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コラム

“究極の巣篭もり生活”を経験した南極シェフが語る。人間関係を円滑にする秘訣とは?

【南極シェフはお母さんを休ませたい vo.3】コロナ禍の外出自粛による食生活への影響は大きく、3食の食事作りにストレスや悩みを感じる方も多いはず。コロナ禍の外出自粛生活と共通項の多い、南極観測基地という閉鎖空間で調理人として活躍した篠原洋一さんに、毎日の料理を楽しむアイディアやコツを伺います。

こんにちは! 南極観測隊に調理人として同行した経験をもつシェフの篠原洋一です。

日本が南極の気象や地質などの観測のために派遣する南極観測隊。僕は第33次、第50次の2回、南極観測隊に調理人として同行し、隊員たちの食事作りを担当しました。

観測基地という閉ざされた空間を、30人の同じメンバーで過ごす南極での生活は、いわば“究極の巣ごもり生活”でした。南極での生活は、実はコロナ禍によって外出がしにくい今の日々とも共通項が多いんです。

篠原さんが南極に行くために乗船した砕氷艦「しらせ」

今回ご紹介するのは、南極の観測基地という閉鎖空間の中で僕が実践していた、人間関係を円滑にするためのちょっとしたコツです。自宅で家族と過ごす時間が増えている今こそ、家庭でもぜひ試してみてほしいなと思っています。

口に出して伝える「ほめ殺し」作戦

南極観測隊は南極へ出発したら、1年4カ月の期間は日本に帰ることはできません。同じメンバーで24時間、狭い基地内にこもって仕事や生活をするため、隊員同士の人間関係を円滑に保つことはとても重要でした。

僕が隊員として参加した2回は無事日本に帰ることができましたが、南極観測隊は隊ごとにメンバーが選出されるため、人が変われば隊の雰囲気もまたガラッと変わります。ですから、隊によっては人間関係がうまくいかずにトラブルが起きてしまったり、時には隊員がメンタルを病んでしまうなんてこともあるそうです。

他人同士が24時間、南極基地という狭い空間で一緒に生活していると、普段なら気にならない些細なことが気になってしまうこともあります。そんな時、お互いに注意ばかりしていたらどうでしょう? ちょっとギスギスしちゃいますよね(笑)。

そこで、33次隊で僕らが実践したのが「ほめ殺し」でした。人間関係を円滑に保つために、隊員みんなで「ほめ殺し作戦をしよう!」と大々的に共有して、他人の凄いと思うことを見つけたら、とりあえず口に出してほめることを徹底しました。

良くないことは注意して改善することも大事なんだけど、それが続いてしまうと、言われた側はネガティブになって、自分の存在意義を感じられなくなってしまう。結果として、両者にとって効率のいい仕事には結びつかないなと思ったんです。

隊の中に、他人と比較してはネガティブ思考になりがちな隊員がいて、何かと「俺ばっかりできない」とぼやいていることが多かったんだけど、周りが本人が気づかない良さや凄さを本人に伝え続けていたら、彼の考え方や発言もだんだん変わっていきました。

僕自身、ほめ殺し作戦を始める前は、ほめられ方によっては馬鹿にされているように感じることもあるかもと半信半疑だったんです。でも実際やってみると、「そんなとこを褒めてもらえるんだ」と新たな発見があったり、ただただ素直にうれしいものでした(笑)。

世間でもよく「ほめて伸ばす」というフレーズが使われますが、僕はこの隊で「ほめる・ほめられる」ことの効果を心底実感しました。自分も仲間も気持ちが前向きになって、お互いが気持ちよく過ごせる、手軽で確実な方法です。

「ダメは1日3回まで」で許し合える雰囲気作り

南極観測隊の人間関係や隊の雰囲気を左右するのは、やはりリーダーの存在です。隊を率いるリーダーが、自分にも周りにも厳しすぎると参加している隊員も苦しくなってくるものです。

だからこそ、リーダーを中心に、お互いに「ダメ」と言わない、許し合える雰囲気作りが大切なんだと学びました。

何か間違いを指摘する時、「ダメ」という言葉は、言いやすいからつい使いがちですよね。でも、大事なのは伝え方。「ダメ」と一言で否定するのではなくて、「もっとこういうふうにしたらいいんじゃないか?」と改善案を提案することがとても大事です。

