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コラム

品切れ店も!いま話題の中東調味料「ハリッサ」。おいしい使い方を探ってみた

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.17】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

品切れ店も!?人気調味料「ハリッサ」とは?

先日、カルディコーヒーファームへ行ったところ、初老の男性が「ハリッサありますか?」と店員さんに聞く場面に居合わせた。「すみません、今品切れ中でして」と済まなさそうな店員さん。「……そうですか」と、がっかりしながら帰る男性。そんなに人気なのか。◯◯店なら売っていたよ……と思いながらも黙っていた私。実は今回の記事を書くために、◯◯店で初ハリッサ購入をしていた。

ハリッサの人気は、2020年2月15日放送の『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)で紹介され火がついた。とはいえ、まだまだマイナーだからか、写真を撮ってSNSに投稿したら、いろいろな人がコメントをくれた。タンドリーチキンやオムレツに合うと教えてくれた人もいる。

とりあえず、塩味の豚肉とジャガイモの炒め煮に、ハリッサを絡めてみた。醤油とみりんで味つけしたピーマンのきんぴらにも、ハリッサを絡める。わが家では、炒め物をよく2回分つくり電子レンジで再加熱し食べる。2度目に食べる、ちょっと味が落ちた料理にハリッサを絡めると、いい感じのアレンジになることに気づいてしまった私。これからの季節、パワーチャージを含めてヘビロテしそうな予感……。ちなみに中国食材店で売っている水餃子につけると、食べたことはないけれど、中央アジア料理という印象の味わいになった。

いつもおしゃべりに行く近所の古書店でも、居合わせたお客さんの女性が料理好きらしく、初対面なのにハリッサの話で盛り上がった。「代々木上原のモスク、東京ジャーミイに食料品店があって、私はそこで買うんです。中東料理の食材をたくさん売っているので、いつもカバンがいっぱいになっちゃって」と話すその人。私がいろいろな料理につけてみている、と話すと「へえ。私はクスクスを作るときぐらいしか、ハリッサは使ったことがないです」と言う。確かに初めて使ったときは、ラム肉串焼きやフムスにつけたい、と思った。

ブームを受けて、今年2月に売り出したハウス食品のウェブサイトによると、ハリッサはチュニジア生まれで地中海沿岸の国々で使われている合わせ調味料だ。同社の商品には、油脂、トウガラシ、食塩、オニオンパウダー、クミン、コリアンダー、ガーリックオイルと食品添加物が入っている。カルディのものにはパプリカ(ポルトガル産)、ゴマ、砂糖、醸造酢も入っている。

成城石井や紀ノ國屋にも売っている。紀ノ國屋のものは「トマトハリッサ」と、ラベルで独自のブレンドをアピールしていたので、思わず買った。トマトペースト(トルコ製造)、トマトピューレー、食塩、菜種油、ソテーオニオン、ガーリックペースト、乾燥赤ピーマンなどあるが、スパイスについては「香辛料」「カレー粉」、いりゴマとあるぐらい。もしかするとこれは、かなり「日本人好み」にアレンジしているのではないか。

中東調味料「デュカ」が次に来る!?

ハリッサブームに火をつけた調味料博士、12歳の竹田かるぃーとくんは、今年5月29日放送回に再登場。今度は中東の別の合わせ調味料、デュカを推した。再びカルディに探しに行ったところ、なんと売っていた。中身は、カシューナッツ(インド)、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、白ゴマ、コリアンダー、松の実、クミン、食塩。デュカはナッツブレンドのようだ。

オムレツやチーズトーストにかけてみた。パンやクッキーの生地に練り込んでもおいしそう。サラダやジェノベーゼのパスタにも合う。スパイシーが苦手な人でもこれならいけるかも。こちらもブームになるだろうか。

中東の食文化に注目が集まっている

この二つはどちらも中東地域が発祥だが、ここ数年中東料理は存在感を増している。中東料理店自体が日本で少ないこともあってか、あまり大きなブームにはならないが、3~4年前には中東のひよこ豆を使ったコロッケ、ファラフェルが人気になり、最近は地中海原産で長らく中東地域で食べられてきたピスタチオも流行っている。

昔から、『千夜一夜物語』、『アラジンと魔法のランプ』などの物語が親しまれてきた日本では、エキゾチックなイメージを持たれてきた地域でもある。残念ながらここ数十年は紛争が続き、「中東=危険地帯」と連想する場合も多いが、古くから発展し、中世のヨーロッパには大きな文化的影響力も持っていた。後進国だったヨーロッパ地域は、中東から新しい技術や文化を吸収していたのである。

日本にとっては、シルクロードで古代にもつながっていた。ロマンを感じてしまうのは、そういう歴史もあるからかもしれない。「アラブ」と言えば物騒な印象になりがちだが、「アラビア」と言うと途端にエキゾチックに聞こえるのは、そうした歴史が作用しているのだろう。

ハリッサが流行るのは、クミンとコリアンダーの香りがかもし出すエキゾチックさが大きいと思われる。スパイスカレーが2年前からブームになるなど、スパイシーな味わいの人気が高まっているからだ。インド料理の使い方よりマイルドなところも、新鮮かもしれない。

また、コロナ禍で外食や旅行が難しくなったことから、新しい外国調味料でアレンジする人が増えていることも追い風になる。マンネリ化しがちなおうちごはんに変化を持たせたい、外国旅行気分を味わいたいといった気分の人が多いからだ。

ハリッサの場合は、和洋中何でも合わせられる懐の深さもあるだろう。もしかすると、豆板醤のように、冷蔵庫に常備する外国調味料になっていくかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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