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コラム

消えつつある給食の”ソフト麺”。今でも子どもに根強い人気「麺給食」の昔と今に迫る【#給食今昔物語】

学校生活の中での楽しみのひとつでもある給食。思い出に残るメニューは人によって違っていて、麺ひとつとっても世代別で大きな違いがあります。みなさんは麺給食といえば何を思い浮かべますか? パスタやうどん、ラーメンでしょうか。30代以上の人にとっては、給食ならではの「ソフト麺」が印象深いかもしれません。今回は“昭和・平成・令和の給食麺”を深掘りしてみます。

ソフト麺誕生!学校給食に旋風を巻き起こす⁉️

学校給食といえば脱脂粉乳とコッペパンが主流だった昭和30年代。当時の給食を知る人たちに話を聞くと、「おいしくない」「パサパサしていた」という感想も多く、食べきれずに残す子どももいたといいます。

昭和40(1965)年の麺給食「ソフト麺のカレーあんかけ、牛乳、甘酢あえ、くだもの、チーズ」(提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター)

そんなときに登場したのがソフトスパゲッティ式めん、通称“ソフト麺”です。その歴史は米飯給食よりも古く、初めてソフト麺が作られたのが昭和35(1960)年頃。昭和40(1965)年からは東京を中心に関東や東海地方、そして四国、中国地方などの一部地域の給食で出されるようになりました。ソフト麺を給食に取り入れることでどんなメリットが生まれたのでしょう。公益財団法人静岡県学校給食会の石上達也さんにお話を聞きました。

「ソフト麺は学校給食用のパンと同じ強力粉を使って作るため、コストを抑えながら給食のバリエーションを増やすことができるというメリットがありました。また、個包装されているので一人分の分量がきちんと提供できて、配布もしやすい。さらに、和風・洋風どちらの汁やソースにも合うというよさもありますし、あんかけをかければ中華風にもアレンジできます。その使い勝手の良さから、多くの学校で提供するようになったのかもしれません」(石上さん)

麺給食の激減でソフト麺がピンチ!?

パン給食に飽きていた子どもたちにとって、ソフト麺はまさに救世主。瞬く間に人気メニューとなっていきました。しかし、かつては人気給食上位にランクインしていたソフト麺も今となっては“昔懐かしの味”となり、給食から消えつつあります。

その理由はいくつかありますが、大きな原因は「米の普及」と「麺製造業者の減少」といわれています。戦後間もないころと状況が変わり、昭和40年代に入り国内の農業生産力が順調に回復すると、米が余るようになりました。そこで国内の米の消費を増やす方法のひとつとして普及していったのが米飯給食です。日本の伝統的な食生活である米を積極的に給食に出して欲しいという国の意見と米の食料自給率の問題があわさり、米飯給食の回数が増え、パン給食や麺給食は減少したと考えられています。

さらに、ソフト麺はうどんや中華麺とは製造方法が異なるため、請け負う業者が限られてしまうことがソフト麺減少に拍車をかけている、と石上さんは話します。

「ソフト麺は強力粉と食塩水をこねて麺を作り、それを蒸して表面を糊化させてから茹でていきます。その後、完成した麺を個包装し、静岡県では30分ほどかけて80度の加熱殺菌処理を行います。それを温かいまま子どもたちのもとに届けなければいけません。そういった手間から東京都では平成27(2015)年に学校給食会において規格外と判断されています。
また、加熱殺菌をするための殺菌庫が必要なため、その設備のある業者しかソフト麺は作れません。決して不人気でソフト麺が給食から姿を消しているわけではなく、設備やコストの問題で製麺業者の数が大幅に減少していることが、ソフト麺給食が減っている大きな要因ではないでしょうか。さらに製造ができたとしても、遠隔地の学校へ給食の時間までに業者が配送するのは困難という問題もあります。静岡県では全盛期は静岡県学校給食麺協同組合に所属する麺業者が48社ありましたが、今は15社になりました。そのため、残っている業者への依存度も高くなってきてしまうというのが実情です」(石上さん)

実際、ソフト麺を給食で提供しなくなった地域はいくつもあります。公益財団法人福岡県学校給食会の井上知さんは、福岡県でソフト麺を提供しなくなった経緯をこう語ります。

「ソフト麺を提供しなくなったのは、製麺工場がなくなったことが理由です。平成6(1994)年頃までは県内で2ヶ所、製麺工場がありました。しかし、作るのに手間がかかる上、運搬も自分たちでやらなければならず、製造を断念されました。その結果、福岡県では平成11(1999)年にソフト麺の給食提供を終了しました。私は福岡県出身ですが、ソフト麺を給食で食べた記憶がありません。おそらく、福岡県の中でも製麺工場が近いなど限られた地域でのみ、ソフト麺が給食に出されていたのだと思います」(井上さん)

全国のソフト麺事情。今後はどうなる?

