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コラム

給食牛乳は「直飲み」する時代へ!脱脂粉乳からはじまった“給食牛乳”の独自の進化に迫った【#給食今昔物語】

昨年末や今年の3月、牛乳廃棄が問題になり「牛乳を飲もう」というキャンペーンが全国で広がりました。いずれも学校が休みに入る時期と重なっており、「給食牛乳」が牛乳消費に大きく影響していることに気づいた人も多いのではないでしょうか。今回はそんな給食牛乳の歴史を振り返ります。話を伺ったのは、学校給食研究改善協会の村上松二さんと、学校給食栄養士としてメディアなどでも多く活躍している松丸奨さん。脱脂粉乳から牛乳へと切り替わった背景と、今の給食牛乳事情についてそれぞれにお話を聞きました。

「脱脂粉乳」の時代を振り返る

給食牛乳の歴史を辿ると、その始まりは昭和21(1946)年まで遡ります。60代以上のほとんどの人が経験したであろう「脱脂粉乳」が始まったのが、ちょうどそのころでした。

戦後の給食の献立といえば、脱脂粉乳とコッペパンの組み合わせがほとんど。なぜ脱脂粉乳が飲まれていたのかというと、第二次世界大戦後の食糧不足の日本にアメリカの民間団体から救援物資「ララ物資」で提供されたことが大きな要因のひとつといわれています。さらに、子どもの成長に必要なカルシウムやタンパク質をしっかり摂取できることから、全国で飲まれていました。

そんな栄養価の高い脱脂粉乳ですが、次第に学校給食から消え、牛乳に切り替わっていきました。学校給食研究改善協会の村上さんが当時の様子について振り返ります。

昭和30年の献立には脱脂粉乳がついている(提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター)

「栄養価も高く、長期保存のできる脱脂粉乳は、当時の学校給食に欠かせない食材でした。しかし、鼻をつまんで飲んでいた子どももいたほど匂いがきつく、正直あまりおいしいものでありませんでした。しかも、脱脂粉乳はお湯に溶かして飲むため、アルミ製のアルマイト容器では熱くて持ちにくい。かといって冷ますと表面に膜が張って上手く飲めない。この膜が厄介でした。生徒の中には脱脂粉乳が好きという子もいましたが、私は苦手でしたね」(村上さん)

その後、昭和33(1958)年頃には国で牛乳が安定して供給されるようになり、文部科学省より『学校給食用牛乳取扱要領』が通知され、一部の地域の学校給食に国産の牛乳が配給されるようになりました。昭和39(1964)年には年間を通して国産牛乳を提供することが決まり、それが今の時代にも続いています。

瓶からパックに容器が変化。そして、ストローもなくなる時代へ

脱脂粉乳の時代が終わり、国産牛乳へとシフトしていった日本の給食牛乳。国産牛乳に変わったことで味が格段においしくなり、子どもたちにとって身近な飲み物として定着。時代とともに中身だけでなく、容器も変化していきました。

一時、給食で飲まれていた「三角パック牛乳」

「アルマイトの器で飲んでいた脱脂粉乳から、瓶牛乳、そして今の紙パックへと形をかえていきました。給食牛乳の瓶はもともと180mlでしたが、昭和45(1970)年頃に200mlになり、昭和50(1975)年以降は紙パックへと移行していきます。瓶からパックへ移り変わる時期に“三角錐のテトラパック”という容器もありました。200mlの牛乳瓶を子どもが給食室から教室に運ぶのは非常に重たくて大変ですし、瓶は欠けたり割れたりする問題もあり、敬遠されていました。しかも、洗浄や殺菌に費用もかかる。そんなときに登場したのがテトラパックの容器です。経費も安く、何より軽くて運びやすいということで給食牛乳に採用されました。しかし、三角錐だと学校に配送するときに安定性が悪く、ゴロゴロ転がって破損しやすかった。そのうえ、並べたときに個数を数えにくいという問題も発生し、今のような四角い紙パックの牛乳が普及していきました。運びやすくて数えやすい四角い紙パックは、まさに理想の形だったのだと思います」(村上さん)

1970年代は全国の給食牛乳の約8割が瓶牛乳でしたが、1980年代にはその数値が入れ替わり、令和元(2019)年11月時点では瓶が15.2%、紙パックが84.8%になりました(※)。現在は給食牛乳の大部分を紙パックが占めており、瓶牛乳は姿を消しつつあります。学校給食栄養士の松丸さんが現在勤めている東京・文京区の小学校も、6年前に瓶から紙パックに変わりました。

「紙パック牛乳になって大きく変わったのは片付け方だと思います。飲み終わったあとにパックを開いたり乾かしたりする作業が加わり、最初は作業に手間取る子もいました。イラストなどを使ってわかりやすく説明してあげることで、今ではすっかり慣れてスムーズに片付けができるようになりました」(松丸さん)

牛乳パックの片付け方をイラストで説明している(提供:少年写真新聞社)

牛乳パックとリサイクル問題

最近では学校給食でもSDGsの取り組みが盛んに行われており、牛乳の容器も見直されてきています。運用効率の良い紙パックに切り替わりつつある一方で、再利用しやすく環境にやさしい瓶牛乳を推す声も。そして、今では“脱プラ”の取り組みとして「ストローなしの紙パック牛乳」も登場しているといいます。

ストローレス化された給食牛乳の紙容器「School POP」の使い方(提供:松丸さん)

「僕が勤めている文京区の学校でも、今年の4月からストローがなくなりました。子どもたちはストローを使わずにパックから直に牛乳を飲んでいます。瓶牛乳は抵抗なく口をつけて飲めますが、家でパックを直飲みする子はあまりいないため、戸惑っているようです。鼻に入ってしまったり、こぼしたりする子もいます。リサイクルの面だけでなく、子どもの飲みやすさという面でも、瓶牛乳に戻すという動きがあるのは理解できますね」(松丸さん)

そもそもなぜ牛乳なの?お茶ではだめなの?

