魚を生で食べる習慣のある日本では「アニサキス症」と呼ばれる食中毒が毎年発生しています。お刺身を安心して食べられるように、みんなでアニサキスの知識を身につけましょう。
アニサキス症は、魚介を通じてアニサキスという寄生虫の幼虫が人間の胃壁や腸壁に入り込み、激しい腹痛などを起こすものです。
よく「酢やわさびを一緒にとれば安心」などといった情報を耳にすることもありますが、そのようなことはありません。しめサバにしてもアニサキス症が予防できるわけではないのです。
アニサキスは体長が2〜3cm、白い糸のような形をしているので、目視でも発見できます。調理するときに発見して除去できる可能性もあります。しかし、全てのアニサキスが除去できるとは限らず、効果的な対策とはいえません。また、細かく刻めばOKと聞くこともありますが、これも有効な対策とはいえないでしょう。
こうした間違った情報に惑わされず、おいしい魚介を安心して食べられるように、正しい予防策を知っておくことが大切です。
アニサキスは、クジラやイルカなど海洋ほ乳類の胃に棲みつく、寄生虫の仲間です。クジラやイルカの排泄物と一緒にアニサキスの卵が海水中に放出されて幼虫となり、それをオキアミというプランクトンが食べ、さらにそのオキアミを食べたサバやイカなどに寄生します。それを人間が生のまま、または生に近い状態で食べてしまうことで、胃や腸で悪さをして、アニサキス症を引き起こします。
アニサキスは幅広い魚介に寄生しています。サバ、イカ、イワシ、サンマなど生食する機会の多い魚介がよく知られていますが、ほかにもカツオやホッケ、サワラ、キンメダイ、メジマグロにも寄生していることが、東京都健康安全研究センターの調査で明らかになっています。
アニサキス症はアニサキスが寄生した魚介を生、または生に近い状態で食べた1〜36時間以内(多くの場合8時間以内)に激しい腹痛が起こります。吐き気や嘔吐、じんましんなどの症状を伴う場合もあります。死亡例はこれまで報告されていませんが、今のところ特効薬はないのが現状。治療は内視鏡検査でアニサキスの幼虫を見つけ、摘出するのが一般的です。
1匹でも発症するアニサキス症は、かからないように予防することがなにより大切です。特にお刺身など、魚介を生食する機会が多い人は気をつけましょう。また食中毒は夏場に多いイメージですが、アニサキス症は季節を問わず発生しています。秋や冬も多く発生しているので、寒い季節でも注意が必要です。
アニサキスの心配なく、旬の魚介をおいしく食べるためには、正しい対策が必要です。アニサキス症にかからないための正しいポイントをおさらいしておきましょう。
アニサキスは加熱で死滅させることができます。つまり、アニサキスが寄生した魚でも、しっかり加熱して食べれば大丈夫。60℃なら1分、70℃以上なら瞬時に死滅しますので、焼きものや煮ものにすればまず安心といえるでしょう。ただし、表面を少しあぶった程度では、中心部は70℃に達しないため、NGです。中までしっかり火を通すことが大切です。
アニサキスは冷凍すると感染力を失います。−20℃以下のところで24時間以上冷凍し、中心部までしっかり凍結させたものなら心配ありません。つまり店頭で販売されている解凍のものなど、24時間以上冷凍したものを解凍した切り身などは安心して食べられます。
アニサキスは魚介の内臓に多く寄生しています。生の内臓は食べないようにしましょう。またアニサキスは鮮度が下がるにつれて内臓からまわりの筋肉にも移行します。できるだけ鮮度のよいものを選び、早めに内臓を除き、鮮度が落ちないように、低温で保存することが大切です。念のため、目視でも確認をしてアニサキスを見つけたら除去してください。前述の通り、アニサキスは白色の少し太い糸のように見えます。万が一、思い当たるものを食べてもしかして…と思ったときは、早めに医師の診断を受けるようにしましょう。
上記の3つが、アニサキス症の有効な予防策です。海に囲まれた日本には、おいしい魚介がたくさんあります。楽しまないなんてもったいない!しっかり予防して、おいしく食べてくださいね。
<参考文献>
厚生労働省
東京都福祉保健局「食品衛生の窓」
内閣府 食品安全委員会
国立感染症研究所
飲食物が原因となって起こる食中毒などの健康被害を防止し、消費者の健康を守るため、食品等事業者に正しい食品衛生の知識を広めることを目的として、地域の保健所や食品製造業や飲食店等の人々と協力し、 食の安全を守るための活動を行っています。
・ホームページはこちら>>
・食中毒・食の安全Q&A「知ろう!防ごう!食中毒」