そんな状況の中でも静岡県をはじめ、ソフト麺の提供を現在も続けている地域があることがわかりました。北海道、山形県、福島県、神奈川県、茨城県、群馬県、埼玉県、新潟県、富山県、福井県、長野県、岐阜県、愛知県、滋賀県、島根県、岡山県ではソフト麺を出している学校があるといいます(全国学校給食会連合会調べ)。滋賀県では一般消費者からの考案レシピを募集する「近江ソフトめんレシピコンテスト」(滋賀県製麺工業協同組合主催)も開催されるほど、今もソフト麺は県民に愛されています。

現在もソフト麺を給食で提供している17道県

「私ども静岡県では今も麺給食の日にソフト麺を供給していますが、子どもたちからの人気も非常に高く、残食が少ないことも報告されています。月に1回、もしくは2回くらいでめったに出ないから好評なのかもしれませんが、それでもソフト麺の日は喜んで学校に行く子どももいます。ただ、ソフト麺を継続的に製造し続けてくれる業者が今後もいるかというと…5年後、10年後に今と同じように提供できるかはわかりません。特殊な設備が必要ですし、新たに設備投資をして、ソフト麺製造を始めるところは少ないと思います。かなり厳しい状況と言わざるを得ません」(石上さん)

ソフト麺は過去のもの?麺給食はラーメンの時代へ

ソフト麺は全国的なメニューではないため、住む地域や年代によっては食べたことがないという人も。ソフト麺を提供していない都道府県ではどんな麺料理が提供されているのでしょうか。東京・文京区の小学校に勤務する、管理栄養士の松丸さんに麺給食事情について聞いてみました。

「今はパスタやうどん、ラーメンを提供することが多いです。圧倒的人気は味噌ラーメンですね。だからといって毎回ラーメンでは栄養に偏りが出てしまうので、この3種の麺を順番に出しています。パスタは茹でたあとにオリーブオイルで和えておけばくっつく心配がありません。うどんは家でもよく使う冷凍うどんを、釜やオーブンのスチームで解凍するので使い勝手もよくて便利です。ラーメンも焼きそば麺みたいな蒸し中華麺を使うので伸びる心配がありません」(松丸さん)

子どもに一番人気の「味噌ラーメン」(提供:松丸さん)

回数が少ないからこそおいしい味を!

文部科学省からの通達で週3回以上の米飯給食が推進され、麺給食の回数は減少。多くの学校で約10日に1回の頻度になっています。給食で麺を食べる機会が減ったからこそ、その貴重な麺の日には子どもたちにおいしい麺料理を作ってあげたいと松丸さんは話します。

「麺給食の日って子どもたちがすごく喜ぶんですよ。でも、麺ならなんでも喜ぶというのは大間違いで、好きだからこそおいしく作らないといけません。麺の日は塩分が多くなったり、野菜が少なくなりがちなので、野菜をスープに溶かして多めに入れたり、豚骨出汁を使ってはいるけど豆乳で色付けをして豚骨風のさっぱりしたラーメンにしています。自分がお店で食べておいしかったパスタをアレンジして作った『木こりのボロネーゼ』は子どもたちにも好評でした。アーモンドやきのこを加えて食感が楽しくなるようにしています」(松丸さん)

松丸さんのオリジナルパスタ「木こりのボロネーゼ」(提供:松丸さん)

「ご当地麺給食」も好評

平成、令和と時代が進むにつれて多様化してきた麺給食。最近は定番の麺料理だけでなく、ご当地の麺を出している学校も全国に多くあります。地産地消が推進され、その土地の食材を取り入れた麺料理を出す学校も増えてきました。

東京・青ヶ島の海水塩「ひんぎゃの塩」を使った塩たまうどん(提供:松丸さん)

「三重県では『伊勢うどん』、岩手県盛岡市では『じゃじゃ麺』を給食に出している学校もあると聞きました。僕の学校でも郷土料理を意識したメニューを出していて、八丁味噌を使った名古屋の『味噌煮込みうどん』や京風の出汁を使った『きつねうどん』を作って、郷土料理に触れる日を設けています。思いのほか好評だったのが、東京・青ヶ島産のひんぎゃの塩で作る『塩たまうどん』。自分たちが住んでいる土地のものを使っているということもあってか、東京都産の食材で作る麺料理はみんな喜んで食べてくれます」(松丸さん)

米飯給食普及の影響で給食に登場する回数は減ったものの、昔も今も麺給食の人気は健在。むしろ次々に新しい麺料理が登場し、ソフト麺が登場した昭和30年頃に比べ、麺料理のバリエーションもかなり豊富になっています。

現在もおはる食品のネット通販などでソフト麺は販売されている(提供:株式会社おはる食品)

思い出の麺料理がソフト麺からラーメンや他の麺料理に変わりつつあるとはいえ、ソフト麺も完全になくなったわけではありません。学校給食で食べる機会は減ってきていますが、昭和の懐かしグルメとして提供している店舗があったり、ネット通販などでも手に入れることができるため、家庭で楽しんでいる人もいるそうです。今食べてみると子どものころとはまた違った発見があっておもしろいかもしれませんね。

(TEXT:河野友美子)

取材協力:公益財団法人静岡県学校給食会、公益財団法人福岡県学校給食会、給食栄養士 松丸奨

※本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連携企画です

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