料理僧・青江覚峰(あおえ かくほう)さんが提案するのは、誰でも簡単に作れる「一汁一菜のお寺ごはん」。実際にお坊さんたちが食べている、肉や魚を使わない一工夫あるレシピを教えていただきました。からだと心がほっとゆるむ、優しい味わいのお料理ですよ。
お寺のごはんでは、基本的に肉や魚は使いません。
そんなことくらい知っている! バカにしないでくれる? と思うかもしれませんね。
では、野菜の中にも使ってはいけないものがあることをご存知でしょうか。
実は、玉ねぎやにんにく、ニラ、らっきょう、野蒜といった、くせの強いものは使うことができないのです。
理由ははっきりとしませんが、お寺での修行という共同生活の中で、匂いの強いものを食べると臭くなって迷惑をかけるからだとか、精のつく食べ物で余計な煩悩を刺激しないようになど、諸説あるようです。
また、上記のネギ属の野菜に含まれる硫化アリルという物質が、催眠効果を持っていると指摘する人もいます。
いずれにしろ、使えない食材のある中で料理を作っていくと、出来上がるものが単調にならないように、様々に知恵を絞るようになってきます。制限があるゆえの工夫です。そこで誕生したのが、もどき料理。お寺でも使ってよい食材を用いながら、肉や魚に似せた料理を作るのです。
もどき料理には、つくねやうなぎ、魚にとんかつなど、いろいろな種類があります。
今回は比較的簡単にできる、鶏の唐揚げもどきをご紹介します。鶏肉の代わりに高野豆腐を使い、鶏の油の代わりにごま油を加えることで、肉に似た食感と、噛みしめたときにジュワッとくる肉汁のジューシーさを再現しています。
高野豆腐…1枚
片栗粉…大さじ2
揚げ油…適量
【A】
おろし生姜…小さじ1
しょうゆ…大さじ1
酒…大さじ1
みりん…大さじ2
1.高野豆腐は水につけて戻し、水気をぎゅっと絞って12等分に切る。
2.ボウルにAを入れ、よくまぜ合わせ、1を入れて軽くもみながら染み込ませる。
3.2に片栗粉をまぶし、160度の油でカラッと揚げる。
落花生(殻から出し、薄皮をとってゆでたもの)…100g
昆布出汁…300cc
薄口醤油…大さじ2
1.落花生の殻と薄皮をむき、たっぷりのお湯で茹で、冷めてから昆布出汁、醤油を合わせてミキサーにかける。
2.1を中火にかけ、焦げ付かないように木べらでかき混ぜて、沸騰直前まで温めてから火から下ろし盛り付ける。
高野豆腐は、寒い日に豆腐を外へ出して放置しておき、気温の下がった夜の間に凍り、昼になって解け、また夜になって凍るという工程を何度も繰り返すことで、豆腐の水分が抜けてカチコチになった状態のものです。
高野豆腐という名前の由来は、凍り豆腐とも、高野山で僧侶が作ったから高野豆腐であるとも言われています。
今回のお汁は、落花生のすり流し。落花生をゆで、昆布出汁と合わせてすり鉢で潰し、お好みの味に整えただけという、非常にシンプルなもの。落花生のコクのある風味が存分に楽しめます。
寒いこの時期、タンパク質と脂分をしっかりとって、体力をつけるよう心がけましょう。
1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。
ユニット「料理僧三人衆」の一人として講演会「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」などで料理をふるまう。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)、『お寺のおいしい精進ごはん』(宝島社)など。
【公式HP】https://www.ryokusenji.net/kaku/