【“クックパッド芸人”藤井21のソロ飯 vol.39】クックパッド芸人を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。一人(ソロ)で作って一人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。
あれはもう遠い昔の記憶、まだ子どもの頃の思い出。
日が西に傾いても蒸し暑さが残る夏の日の夕暮れ時。物干し竿が片隅にある庭に七輪を持ってきて、父親がうちわを片手に炭を起こす。日もだいぶ沈んで薄暗くなってくると、倉庫の片隅に眠っているテーブルと椅子を出し、真ん中に七輪を置いて焼肉をする。夏になるとたまにやるこの小規模のBBQが好きだった。
別に良い肉じゃなくて、スーパーで売っている普通の肉だし、庭の景色はいつもと変わらなくて蚊に足を刺されて痒いし、暗くなってくると段々肉の焼け具合が見にくくなってきて、軽く焦がしたりするけど、なんだかそれでもあの焼肉がすごくおいしかった。
体にぬるっと張り付くような蒸し暑さも、Tシャツにこびり付いた肉の焼ける匂いと炭焼きの煙の匂い、それに蚊取り線香の匂いも、全部がおいしく感じる要素だった。
正直、どんな味だったか細かいことは思い出せないけど、あの“外で食べる”という非日常感がすごくおいしく感じさせたのかもしれない。
外で食べるという非日常感は飯を美味くする。
そう、例えば山で自然の空気を吸いながら食べるカップラーメンは、家でだらだら食べるカップラーメンよりおいしいし、祭りの出店で買って道の隅にしゃがんで食べる焼きそばも美味い。海水浴で照りつける日差しの中呑むビールも最高だし、河川敷のBBQももちろんそうだし、お花見の弁当も全部、外で食べたり飲んだりするってだけで数倍おいしく感じる。
外で食べるからこそ、いつもの飯も美味い。
そんなわけで、近年のキャンプブームにまんまと乗ってビギナーソロキャンパーとなった僕は、土鍋一つ携えてデイキャンプこと「外で食べる飯」に勤しむわけだ。
某県某所。川のせせらぎが聞こえ、柔らかな木漏れ日が眩しい。小さな焚火台に拾ってきた小枝を組んで火を起こす。段々と火が大きくなってきたら太い枝を焼べていく。火はずっと見ていられる。焚火を見ているだけで、何時間でもぼーっとしていられる気がする。キャンプ好きがみな、焚火の魅力に取り憑かれる気持ちがなんとなくわかる気がする瞬間だ。
太い枝が炭になって火が落ち着いてきたら、主役の鍋を乗せる。何となく炭を枝でイジりつつじっと待つ。ただただ待つだけなのに、家で料理している時のそれとは違う時間が流れる。これも外で食べる魅力だ。
トムヤムクンの酸味と辛味に、ジューシーな脂のモツが美味い。醤油でも味噌でもなく、これからはもつ鍋はトムヤムの時代来るな、なんて思いながらひとり自然の中で食べる飯はやっぱり美味いなと感じる。
しっかりと〆の素麺まで食べたら、食後の余韻を感じつつ、残った炭が焼けるのを眺める。後片付けをしてゴミをまとめて持ち帰る。
やっぱ外で食べる飯は美味いよな、なんて思いながら家路に着くとあの匂いがする。服に付いた炭焼きの煙のあの匂いだ。記憶の片隅にある夏の日の庭をふと思い出す。
料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。
>>オフィシャルブログ「良い香りのある生活」