理が楽しくなる具体的なアイディアを紹介します。

家族と一緒に楽しむ!献立ボード活用法

日々の食事作りで頭を悩ませることの一つが、献立決め。南極観測隊では、出発前に帰国までの1年4カ月分の食材を調達していました。

よく「食材を購入した出発時に、1年4カ月分の献立を決めていたの?」と質問を受けます。が、事前に献立を決め打ちしすぎると、決めたことが負荷になり、調理人も隊員もメンタルが参ってしまいます。そのため、僕は現地で1週間分ずつ献立を考えていました。

毎日、朝昼晩に数品ずつ、おやつ、夜食も作るとなると、1日で10品以上、1週間で70品を作らなくてはいけない。仕事とはいえ、この品数の献立を考えることは大変でした。

それに、隊員たちには、身体に必要な栄養バランスだけでなく、心の健康保持として食べたいものを食べて癒されてほしい。そのために、僕は次週の献立表を、わざと隊員たちが通る場所に貼り出したんです

献立表を見た隊員たちは「この日はこっちの料理が食べたい」、「この料理って作れる?」と具体的なメニューのリクエストやアイディアを提案してくれるようになりました。

そうすることで、調理する僕は献立を考える手間が省け、隊員たちも食べたいメニューが食べられる、両者にとって満足度の高い食事作りが実現できたんです。

自炊が続くコロナ禍の自粛生活で、毎食の献立を考え、料理を作り続ける人はとても大変だと思います。今はその多くがきっと“お母さん”でしょう。今は働くお母さんも増えているし、家族みんなが食べるご飯なのだから、お父さんも子どもも、家族みんなが食事の用意を担当できるようになったら、もっと毎日の料理が楽しみになると思うんですよね。

そこで提案したいのが、献立ボードの活用です。名付けて、“シャッフルフードメニューボード”! 名前が長いかな(笑)? 

619c922a338c4f626e16f0689e20b182 実際に篠原さんが作ってくださった献立ボード。1週間分の3食(主菜・副菜)、おやつの献立が並んでいる。考える時間がない朝食は定番メニューをセットに、夕食はメニュー名のみで臨機応変に作れるようにと工夫されている

自宅の冷蔵庫などに、1週間分の献立案をマグネットやカードで貼れるボードを置いてみてください。もちろん献立案は完璧でなくていいし、当日に予定とは違うものを作ったり、作れない日があってもいいと思うんです。大事なのは家族のみんなに献立を共有すること

普段、お母さんの頭の中には、ぼんやりと決まった献立がありますよね。でもわざわざ全部語らないし、家族もお母さんが何を作ろうと思っているか、気がついてない。見えていなかった献立の予定をボードで見える化することで、作り手のお母さんだけでなく、家族みんなが料理に興味を持つきっかけになるんじゃないかと思います。

ベースとなるメニューが決まっていることで、子どもでも「この日はこっちのメニューが食べたい」とマグネットを貼り替えてリクエストを出しやすい。リクエストやその日の気分で、カードはどんどんシャッフルしていきましょう。もしくは、最初から献立案を子どもと一緒に考えてみるのも楽しいですね。

在宅勤務が浸透して、以前に比べてお父さんも料理に参加しやすい環境になったご家庭も少なくないはず。お父さん方もスケジュールに余裕のある日があれば、ボードのメニューに自分の名前のピンを刺して、調理を担当してみるのはどうでしょう?

メニューが決まっているので、「何を作ろう?」と悩まないですむのもうれしいポイント。特定の曜日の朝食はお父さんが作る、と決めてもいいですよね。

C96031e8bd6d3c425d71244b5e59bc24 メニュー名だけでなく、家族の名前が書いてあるカードも用意。担当できる食事に自分の名前のカードをピンで刺すことで、家族で調理当番を共有できる

逆に「疲れたから、今日はご飯を作らない!」と言う日があってもいいと思うんです。“エスケープカード”を用意しておいて、たまにはお母さんもエスケープ宣言しちゃいましょう!

