食と健康のエキスパート・管理栄養士の藤橋ひとみさんが「腸活」に関する豆知識をお届けする連載。「腸」は美容・健康の鍵を握る臓器。様々な心身のトラブルの解消のために日々の食生活の中で継続して実践できるメンテナンス術を分かりやすくご紹介していきます。
早くも桜が満開で春の訪れを感じるようになりました。スーパーに並ぶ食材のラインナップも変わり、新玉ねぎや春キャベツなどの春の美腸食材を楽しめるのも嬉しい季節です。
その一方で、花粉症で苦しむ方にとっては辛い季節なのではないでしょうか。特に今年は花粉の飛散量も多く、なかなかマスクが手放せないという方も多いようです。
今は春が大好きな私も、数年前までこの季節が大っ嫌いでした。なぜなら、幼い頃からアレルギー体質だったため、花粉症がつらく、季節の変わり目の気候の変化などによってアトピー性皮膚炎もひどくなる時期だったからです。
まさに今、そのような悩みを持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今や全くといっていいほど症状が出なくなりましたが、実は数年前までは私もアトピーに悩まされている患者の1人でした。20歳頃に初めて発症してから、あっという間に全身に炎症が拡がり、人前に出るのが嫌で仕方がなかったほどです。数年、薬や病院の治療を続けても、なかなか症状は改善せず、悪化の一途をたどっていました。
そんなつらい状況を脱却すべく、アレルギーに関する勉強を進める中で着目したのが、腸内環境を整えることの重要性でした。腸と免疫機能が密接に関わっていることを知り、腸を意識したライフスタイルを送るようになったのが、この連載のテーマでもある「美腸ライフ」のはじまりです。腸活ブームが到来する前に1人で腸活をしていたわけですが、私の場合特に大きく変えたのが食生活。全体の栄養バランスを整えた上で、腸内の有用菌が好む食物繊維が豊富な植物性食品を中心とした食事を意識するなど、食事改善を徹底して行いました。すると、徐々にアトピーの症状だけでなく、花粉症の症状までもが改善され、自分だけではなく近くで見ていた家族も驚くほどでした。これが「腸」の世界にどっぷりハマっていくきっかけとなったのです。
しかし、これはあくまでも私個人の経験談にすぎません。ほかにも同じような経験をした人の話も耳にしますが、実際のところ科学的にも腸内環境とアトピーは関連が認められているのでしょうか。現状のエビデンスを調べてみました。
近年有病率が上昇傾向にあることもあり、アトピーなどのアレルギー性疾患と腸に関する研究報告が増えている傾向があります。世界的にも子どもの有病率が20%と成人の有病率(2~5%)よりも高いことから、ほとんどの研究は子どもを対象に行われていました[1]。
はじめに、腸内細菌叢とアトピーの関連を検討した研究があるかどうかを調べてみました。
2018年にコペンハーゲン炎症性皮膚研究グループから公表されたアトピー性皮膚炎における腸内細菌叢の役割を検討した系統的レビュー(※)によると、アトピーに腸内細菌叢が関わっているかどうかは研究によって結果が異なるようでした。いくつかの研究ではアトピー患者はそうでない人と比べて腸内細菌叢の多様性が低いと報告されているものの、同様な関連がみられない研究も多く、現時点ではまだ何とも言えないようです[2]。
最近の腸活ブームの中で注目されている「シンバイオティクス(生きた有用菌であるプロバイオティクスと腸内の有用菌のエサとなるプレバイオティクス)」の摂取がアトピーの予防や治療に有効かどうかも、世界的に検討されています。
2016年に公表された、子どものアトピー性皮膚炎の予防と治療にシンバイオティクスの摂取が有効かどうかを検討したメタアナリシス(※)では、1歳以上の子どもの治療においての有効性が示されていました[3]。加えて、2020年に公表されたプロバイオティクスのみに着目して行われた研究のメタアナリシスにおいても、子どもにおいて発症率の低下や症状の軽減に役立つ可能性があることが示唆されています[4]。
成人においては、2020年に公表されたメタアナリシス(※)で、プロバイオティクスの摂取が症状の改善や生活の質の向上に役立つことが示されています[5]。
ただし、ここでは詳しく説明しきれませんが、研究によって摂取している期間や量などが異なるなど研究結果の解釈には注意が必要です。まだ研究途上の分野でもあるので、今後さらに研究が進んでいった際にどのようなことが明らかになるかが、楽しみですね。
※系統的(システマティック)レビュー、メタアナリシスとは?
系統的レビューは、一定の基準や方法論をもとに質の高い臨床研究を調査し、エビデンスを適切に分析・統合を行うことであり、メタアナリシスは、過去に行われた複数の研究結果を統合するための統計解析のこと。1つの研究の結果だけを根拠に問いに対する結論を出せないため、科学の世界ではこれらの手法を用いて複数の研究結果を中立的にまとめて、現状のエビデンスを整理していきます。
「腸活」は定義があいまいなので、この問いに答えるのはとても難しくはありますが、今回調べた論文からは、腸活の手段の1つとして注目されているプロバイオティクスやプレバイオティクス(シンバイオティクス)の摂取が役立つ可能性があることが見えてきました。ただし、腸内細菌叢との関連は明らかではないなど不明瞭な点が多く、科学的にはまだ「アトピーに腸活がいい」とは言い切れない現状があると言えるでしょう。
今回、文献を調べてみる中で、アトピーの予防や治療に腸が関係するのかを様々な視点で検討している研究が毎月のように発表されていることがとても印象的でした。
まだ研究の数が少なくはありますが、そのほかにも発酵食品に関して調べている研究や、母親の腸内環境や分娩方法(普通分娩/帝王切開)の影響を調べている研究があったりと、興味深いものがたくさんありましたので、今後頃合いをみてご紹介できればと考えています。
〈参考文献〉
[1] Weidinger S, Novak N. Atopic dermatitis. Lancet Lond Engl 2016; 387: 1109–1122.
[2] Petersen EBM, et al. Role of the Gut Microbiota in Atopic Dermatitis: A Systematic Review. Acta Derm Venereol. 2019 Jan1;99(1):5-11.
[3] Chang YS, et al. Synbiotics for Prevention and Treatment of Atopic Dermatitis: A Meta-analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Pediatr. 2016 Mar;170(3):236-42.
[4] Jiang W, et al. The Role of Probiotics in the Prevention and Treatment of Atopic Dermatitis in Children: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Paediatr Drugs. 2020 Oct;22(5):535-549.
[5] Umborowati MA, et al. The role of probiotics in the treatment of adult atopic dermatitis: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Health Popul Nutr. 2022 Aug 17;41(1):37.
(すべて2023年3月22日閲覧)
※ 記事のメイン写真は記事をイメージして選定させていただきました。
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株式会社フードアンドヘルスラボ 代表取締役。商品開発やレシピ開発、コラム執筆やメディア出演、コンサルティング等、幅広く活動中。同時に、東京大学大学院にて医学博士取得を目指し、栄養疫学の研究に取り組んでいる。豆腐や豆乳、ソイオイル、味噌など、大豆関連の資格を多数所有し、大豆や腸活分野の専門家として活動する中で、最近は日本人が不足しがちな食物繊維の宝庫である「おから」に注目し、有効活用できる方法を広げる活動に注力している。著書「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ(ベストセラーズ)」
●所有資格
管理栄養士、調理師、製菓衛生師、豆腐マイスター、食育豆腐インストラクター、豆乳マイスタープロ、おから味噌インストラクター、ソイオイルマイスタープロ、おから再活プロデューサー、インナービューティープランナー、発酵食品ソムリエほか