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コラム

韓国ドラマに登場する「韓国おでん」、日本と何が違う?歴史を紐解いてみた

【あの食トレンドを深掘り!Vol.34】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

韓国ドラマに登場する料理が、日本でも人気に

10月の週末、久しぶりに大久保エリアを歩いてみたら、大久保通りの歩道はなかなか前に進めないほど人で溢れ、コロナ前のような混雑ぶりだった。通りに面した店の中で、特に人だかりが大きかったのが、韓国おでんの屋台だった。

おでんの屋台は、韓国ドラマにも出てくる。最近私がアマゾンプライムで観た『彼女はキレイだった』では、主人公のキム・へジンが、職場で何かとちょっかいを出してくるキム・シニョク先輩におごらされる屋台料理の一つとして登場した。異性として意識する前に友人になった2人の関係性が、屋台のおでんという気楽な食事によく表れていた。

コロナ禍に入って始まった第4次韓流ブームは、どうやら今も続いている。今の流行は、現地へ行くことができなくなり、在宅時間が増えて韓国ドラマを観る人がそれまで以上に増えたことも影響している。最初に大ヒットした作品の一つが、ネットフリックス配信の連続ドラマ『愛の不時着』で、ネットフリックスのほかアマゾン・プライムやテレビ番組でも、近年の人気韓国ドラマが数多く配信されている。

世界的評価が高い韓国ドラマは、脚本がよく作り込まれていてキャラクターたちの暮らしぶりがリアルだ。そのリアリティは、頻繁に食事の場面が出てくるところにもある。しかも、食の存在が強調されるわけではなく、「生活していたら普通に食事ってあるよねー」ぐらいの自然さだ。だからこそ、かえって彼らが食べているモノが気になる。で、日本でも流行する。という流れが、韓国料理の流行につながっているようだ。韓国おでんもその一つ。『彼女はキレイだった』のへジンの相手役、チ・ソンジュンを演じたパク・ソジュンが主役を務めた大人気ドラマ、『梨泰院クラス』でも韓国おでんは出てくるらしい。

クックパッドの食の検索サービス「たべみる」では、韓国おでんは2017年頃から検索頻度が上昇しているが、2021年は2020年に比べて1.75倍へと急上昇。2022年も上昇率が高い。月ごとの検索頻度を調べると、2021年は10月の検索頻度が前年の2.25倍と突出して高くなっている。寒くなり始めた頃に上昇率が高いのは、鍋料理の選択肢として定着し始めたからかもしれない。

ところで韓国おでんは、日本のおでんとどこが違うのだろうか? そもそも、なぜどちらの国にもおでんがあるのだろうか? 順番に解き明かしていこう。

韓国おでんの特徴と、その発祥を解説

韓国おでんは、日本のものと同様、魚介類を使った練り物が中心だ。野菜の具はあまりなく、日本のモノよりスープが薄味という傾向がある。一番の違いは、日本では専門店や居酒屋など常設店舗で出されることが多いのに対し、韓国では基本的に屋台料理であるところだ。基本的に串に挿した状態で、日本と同様、スープに浸けて売られている。

韓国食文化に詳しいコリアン・フード・コラムニストの八田靖史さんが運営するウェブサイト『韓食ペディア』によると、韓国おでんの汁は、注文した人が自由に飲んでいいことになっているので、スープ替わりに飲む人も多い。屋台で用意されたピリ辛の薬味醤油をつける。代表的な具が、揚げかまぼこの「オムク」。ほかに、コンニャクの「コニャク」、うるち米で作った棒状の餅「カレトク」、春雨入りの巾着「ユプチュモニ」である。

韓国おでんは、日本が植民地にした歴史と深い関係がある。『食卓の上の韓国史』(周永河著、丁田隆訳、慶應義塾大学出版会)が韓国おでんの歴史を描いているので、以下紹介しよう。かまぼこの情報で古いのは、李朝時代後期に医師の李時弼(イ・シピル)が書いた『謏聞事説』に出てくる、朝鮮風にアレンジされたかまぼこの解説。くわしい時期ははっきりしないが、『韓食ペディア』は18世紀前半と推測している。

『食卓の上の韓国史』によると、18世紀前半より後の時代に釜山でかまぼこが流行ったらしい。韓国おでんは釜山が発祥とされるので、その頃の流行が定着したのだろうか。

一方日本では、かまぼこは平安時代までさかのぼることができる。日本と韓国は江戸時代にも、朝鮮通信使が定期的に来日するなど関係が深かった歴史があるので、日本から韓国に伝わったと考えられる。

20世紀に入ると、かまぼこは人気になり、販売量が増える。日本が併合した1910年以降は、かまぼこの行商が定着し、在韓日本人の居住地ができた海岸都市の仁川、群山、木浦、馬山、釜山、元山などで生産される。ソウルの日本人が集住した明洞一帯でも、かまぼこの小さな加工工場ができた。

韓国が解放された戦後、かまぼこという名称は、日本的要素の残滓「倭色」だとして問題視されるようになり、「センソンムク(魚のコンニャク)」という名前にしようという提案が出てくる。1992年11月に国立国語院が提示した「食生活関連醇化案」からは、「オムク」となった。やがて、この呼び名はかまぼこだけでなく、おでん自体も指すように変化していく。日本の新大久保に「韓国式おでんオムク」として屋台が登場したのは、2005年である。ちなみに、日本でおでんは江戸時代の江戸で屋台料理として登場し、昭和初期に大阪で流行している。

やはり日本統治時代に入って独自に進化したキンパも、最近日本で流行しているが、韓国おでんも再流入して流行し始めている。歴史に思いを馳せると複雑な気持ちになるが、食べものの不思議なところは、戦争を介した交流で広がって定着するモノが多いところだ。冬に欠かせない白菜も、日清日露の戦争に従軍した兵士たちが持ち帰って広がった。沖縄のタコライスも、米軍統治下で生まれた料理だ。

韓国おでんを入手できるリアル店舗はまだ多くないようだが、楽天市場、韓国市場やアマゾンなどのインターネット通販で買うことができる。もちろん、レシピ本やインターネットのレシピを検索し、自分で作ることもできる。これからの季節、温かいおでんが恋しくなる日が多くなるだろう。たまには韓国おでんで目先を変えてみるのもいいかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

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