あつあつごはんと、おばあちゃんの「キュウリのたまりづけ」【数字のないレシピたち Vol.12】

あつあつごはんと、おばあちゃんの「キュウリのたまりづけ」【数字のないレシピたち Vol.12】

決められた材料、分量、調理法などない。何にも縛られず、自分だけの「美食」を味わうために作る料理があってもいい。それはきっと、心満たす色鮮やかな時間をくれるはず。出張料理人・ソウダルアが綴る、人と料理と時間と空間の物語。

胡瓜のお漬物みたいなやつ

つくってあげたくなった。
食べてほしくなった。

おばあちゃんちにいくといつも食卓にのっていた胡瓜の漬物みたいなやつ。
似たようなものはどこにでもあるけれど、どこにもないあの胡瓜をつくりたい。

いつも通りかかるけれど、なんとなく気がひけて入ったことのなかった八百屋さんの軒先に、がさっと胡瓜が積まれていた。
季節なのか、終わらない梅雨のせいなのか、なんだかとっても元気いっぱいに見える。

ねえ、おばあちゃん
あのいっつもつくってくれてた胡瓜のお漬物みたいなやつをつくってみたいんやけど、どうやってつくるん?

キュウリのたまりづけの事やな?
砂糖、醤油、みりん、酢に鷹の爪入れて、沸騰させて、熱々の中に切った生のキュウリ入れて、冷めるまでそのままにしとくんや
ほんでまた、キュウリとつけ汁を別にして、つけ汁を煮立て熱々の中にキュウリを戻し、冷めるまでおいとくんや
それを3回やる

想像以上にめんどくさいレシピに気が滅入りつつも、こんなことをしてくれてたんだな、というありがたさと、久しぶりに聞くおばあちゃんの声がなんともやわらかで気持ちいい。

あれはじいさんが好きやったんよ
わたしはあんまり好きやなかったんやけど、気がついたらないとさみしいなって、ずっとつくっとったんや
あんたもそっちで好きなひとでもできたんか?

んー
ようわからへん

ほんとうによくわかんないので、そう答えると、電話口で嬉しそうにふふふっとおばあちゃんが笑っている。

ああ
あとな、生姜の千切りをたっぷり入れるんやで
男の人はほっとくと変なもんばっかり食べよるからな

まあ、そんなんちゃうけど
とりあえず、つくってみるわ
ありがとう

さてさて、はっきりいってめんどくさいけど、やってみるか。そもそも、わたしが食べたいし。

フライパンに言われたとおりのものを入れて火にかけておく。
胡瓜を切って、生姜を千切りにすると、沸いたところにほうりこんでほっておく。

せっかくだから、お米を炊いておこう。
あつあつのごはんの上に胡瓜のあれをのせて食べれば、きっと最高。

しかし、まあ、たくさんある。 勢いあまって、フライパンいっぱいにつくったけれど、どうしようか。
と言いつつ、実はどうしたいかはきまっている。
あの人といっしょに食べたい。
どうやって?

うちの家に大量の胡瓜があるんで食べにきませんか?

いやいや、意味がわかんない。

おばあちゃんから、いっぱい送られてきたんで食べてくれません?

と言って、会社で渡してみる。
部署も違うのにどうやって?
そもそも、ひと目が気になる。

ぴぴー ぴぴー

炊飯器が鳴る。
そんなに時間がたったの?
まあ、せっかくだ。一人で食べちゃおう。

あつあつのごはんを一口、おおきめにほおばって、胡瓜も口にほうりこむ。

ぱきっ、ぽりっとした食感が気持ちいい。
お米とあわさっていくと止まらなくなる。

ぱきっ ぽりぽり むしゃあ

お茶碗一杯を胡瓜だけで食べたのは初めてだ。
つくって間もないので生姜がすこし辛いけど、明日にはいい感じになってるんだろうか。

雨上がり、きれいな夕日がベランダのすき間から覗いている。

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ごちそうさま。

いただきますって言い忘れてた。
一人だと言い忘れちゃうんだな。

あのバーでも行ってみようかな。
あの人がいるわけもないけど。
あのハイボールを飲みに。


ソウダルア(出張料理人/イートディレクター)

98b27bdf40a47a8b70393cba77138563 大阪生まれ。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道がそのまま仕事に。“美味しいに国境なし”を掲げ、日本中でそこにある食材のみを扱い、これからの伝統食を主題に海抜と緯度を合わせることで古今東西が交差する料理をつくる。現在は和紙を大きな皿に見立てたフードパフォーマンスを携え、新たな食事のあり方を提案中。


【フードパフォーマンス映像】
https://vimeo.com/275505848

クックパッド編集部

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