ご飯の日も麺の日も私たちは当たり前のように牛乳を飲んできましたが、そもそもなぜ今も給食の飲み物といえば牛乳なのでしょうか。

「昭和29(1954)年に制定された『学校給食法』の中で給食に牛乳をつけることが決まって以降、それが今の時代にも続いています。それは牛乳がすばらしい栄養食材だからというのが大きな理由ではないでしょうか。戦後貧困の中で子どもたちに栄養を与えてきた牛乳は、今でも子どもたちの成長に欠かせない大切な栄養源。タンパク質もカルシウムも豊富で、学校給食の中では非常にバランスのとれた食品といっていいでしょう。もはや飲み物というより“食品”という感覚で提供されているのだと思います」(村上さん)

和食給食推進の動きが活発化している今、「牛乳とご飯」の組み合わせについて、実際に献立を作る栄養士としてはどのように考えているのでしょうか。

「学校給食には国が定めた『学校給食摂取基準』というものがあり、例えば8〜9歳の子どもの場合はカルシウムを350mgとらなければいけません。これを達成するためには、牛乳は不可欠。緑茶に置きかえた場合の献立を作ってみたこともありますが無理でした。つまりは、献立に牛乳がないと絶対にこの数値に達することができないんです」(松丸さん)

牛乳(左)・緑茶(右)それぞれの1人あたり平均栄養摂取量(提供:松丸さん)

「例えば、ほかの食材でこの分量のカルシウムを摂ろうとすると、1食で小松菜を約3株、もしくはちりめんじゃこを44g食べなければいけません。そうすると今度は塩分やほかの栄養素がオーバーしてしまい、基準を満たす献立を作るのが難しくなってしまいます。もちろんシチューなどおかずに牛乳を使うこともありますが、それでも基準に達しません」(松丸さん)

牛乳を食材として取り入れた日の献立(提供:松丸さん)

牛乳を好きになってもらうための工夫

給食牛乳をめぐっては「和食に合わない問題」をはじめ、さまざまな声が上がっており、毎日同じ飲み物では飽きてしまう、そもそも牛乳が苦手な子もいて残ってしまう、という問題も。

「全国の学校では、子どもたちに牛乳を楽しくおいしく飲んでもらうために、さまざまな取り組みをおこなっています。例えば、牛乳にあう和食給食のメニュー作り。僕の場合は抹茶ミルクやほうじ茶ラテをヒントに、お茶を使った和食なら牛乳と相性が良いのではと思い、ほうじ茶や抹茶を使った和食のレシピ作りに奮闘しています。ほうじ茶で下味をつけた鶏肉を焼き上げた”鶏肉のほうじ茶焼き”や、天ぷらに抹茶塩を添えて給食に出すなど、牛乳と相性の良い味をおかずに取り入れたりしています」(松丸さん)

鶏肉のほうじ茶焼き(提供:松丸さん)

食事以外にも、牛乳を好きになってもらうために飲み方でも工夫をしているそう。

「牛乳に溶かして味を変える粉末調味料『ミルメーク』もそのひとつです。学期に一回くらいの登場ですが、いちごやメロンなど、様々な味を楽しめます。また、僕の学校では年に何度か“セレクト給食の日”を設定しています。その日はコーヒー牛乳や飲むヨーグルトなどほかの乳飲料も選べるようにしています。食育授業の方でも、教室に足を運び、子どもたちに酪農家さんのお話を伝えて、牛乳の健康面や大切さを知る授業をすることもあります」(松丸さん)

セレクト給食の日はドリンクが牛乳、コーヒー牛乳、飲むヨーグルトから選べる(提供:松丸さん)

「他県でも子どもたちに牛乳をおいしく飲んでもらうための工夫をしているところがあります。新潟県燕三条では『牛乳ドリンクタイム』を設けて、給食以外の時間に牛乳を飲むという取り組みを実施していたそうです。米飯給食の日でも牛乳を摂取しやすくするという狙いがあったようですが、牛乳だけを飲むことに抵抗を感じる子もいて、2021年には廃止されています。牛乳以外の食材は学校や市区町村の判断で選択や廃止の決定ができますが、牛乳に関しては提供することが規定とされているのでなかなか難しい問題ですよね。それに、中にはご飯やパンと一緒に飲む牛乳が好きという子もいたり、デザート感覚で飲んでいる子もいるので、一概に牛乳をなくすのがいいともいえないし、ほかの飲み物に切り替えるのは難しいかもしれません。ただ、容器の形態のことも含めて、子どもにとって無理のない給食になるのがいちばんいいなと思います」(松丸さん)

時代とともに変化してきた「給食牛乳」。脱脂粉乳から国産牛乳へと中身が変わり、そして容器もマイナーチェンジを繰り返し、今はストローなしで牛乳を直飲みする時代に。「脱脂粉乳世代」「瓶牛乳世代」のように、今後は「パック直飲み世代」が登場し、将来はそれが当たり前になる日がくるかもしれません。みなさんは子どものころ、給食の牛乳をどのように飲んでいましたか?

(TEXT:河野友美子)

※出典元:令和元年度学校給食用牛乳供給事業概況、令和2年11月農林水産省生産局畜産部牛乳乳製品事業

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連携企画です。

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