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コラム

第4次焼きいもブームをきっかけに、さつまいもスイーツ専門店も続々登場!なぜ今「さつまいも」なのか?

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.24】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

さつまいもスイーツブーム到来!ただ意外にも生産量は落ちていて…?

2020年8月14日に三軒茶屋の「OIMO(オイモ)」、同年11月1日に自由が丘「いもこ」、2021年2月に吉祥寺の「芋の上松蔵」、同年3月にザ・ペニンシュラ東京内に「& OIMO TOKYO」、同年9月に麻布十番「望月」など、東京各地にさつまいもスイーツ専門店が次々に開業し、さつまいもスイーツブームが巻き起こっている

扱っているスイーツは、スイートポテトや芋けんぴ、焼きいもなど定番のものを含めて、おしゃれなビジュアルと洗練された味がウリである。

さつまいもは少し前まで昔ながらの素朴な食材で、取り立てて目立つものではなかった。実際、さつまいもの消費は1959年をピークに減り続けている。農林水産省の「作物統計」によればこの年、さつまいもの収穫量は698万1000トン。そこから急降下して1971年には198万7000トンと200万トンを切り、2003年には94万1100トンと100万トンすら切ってしまう。2019年にはなんと68万7600トンまで下がっている。

これまで4回も起きた「焼きいもブーム」

さつまいもの生産量が落ち続けて回復しないのに、さつまいもスイーツがブームとはどういうことか。

実は技巧を凝らしたスイーツが登場する前に、焼きいもブームが起こっていたことが流行の助走になっていた、と私は見ている。

従来の焼きいもは、ホクホクした食感がウリだった。しかし、ねっとりした食感の安納芋の登場が、焼きいものイメージを変えた

一般財団法人いも類振興会の狩谷昭男理事長が『野菜情報』2015年11月号で書いた「焼きいもブームの歴史とその背景」によれば、日本で焼きいもは4回もブームになっている

最初は1804年から明治維新の1868年まで続くブーム。徳川吉宗が18世紀にさつまいもの栽培を奨励し、日本で定着したことが背景にある。第2次ブームは焼きいも専門店が登場した、明治時代から関東大震災にかけて。第3次は高度経済成長期の1951~1970年まで。冬の風物詩として定着している石焼きいもの引き売り屋台が、このとき登場している。

そして今のブームは2003年が始まり。きっかけは流通系の機械メーカー「群商」が開発した「焼き芋オーブン」が1995年に登場したことで、1998年に本格的にスーパーの店頭での販売が広がっていた。2003年には安納芋にも注目が集まり、2007年に安納芋のようなしっとり・ねっとり系食感がウリのべにはるかが登場している。

安納芋の歴史については、主産地の種子島の通販会社「たねがしまや」が同社ウェブサイトで発信している。種子島の安納地区にある鹿児島県農業開発センター熊毛至場で開発され、品種登録されたのは1998年。2014年から、それまで種子島でしか認められなかった栽培地が広がったことも、ブームを広めたと思われる。実際、私が安納芋を知ったのもこの頃だった。

黄金色の安納芋の、さつまいもとは思えないねっとり食感は、濃い味を好む現代人の好みにも合っている。喉が詰まりがちな従来のホクホク系の焼きいもが苦手な人も、これならと手を伸ばすのかもしれない。

さつまいもという食材を再発見したことが、さつまいもスイーツの開発へと発展したのではないか。さつまいもは日本人にとって身近だが、ヨーロッパでは必ずしもそうではなく、洋菓子の材料というイメージがスイートポテト以外なかったことも、これまではさつまいもの洋菓子があまりなかった要因だろう。

そして、さつまいものお菓子といえば、昔ながらの芋けんぴなど素朴で古いおやつの印象があったから、若い人たちが手を出さない傾向があったのかもしれない。何しろ今はおやつといえば洋菓子やアジアン系で、和菓子はあまり人気がないからだ。

だからこそ、そうした古臭いイメージを刷新した専門店の登場は、インパクトが大きかったと言えるだろう。しかも定番スイーツのアレンジなら、安心感もある。実はさつまいもやさつまいもスイーツが好きだった、という人たちも堂々と手を伸ばせるようになったことが、人気を押し上げているのではないか。

スイーツ以外での登場が「さつまいも」今後のカギ

さつまいもは、食物繊維や糖質のほか、加熱しても壊れにくいビタミンCやカリウムなどを豊富に含む。「美容にいい」「ダイエットに向く」と宣伝されることもある。しかしその甘さゆえに、スイーツを日常的に食べられるようになって、食事にあまり甘さを求めなくなった日本の家庭料理から外れていった要素があるのは否めない。私自身も、さつまいも料理はあまり得意とは言えず、ついじゃがいもや里芋を買う傾向が強かった。

ブームが起こっても生産量は低下し続けているのだから、おそらく私のように、さつまいもふだん料理に使わない人は多いのではないか。何しろブームは焼きいも、スイーツとあくまでおやつだ。

しかし、食料自給率問題が取り上げられるときに、自給し続けられる代表食材の一つと紹介されるのがさつまいも。戦時中に多くの人の命を救ったのもさつまいも。江戸時代の日本でも、救荒食として奨励され広まった。日本にさつまいもを伝えた琉球王国では、17世紀初頭にさつまいもを導入したことで人口が増え、豚の飼料にできたことから豚肉食文化が形成されていった。

実は私たちの国の発展と切り離せないさつまいも。さつまいもの生産量の減少は、消費量の減少とともに生産者の高齢化もある。しかし消費が増えそう、となれば若い世代が生産に力を入れ始めるかもしれない。スイーツの次は、日常の食事にどう再登場させるか、そのためのレシピ開発が今後の課題と言えるのではないだろうか

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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