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コラム

実は日本生まれの「フルーツサンド」。大正からコロナ禍の現代まで、愛され続ける理由

【あの食トレンドを深掘り!Vol.26】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

インスタの発達とともに進化した「フルーツサンド」

私がフルーツサンドの存在を知ったのは、昭和の終わり頃。当時一世を風靡していた桜沢エリカのマンガで、主役の女性が「千疋屋のフルーツサンドを食べたい」と言って、デートに行くシーンがあったのだ。私は、「フルーツサンドって何?」「千疋屋って何?」と思った、関西の女子大生だった。

フルーツサンドのブームが始まったのは、2010年代後半。2016年開業のフツウニフルウツなど、テイクアウトのフルーツサンド専門店があちこちにできてきたことが、きっかけだったと考えられる。

その頃はキャベツなどをぎっしり詰め込んだボリュームサンドの流行もピークで、サンドイッチ自体がブームだったが、ボリュームサンドの話題は次第に静かになった。フルーツサンドの人気もやがて落ち着くかと思っていたら、コロナ禍でも次々と新しい店が登場し、テレビでもミカンを丸ごと挟んだものなどが紹介され、さらに盛り上がっている。コロナ禍で、テイクアウトが注目されたこともあるのだろう。

流行が盛り上がる要因の一つは、断面のインパクトが大きいことだ。フルーツサンドの流行の始まりは、「萌え断」の流行と重なる。インスタが一気に広まった2010年代半ば、 「インスタ映え」に続いて生まれた流行語が「萌え断」だった。それを狙ったのか、店が増えたから流行に火がついたのか、いずれにせよ、インスタと共に流行した食べ物の一つが、フルーツサンドだったと言える。ミカン丸ごとみたいな、明らかに映えを狙った専門店が増えるところにも、SNSを通して流行に乗ろうという意図が見え隠れする。

生フルーツを使ったスイーツの変遷

実は、スイーツなどに生の果物を使うこと自体が、21世紀に入って増えている。始まりはおそらく、2000年代に流行し定着したジューススタンド。東京にも出店する「ジューサーバー」は、2000年に京阪電鉄淀屋橋駅コンコースで開業している。関西ではミックスジュースがいまだに喫茶店で定番など、生ジュース需要が大きい地域である。それはもしかすると、梅雨以降の蒸し暑さが半端なく酷暑期間が長いことも影響しているかもしれない。気象変動で東京の夏も過酷さが増したことが、ジューススタンドが広まった要因だろう。

次は、断面から見えるイチゴやキウイなどがかわいい、ロールケーキ。2002年に辻口博啓さんが自由が丘に「自由が丘ロール屋」を開き、売り出した一つで、生クリームを薄く挟むものが主流だったロールケーキのバリエーションが増えるきっかけになった。

パフェが流行したのは、札幌のしめパフェ文化が東京で紹介されて以降なので、2017年ぐらいから。昔は子ども向けのスイーツだったのに、すっかり大人向けに高級商品となってゴージャスになった。

最近は、イタリア発祥のアイスケーキ、カッサータも流行している。フルーツがたっぷり入っていてカラフルなスイーツである。フルーツゼリーも人気が高い。フルーツ大福も流行中。そうした中で、フルーツサンドの流行に火がついている。

フルーツスイーツ人気の立役者、果物屋

フルーツスイーツといえば、果物屋の役割が大きい。フルーツサンドの発祥には二つ説があり、その一つは千疋屋。もう一つは京都祇園にあった果物店「八百文」という説。いずれにせよいつから発売していたかは不明。

日本経済新聞電子版2019年1月19日の記事によると、大正・昭和時代に「東の千疋屋、西の八百文」と言われた有名果物店だったようだ。新宿高野がフルーツパーラーを開いた1926年当時のメニューにフルーツサンドは入っていたそうなので、この頃には流行していたと考えられる。

大正時代から昭和初期にかけては、サラリーマンが増え、家族で百貨店や遊園地に週末お出かけする、現代の原点と言えるライフスタイルが生まれていた。そうした中流ファミリーがフルーツパーラーで、流行のフルーツサンドを楽しんだ可能性はある。

つまり、フルーツサンドには、果物屋が大いに関係している。フツウニフルウツも、果物屋のフタバフルーツがかかわっている。

『@DIME』2020年8月31日配信記事が、フルーツサンドの歴史発掘にあわせてそうした大手果物屋の創業時期についても紹介している。千疋屋の創業は1834年で、フルーツパーラー「果物食堂」を開いたのは1868年。神田の万惣は1846年、新宿高野は1885年、渋谷の西村は1910年。どの店も中核駅の前にもともとあった。今でも駅前に果物屋が残る町があるが、実は昭和期まで、手土産の代表は果物だった。やがて、地価が高い都会の店は、飲食店やスイーツも手掛け発展していった。フルーツサンドは、そうした果物屋の多角経営の一環として誕生したと考えられる。

ところでフルーツサンドが日本発祥、という事実に驚く人がいるかもしれない。しかし、これはとても日本的なサンドイッチである。欧米人の中には、やはり日本生まれのポテトサラダサンドにも、顔をしかめる人がいる。それは、炭水化物+炭水化物の組み合わせが理解できないからだ。

生の果物をパンにはさむと聞き、顔をしかめる欧米人もいそうだ。ヨーロッパでは中世に、生の果物は身体を冷やすので健康に悪いとされていたこともあり、生の果物を食べる文化はあまり発達していない。しかし、フランス出身のアマンディーヌによる人気ユーチューブチャンネル『ボンソワールTV』によると、今はフランスでも自作する人が多いらしい。

一方、日本はもともとおやつといえば果物で、「水菓子」と呼ばれていたほど人気だった。だからこそ、果物の手土産文化も発達し、高級果物の開発も進んだのである。

フルーツスイーツが流行するのは、日本人が生の果物好きだからだが、同時に生の果物を買って食べる文化が衰退してきたからでもある。何しろ果物の消費量は年々減り続けている。中央果実協会の「果物の消費に関するアンケート調査」(2017年)によると、果物を買わない理由のトップ3は値段が高い、日持ちせず買い置きできない、皮をむく手間がかかることである。 高級化は農家の生き残り戦略だが、高い果物は日常づかいしづらい。贈答品としては今はスイーツもたくさんある。消費者が買わなくなる理由はよくわかる。需要と供給のバランスの悪さを補うのが、フルーツサンドをはじめとするフルーツスイーツかもしれない。フルーツサンドなら、トップ3のどれも気にしなくてよいからだ。流行の背景には、果物を食べたいが買うのをためらう消費者心理をうまくついたことがあるのではないだろうか。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』など。

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