ステーキを焼くとき、あなたはどの焼きかたを選びますか?
レア、ウェルダンなど「これ!」というこだわりがある派、 こだわりはないけれど無難に「ミディアムレア」など中間を選ぶ派で分かれると思います。
では、科学的に「1番美味しい」といえるのはいったいどの焼きかたなのでしょうか?
今回はステーキの焼き加減で味がどれだけ変わるのかを味覚センサーで科学的に検証したいと思います。
検証する焼き方はレア・ミディアムレア・ミディアムウェルダンの3種類。
3種類の定義は以下のとおりです。
・レア:表面は焼けているが、中は生の状態。中は鮮紅色で肉汁が多い。内部温度55~65℃以下。
・ミディアムレア:レアよりは火が通っているが、肉の中心部はまだ生の状態。切ると赤い肉汁がうっすらとにじみ出る。内部温度約65℃。
・ミディアムウェルダン:表面も中も火が通り、褐色でやや灰色がかっている。肉汁は少ない。内部温度70℃程度。
これらを味覚センサーのレオくんに食べてもらいます。
さて、勝利を収めるのはいったいどの焼きかたなのか…!
結果はこちらです!
今回一番差が出たのは、ステーキの真髄ともいうべき「旨味」でした。
見事にミディアムレアが1番高い結果になっています!
次に差が出たのはコク。
レアとは僅差ですが、こちらもミディアムレアが1番高い数値を叩き出しました。
「通の間ではミディアムレアがイチオシ」と言われていますが、味覚センサーで検証した結果としてもミディアムレアが1番美味しいという結果に…!
このままではミディアムレア派以外のみなさんから大クレームを受け、味博士の研究所が連日対応に追われる事態が予測されますので、きちんと理由を追記しておきます。
ミディアムレアの勝利には3つの理由がありました。
肉に含まれるたんぱく質のアクチンは水分を含むタンパク質で、加熱によって収縮し、水分(肉汁)を外に排出します。アクチンの変性によって旨味のもとである「肉汁」がなくなってしまうのです。
そのアクチンが変性を開始するのが66℃。 内部温度が66℃以上のミディアムウェルダンの旨味が下がってしまったのはアクチンの変性によって肉汁が排出されてしまったためなのです!
お肉は加熱されることによって、細胞の中にあった水溶性の成分が細胞外へ流出し、それが肉汁(旨味のもと)となります。 レアでは加熱が足りておらず、旨味の数値がミディアムレアより低い状態であったのです。
メイラード反応は糖とアミノ酸の加熱によって発生する反応です。糖とアミノ酸が結合し、酸素や水と反応しながら変身した結果、「メラノイジン」と呼ばれる茶色の物質が生まれ、これがコクを生み出します。 つまり、コクを出すために加熱は必要不可欠。レアの状態では加熱がわずかに足りないのです。
内部温度、加熱具合から見て「ミディアムレアが1番ちょうどいい焼き加減」というわけですね!
今回の結果を近場にいた断固ウェルダン派のかたにお伝えしたところ、愕然とした表情を見せており、研究所内は一気に氷河期に突入しました。
見事科学的な勝利を収めたミディアムレア派のみなさん、人に伝えるときは「味覚センサーの数値という確実なソースあるから」などと確固たる理論で論破して相手の心をボロボロにしないよう注意してください!
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。