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コラム

食でもファッションでも大流行!「ピスタチオ」が現代の日本人にウケた五つの理由

【あの食トレンドを深掘り!Vol.22】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

食やファッションで「ピスタチオ」が大流行

さまざまな行動が制限されるコロナ禍でも、食の流行は次々と起こり続けている。コロナ禍になってから大きく盛り上がる流行の一つが、独特の香りと香ばしさを持ち、スモーキーなグリーンが美しい「ナッツの女王」と呼ばれるピスタチオだ。数年前から、生ケーキや焼き菓子などで、ピスタチオを使ったものは目立ち始めていた。

急激に盛り上がったのは、2020年。同年4月に成城石井で発売されたピスタチオスプレッドが大ヒットし、人気を受けてピスタチオ味のプリンも2021年5月に販売。ディーン&デルーカでは、ピスタチオクリーム、プリン、マリトッツォなど、次々とピスタチオスイーツを販売している。2020年8月には東京駅構内に、ピスタチオスイーツ専門店「ピスタアンドトウキョー」も登場。ピスタチオを使う、中東発祥のバクラヴァも注目を集めている。

コンビニでも、ピスタチオクリームのスイーツが次々と登場。井村屋のケーキアイス、ロッテのアイスクリームコーン、森永乳業のピノやパルムなどのアイス類。ファミリーマートのプリン、セブン‐イレブンのクッキーなどプライベート・ブランドのスイーツもある。

ファッションの世界でも、2020年からピスタチオカラーが流行し、2021年春夏には、ユニクロでもピスタチオカラーのTシャツを販売していた。

ピスタチオが流行した五つの理由

なぜ今、ピスタチオなのか? 流行の要因は五つ考えられる。

一つ目は、なんといっても独特の濃厚な香りと個性的な味。最近、ハリッサや麻辣味など刺激的な味が流行していることもあり、目新しい刺激的な味を求める嗜好に、ピスタチオはちょうどよくハマったと言える。

日本は緑豊かな国で緑色のバリエーションは多いが、ピスタチオクリームのスモーキーなパステルカラーは、あまりない色合いだった。その新鮮さが、二つ目の人気の理由と考えられる。ファッションでも流行しているのは、その色を美しいと思う人たちが多いからだろう。

最近はパクチーやチョコミント、抹茶など、緑色の食品がいくつもヒットしている。ストレスフルな時代だからこそ、癒し系の緑色が人気になるのかもしれない。SNSへの写真投稿が活発な今、食品でも色は今まで以上に重要な要素の一つである

三つめは、健康的な食品であること。種子であるナッツ類は栄養が豊富だが、ピスタチオも食物繊維、タンパク質、ビタミンB群、カリウム、鉄、銅などが豊富に含まれている。

ピスタチオはもともと地中海沿岸発祥で、中東地域を中心に食べられてきた。世界最大の生産地はイラン。ヨーロッパでも人気があり、イタリアやギリシャなどで生産されている。フランス菓子などでもよく使われることから、日本でも認知度が上がったと言える。また、成城石井のピスタチオスプレッドの生産国は、イタリアである。

中東料理を日本で食べられる店は多くないが、最近中東の食はいくつもヒットしている。先に挙げたハリッサも中東の合わせ調味料、トルコ料理のケバブはすっかりおなじみだし、ひよこ豆ペーストのフムスも最近人気を集めている。10年前に流行したタジン鍋も中東のもの。注目の中東発祥の食であることが、四つ目の要因

ヨーロッパで中東料理や中東の食材が人気なのは身近だからで、フランスは元植民地のチュニジアなど北アフリカからの移民が多いし、トルコ移民もヨーロッパでは多い。中世頃からヨーロッパと中東地域は、戦争や交易などさまざまな形でかかわりが続いてきた。中東文化の影響はヨーロッパに色濃い。

日本では、シルクロードの時代から中東文化は時折伝わってくる程度だった。その遠さが、もしかするとときどき入ってくる文化が、新鮮に感じられる要因かもしれない。ちょうど、ヨーロッパで日本がエキゾチックな遠い国だったように。日本では、残念ながら紛争のイメージが強いが、近年は、イスラム教徒が食べられるハラルフードへの関心が高まっている。少し身近になってきたことも、中東の食文化への好奇心を高めているのかもしれない。

最後の要因は、食がトレンド化してから30~40年経ち、いつの間にか私たちは、「次に来る流行は何か?」「目新しいものはないか?」と、新しい流行を待ち望む体質になってしまっていたことだ。

特にSNSが発達してからは、SNS経由で目新しい食を発見する機会が増えた。自分もニュースを発信したいから、目新しいものはとりあえず試してみたい、という人が増えているはずだ。流行が流行を呼び、流行を楽しむことが習慣化している。ファッションが近年、あまり流行しなくなっている分、トレンドを楽しむ欲望が、ファッションより手軽な食へと向かっている様子がある

ピスタチオはそういうターゲットの一つだと言える。しかし、同時にほかの流行がそうであるように、ピスタチオもやがて普通に味とカラーバリエーションの一つになっていきそうな気配を漂わせている。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

8d9a611a66b8c48c6aff94dc22f7daa3 ©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』など。

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