2度目の越冬を経験した、第50次南極観測隊メンバーとの写真。中央左が篠原さん

家庭内だと、特に親は子どもに「ダメ」と言って聞かせる場面が多くなりがちですよね。そんな時は、家族内で「ダメは1日3回まで!」と上限を決めるのもいいかもしれません。

そういうルールにしておくと、「お母さん、今日もう3回言ったからダメって言わないで!」と子どもが主張することもできるかもしれない(笑)。気軽に出かけたり、ストレス発散がしにくい今の時期こそ、家族で許し合える雰囲気作りができるといいですね。

痛みも経験。成長につながる子どもの料理体験

僕は、特に子どもには何でもダメと言わずに、いろいろ任せてみるのがいいと常々思ってるんです。そう思うようになったきっかけは、小学生の子どもたちに実施した料理教室での経験にあります。

南極観測隊から帰国後、鳥取県の小学校で南極シェフとしての経験を話す講演会をする機会がありました。この講演会の後に、小学3年生を対象に料理教室を開くことになったのです。

子どもたちと一緒に作るメニューは、鳥取名産のらっきょうを使った3品。らっきょうを細かく刻んで混ぜたシャリで作る寿司と、ドライカレーと刻んだらっきょうを春巻きの皮に包んで揚げるサモサ、それからクリームチーズに刻んだらっきょうを入れたおつまみです。

まず、料理教室の最初に、子どもたちに向かって「今日はみんなは生徒じゃない、料理人になってもらいます」と宣言しました。

その後、指を切るかもしれない包丁や、高温の油を扱う際の火傷の危険性を伝え、ふざけるとほかの友達を怪我させるかもしれないなどの注意点を説明し、料理人としての心得を話しました。

説明をすると、子どもたちは小さな料理人として気合が入ったようでした。いざ調理を始めてみると、子どもたちの真剣さにびっくり。ふざけもせず、大人以上の短時間で寿司の握り方をマスターし、予想を上回る完成度の料理を作って驚かせてくれました。僕は「天才なんじゃないか!」とみんなに声をかけて回ったものです(笑)。

中には、寿司の形がいびつになってしまったと嘆く子もいましたが、「形が悪くてもいいんだよ」と伝えると、うれしそうに自分の作った寿司を味わっていました。

子どもたちからは、「面白かった」「家に帰ったらまた作りたい!」という感想のほか、「将来は料理人になりたい!」なんてうれしい声も上がり、僕にとっても記憶に残る素敵な体験になりました。

この時に僕が学んだことは、とにかく経験させてみることの重要性でした。

もちろん料理は危ないこともあるし、注意は必要ですが、指をちょっと切って血が出るくらいなら、痛い思いと引き換えに本当に危険なことを身をもって学べて、それはそれで良い経験なのではないかと僕は思います。

ついつい手取り足取り教えたくもなりますが、グッとこらえて子どもたちが責任感を持って、「やりたい!」と気持ちが盛り上がるような声かけをすることが大事。そして手は出さずに、そばで見守ることが、子どもの成長の機会につながっていくと思うのです。

小学生くらいの時から料理をさせてみることを僕は強くお勧めします。子どもは自然と料理の楽しみを知り、台所に入る癖がついていきます。将来は、お母さんの戦力となって手助けもしてくれるはずです。

僕がシェフを志したきっかけも、幼少期の料理体験からでした。お母さんだけじゃなく、子どもも料理を作る人になったら、きっと毎日の食事がもっと楽しくなると思います!

家族と過ごす時間が増えた今こそ、家族の絆を深めるためにも「料理」というツールを活用していただけたらうれしいです。そこから新しい家族の形ができていくのではと期待もしながら……。

次回は、家庭でもトライしていただけるように、料理教室で子どもたちに教えた「寿司の握り方」をご紹介しようと思います。

(TEXT:小菅さちえ)

篠原洋一さん

子どもの頃から食べることと、旅行が好きで板前に。その後、北海道大学の先生から聞いたオーロラの話に心打たれる。その一心で板前を続けて10年、29歳で南極観測隊に調理人として同行し、南極行きを実現。帰国後、豪華客船「飛鳥」に和食の責任者として14年間乗船し、世界9周、約70カ国、200都市を巡る。50歳を前にしてオーロラが見たくて再び南極へ。現在は、横浜関内で旅行・船好きが集まるレストラン&ダイニングバー『Mirai(みらい)』を開店し、経営している。

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