今は、外食やテイクアウト、Uberなんかのデリバリーサービスと、食事の選択肢はたくさんあります。普段から頑張っていると、家族も「作らなくていいよ」と言ってくれるものだし、心身ともに疲れる生活こそ、たまの手抜きにも罪悪感を感じることなく、上手に活用したいですよね。

生活の軸である1日3度の食事。食事を作る人に余裕ができると、その雰囲気が家庭内に伝わり、ストレスフルな生活でも家族で楽しく過ごせるように思います。

エンタメ感を演出!週末ごはんのアイディア

南極での生活は、極地ゆえに外部の環境や人から受ける刺激や娯楽がないんです。極限状態の中で精神を安定させるためには、自分から癒しや楽しみを見つけなければいけない

そのため、30人いる観測隊員たちは、通常の観測・調査業務とは別に、何かしらの生活を潤すための係を担当していました。娯楽係、農協係、ソフトクリーム係、ビール係……など係の内容はさまざま。

僕は娯楽係と一緒に、毎週末の土曜日にパーティーや季節のイベントを計画したり、食を通じてみんなで楽しめる機会を作るようにしていました。

毎週末、みんなが調理に参加するしゃぶしゃぶや串揚げ、焼肉をしたり、フランス、タイ、イタリアなど各国の料理が味わえるフードナイトを開催しましたね。

A35da2fbde0a36718c9a34c8672ce2da 篠原さんと共に観測隊に同行した調理人の“相方”が週末のイベントで作ったフレンチのフルコース。テーブルクロスを敷き、普段とは違うお皿やカトラリーを使って、前菜からデザートまでコースで提供した

4月に花見パーティーを企画したこともありました。残念ながら、南極には桜は咲いていません(笑)。でも日本のお花見気分を味わいたいと考えた結果、普段使っているテーブルと椅子を片付け、床にブルーシートを敷いて地べたに座る食事に辿り着きました。

やるならとことん演出しようと、紅白幕やちょうちんを飾って、スクリーンに桜の映像を映すと、少しは日本のお花見会場のような雰囲気に!

F0cf77795ac2ef9587fe1d656b24340d 実際に南極観測隊で行われた花見パーティーの様子

普段より近い距離にあぐらを組んで座って、桶に盛った寿司とカセットコンロで熱々にしたおでんを囲みました。食事はあえて宴会っぽく、紙皿で食べました。そうすると、みんなのビールや日本酒が進むこと進むこと!

会場の演出に負けじと、ワイシャツをちょっと緩めたスーツ姿で、お花見会場の会社員コスプレをして参加していた隊員もいましたね(笑)。

それから、観測隊員から最も評判が良かったイベントが「氷山流しそうめん」。隊員たちが南極の氷山に溝を堀り、氷の溝にそうめんを流して食べました。

調理する側としては、そうめんを湯がいて薬味を用意するだけだから、すごくラクできる(笑)! 大盛況だった理由は、室内ではなく外で食事をしたことでリフレッシュでき、隊員みんなで氷山を掘った一体感があったからだと思います。

イベントとして大事なのは場の演出や仕掛けをどう作るか。手の込んだ料理やレシピよりも、要はアクティビティーとしてみんなで体験できるエンターテインメント性が大事でした。

氷山とはいきませんが(笑)、流しそうめんは自宅でもできるのでおすすめです。ホームセンターで買った竹やパイプでお父さんと子どもで流し台を作って、自宅でも庭やベランダで食べればアウトドア気分が味わえます。そうめんを流す、すくうという非日常の体験は、きっと大人も子どもも楽しめるはずですよ。

夏はおうち縁日もいいかもしれませんね。子どもが作った縁日の飾りを壁に貼って、市販のフランクフルトや焼き鳥、かき氷などを並べれば、お祭り気分が味わえそうです。

例えばお好み焼きも、フライパンで焼いてお皿で出すよりも、家族でホットプレートを囲み、広島風と大阪風のお好み焼きをチームに分かれて作って食べ比べてもいい。お茶漬けやお粥なら、数種類の簡単な具材やだしを机に並べてビュッフェ形式にすることで、自分で盛り付ける楽しみが生まれて盛り上がります。

今はインターネットやSNSで人のアイディアを参考にできる時代。ちょっと検索すればさまざまなアイディアが見つかると思うので、家族みんなで楽しめそうな週末ごはんの演出を探してみるのも手かもしれません。ゆとりある週末ならではの食事を楽しんで、ぜひ家族でリフレッシュしてくださいね。

(TEXT:小菅さちえ)

篠原洋一さん

子どもの頃から食べることと、旅行が好きで板前に。その後、北海道大学の先生から聞いたオーロラの話に心打たれる。その一心で板前を続けて10年、29歳で南極観測隊に調理人として同行し、南極行きを実現。帰国後、豪華客船「飛鳥」に和食の責任者として14年間乗船し、世界9周、約70カ国、200都市を巡る。50歳を前にしてオーロラが見たくて再び南極へ。現在は、横浜関内で旅行・船好きが集まるレストラン&ダイニングバー『Mirai(みらい)』を開店し、経営している。

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