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コラム

できれば茹でてからもらいたい――採れたて「たけのこ」で作る塩豚入り炊き込みご飯【おいしい思い出 vol.11】

クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪

子どもの頃から変わらない、春の朝の光景

早朝8時前です。ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴ります。「おはようございまーす、小竹さーん、誰かいますかー」。ガラッと玄関のドアが開く音がします。お客さんがいらっしゃる時間は、いつも家族そろって朝ごはんを食べている時。全員で顔を見合わせてニヤリとした後、「また、あれかね?」と父親がつぶやきます。

お客さんが持ってきてくれるのは、朝掘ったばかりののたけのこです。郷里金沢の実家では、たけのこの旬は毎年4月下旬から5月の頭、ゴールデンウィークが終わる頃まで。お客さんは帽子をかぶり、山に入った作業服姿で、掘ったばかりの土がたっぷりついたまま、そして大きなポリ袋に入ったままで、たけのこを我が家に届けてくれます。

「おまえんちは、いくついるかね」と聞き、私たちはその袋をのぞいて、欲しいだけいただきます。野菜売り場に売っているような小ぶりなものはあまりなく、どーんと大きいたけのこですので、だいたい2本くらいが鍋に入るベスト本数です。

親切に届けてくれるのは、いつも仲良くしている近所に住むおじさんのほか、父親のアマチュア無線友達、釣り友達などなど、年に一度、まさにこの時期にしか会わないおじさんもいたりします。むしろ久しぶりの人のほうが多いかもしれません。

私が本当に小さな子どもの時は、家族一緒にたけのこ掘りに行っていたらしい(覚えていない)のですが、物心ついた頃には我が家はたけのこはいつも“もらう専門”になっていました。たけのこのお礼は、その季節に父親が釣ってきたお魚。つまり物々交換経済が成り立っていました。

たけのこをもらうと、すぐに母親はばたばたと台所の床に新聞紙を広げて、少し皮を向き、しっかり茹でることができるように大きな切れ目を入れて、この時期にしか使わないアルミのとても大きな鍋に米ぬかと唐辛子を入れてたけのこをゆがき始めます。

ことことと1時間ほど茹でた後、火を消して一晩ほど鍋に入れたまま、たけのこをお休みさせます。お料理をするのはその後です。

すぐに食べることはできず、下ごしらえがやっぱり大変なので、いつも母は「たけのこは茹でて持ってきてくれる人がいるといいのにな……」とよくつぶやいていましたが、茹でて持ってきてくれるような親切な人は今まで見たことがありませんね。

たまにですが、1日に複数の人からたけのこのおすそ分けが続いたりすることもあります。また、母親が仕事で疲れていたり、鍋が足りない時は、いただいたたけのこをそのままご近所さんにおすそ分けする“たけのこ横流し”もたまにありました。

そんな時は、私が学校に行く前にお友達に電話して「たけのこいる?」と聞いた後、たけのこを持って友達の家に寄り道しながら学校に行くのです。懐かしいなぁ。

これは子どもの頃だけのことではなく、実はその後今でも(40年ほど)ずっと変わらない光景となっているようです。

さすがに父親の友達は、我が家も含めですが年を取っておじいさんになってしまい、たけのこを持ってきてくれるおじさんの顔ぶれは、父親の友人の子に変わったりと世代交代しましたが。

昨年も、ゴールデンウィークに子どもたちを連れて郷里に帰った時、1年前と同じおじさんが同じ洋服でたけのこを持ってきた光景を見て、「あれ、デジャヴ?」(デジャヴではないんですけど)ととても不思議な気持ちになりました。

東京の都会育ちの娘たちは、朝から玄関のベルが鳴る、その田舎ならではの雰囲気に「あ!また来た!」とテンションが上がっていましたね。

今は懐かしい“たけのこ地獄”の日々

たけのこのおすそわけが続くこの時期の郷里の食卓は、毎日のように朝も夜もたけのこ料理が登場します。

私が子どもの頃は、クックパッドで「たけのこ 簡単」でレシピ検索しよう、という世界も存在しておりませんし、食べ方はわりとパターンが決まっていました。どんなお料理かというと、たけのこご飯、たけのこの煮物、木の芽和え(たまに母親が気が向いた時だけです)でしょうか。

たけのこが出始めた4月の中旬は「わーい、春の料理だね」なんて言葉も出ますが、そんな日々も每日続くと、気がつけば「あー、またたけのこか……」とついためいきとともにつぶやくようになってしまいます。

子どもの頃は、同じような状況の友達と、この時期を“たけのこ地獄”と呼んでいました(子どもって、遠慮なく恐ろしい言葉を思いつくものですね……)。

たけのこ地獄の每日も1カ月ほどで終了。5月中旬には、急に食卓にたけのこ料理が並ばなくなります。そして、ふともの悲しい気持ちになっちゃうんですよね。とてもわがままな私。

20代で結婚し、郷里を離れて東京に住むようになり、最初に驚いたのはスーパーでたけのこがかなりの高値で売られていること。東京暮らしも長くなりましたが、今でもどうしてもたけのこを高値で買う勇気が持てません。

配送料を考えると買ったほうが早い気もしますが、何か理由をつけて毎年実家から掘りたてのものを送ってもらい、旬を楽しんでいます。このたけのこは、あのおじさんのたけのこかな?とか、そんなことを想像したりするのも楽しい時間です。

ちなみに我が家の定番のたけのこご飯はこちら。春の間、娘のお弁当にもよく登場します。

たけのこ×油揚げでシンプルに


塩豚入りの「洋風炊き込みご飯」

たけのこご飯、煮物などの定番のお料理も好きですが、最近はいろいろなアレンジ料理を楽しんでいます。和食だけではなく、洋食や中華にも使えるので万能な食材ですよね。皮のまま高熱のオーブンで蒸し焼きにする「たけのこのグリル」は、テーブルに出すとインパクトもあり、家族にも人気です。

あと、たけのこが出始めると必ず作ってしまう、私の最近のお気に入り料理は、記事の一番上の写真の「洋風炊き込みご飯」です。

琺瑯の鍋に、たけのこと小さく切った豚バラ肉松の実、それから昆布しょうゆ、ほんの少しを入れて、普通に炊き上げます。ボリューム満点で、子どもたちも大好きなお料理です。

豚バラは塩小さじ1をもみ込み、ぴっちりラップをして冷蔵庫に入れて、2日ほど経ったものを使っています。この塩漬けの豚バラは冷蔵庫に入れたままで5日は保ちます(もっと保つという人もいますが、だいたい私はこれくらいを目安にしています)。

豚バラは旨味が増して、ぎゅっと味わいが濃くなっています。おいしいスープが出て、ごはんと相性が合い、とてもいい味つけになります。熟成された塩豚だからこそ出る味わい。調味料はほんの少しなのに、こんなにいい味になるなんてと驚かされます。おすすめです。

……と、熱くたけのこについて語ってしまいました。

そろそろ実家からたけのこが送られてくる季節。楽しみでしょうがありません。でも、できれば茹でて送ってほしいなぁ(母親には言えませんが)。

小竹貴子

クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。

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