食と健康のエキスパート・管理栄養士の藤橋ひとみさんが「腸活」に関する豆知識をお届けする連載。「腸」は美容・健康の鍵を握る臓器。様々な心身のトラブルの解消のために日々の食生活の中で継続して実践できるメンテナンス術を分かりやすくご紹介していきます。
5月の大型連休が明け、梅雨の季節が近づいてくると、なんとなく気分が落ち込む、仕事などに集中できない、眠れない…、といったメンタル面でのトラブルを生じる方が多いようです。これは一般的に「五月病」と呼ばれるもので、新しい環境への適応がうまくいかず、ストレスが原因で心身に不調があらわれることを言います。「五月病」からうつ病などの精神疾患に移行するケースも少なくはないため、なるべく早い対処が必要です。今回は、「五月病」のシーズンを元気に乗り切るために、今すぐできる対策をお伝えしたいと思います。
この時期に起こる心の不調を「五月病」と言いますが、実は正式な医学用語ではありません。病院では「適応障害」「軽度のうつ」と診断される場合があるとのこと。特に、新年度に就職や就学、異動、引越しなど大きな変化があった方が、環境の変化に伴うストレスによって心の不調に陥る場合を巷で「五月病」と呼んでいるようです。
すでに症状が出ている場合は、原因となっているストレスの除去のために、環境を調整したり、認知行動療法や問題解決療法を用いて本人の適応能力を高めたりするなどのアプローチ、そして場合によっては薬物療法が必要となりますが、そのような状態になる前に少しでも毎日の生活の中で意識した方が良いことがあれば、知っておきたいですよね。(出典1、2参照)
意外と知られていませんが、心の不調にも食生活や腸内環境が関わっていることが明らかになってきています。食生活は腸内環境に影響を与えますが、実は、腸と脳もお互いに作用しあっているのです。これは「腸脳相関」と呼ばれるもので、分かりやすい例を出すと、緊張するとお腹が痛くなって下痢をしてしまうなど、ストレスが原因で腸内環境が悪化してしまうのも、この作用の影響と考えられています。
また、うつ病の原因の1つに、幸福物質と呼ばれている神経伝達物質の1つ“セロトニン”の分泌低下が挙げられています。セロトニンは、アミノ酸の一種である“トリプトファン”を原料に作られるのですが、このトリプトファンの代謝が腸内環境に関わっていることが明らかになっています。腸内環境が良い状況だと、トリプトファンの代謝が促進されるというメカニズムが解明され始めているため、最近では、心の健康と腸の関係に一層注目が集まっています。(出典3、4参照)
新生活による環境の変化の他にも、新型コロナウイルスの影響により、おうちで過ごす時間が長くなり、うまくストレスケアできていない方も多いのではないでしょうか? そんな今だからこそ、自分なりのストレス解消法を見つけるだけでなく、体の内側からのケアも意識してみましょう。
自粛生活中、レトルト食品やインスタント食品など手軽な加工食品ばかりを食べて栄養が偏ってしまうと、腸内環境が悪化する原因になりかねません。美腸ライフの基本は、腸内の善玉菌となる生きた善玉菌と、そのエサとなる食物繊維とオリゴ糖を食生活で取り入れることです。特に日本人が不足しがちな食物繊維を摂るためには、野菜や果物、きのこ、海藻、豆類を積極的に取り入れるだけでなく、間食にはスナック菓子や砂糖たっぷりの甘いお菓子ではなく、ナッツやドライフルーツを選ぶようにしましょう。また、善玉菌を含む発酵食品のヨーグルトやチーズ、キムチ、納豆などを摂るのもおすすめです。(出典5参照)
腸は、便秘などの体の不調や生活習慣病などの疾病だけでなく、心の不調にも関わっている、心身の健康を保つためにとても重要な臓器だなんて、驚きでしたでしょうか? この機会に、ものすごいパワーを秘めている「腸」に改めて目を向けて、美腸ライフを実践してみてくださいね。
〈出典〉
1. 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト|うつ病」
2. 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト|適応障害」
3. Carabotti M, et al. The gut-brain axis: interactions between enteric microbiota, central and enteric nervous systems, Ann Gastroenterol. 2015 Apr-Jun; 28(2): 203–209.
4. Maes M, et al. The new '5-HT' hypothesis of depression: cell-mediated immune activation induces indoleamine 2,3-dioxygenase, which leads to lower plasma tryptophan and an increased synthesis of detrimental tryptophan catabolites (TRYCATs), both of which contribute to the onset of depression. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Apr 29;35(3):702-21.
5. 厚生労働省「e-ヘルスネット|腸内細菌と健康」
(全て2020年5月10日 参照)
I’s Food & Health LABO.代表。フリーランス管理栄養士として、商品開発やレシピ開発、コラム執筆やメディア出演、コンサルティング等、幅広く活動中。同時に、東京大学大学院にて医学博士取得を目指し、栄養疫学の研究に取り組んでいる。大のお豆腐好きが高じて、豆腐マイスターの認定座学講師として、国内外で日本の豆腐の魅力を伝える活動をしているなかで、その原料である大豆自体への興味が深まり、大豆関連の資格の制覇を目指し、学びを深めている。
近年は特に、豆腐を作る際に同時にできる「おから」に注目し、日本人に必要な食物繊維の宝庫でもある「おから」を、有効活用できる方法を広げる活動に注力している。6月1日に「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ(ベストセラーズ)」が発売予定。
●所有資格
管理栄養士、調理師、製菓衛生師、豆腐マイスター、食育豆腐インストラクター、豆乳マイスタープロ、おから味噌インストラクター、ソイオイルマイスター、おから再活プロデューサー、インナービューティープランナー、ほか