黄色く色づいたイチョウの樹の下にぎんなんの実がぽつりぽつり。秋を感じる光景ですね。食べてもおいしいこのぎんなん、まさに今旬を迎えようとしていますが、「ぎんなん食中毒」というのをご存知ですか? ちょっと気になるこの症状について、北海道医療大学薬学部衛生薬学講座 和田啓爾教授、小林大祐准教授にお話を伺いしました。
ぎんなん食中毒とは、イチョウの種子であるぎんなんを多食することでまれに起きる食中毒のこと。いったいどのようなものなのでしょう?
「当研究室で調べたところ、これまで国内で160件以上の症例が報告されています。症状としては、吐き気や嘔吐、痙攣が多くの場合見られます。めまいが起こることもありますが、熱が出ることはほとんどありません。ただし、重篤な場合は、意識を失うこともあり、死亡例も報告されています」
ぎんなん食中毒を引き起こす原因として考えられているのが、“ビタミンB6の欠乏”なんだとか。
「ぎんなんの中には、ビタミンB6に似た構造を持つ毒性物質が含まれていますが、調理などで分解することはできません。この物質が、体内のビタミンB6の作用を低下させ“ビタミンB6欠乏症”を引き起こすことで、健康な人でもぎんなん食中毒が起こる可能性があります。
人は体内でビタミンB6を作ることができないため、食事からの摂取と、腸内細菌が作り出すものによってその濃度を維持しています。そこへ偏食などで摂取量が少ない場合や、抗生物質などを服用し腸内細菌からの供給が少ないなど、ビタミンB6欠乏状態にある場合は、ぎんなん食中毒が起こる危険がさらに高まります。なので、ぎんなん食中毒はアレルギーなどと違い、一度ならなければその後も大丈夫というものではなく、その時々の体の状態で引き起こされる可能性があるものなのです」
ですが、体内のビタミンB6の状態を把握することは困難なこと。防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
「昔から、『歳の数以上食べてはいけない』と言われているように、一度に多量摂取しない、少量でも継続して摂取しないということを意識することが大切です」
ただし、それは大人の場合で、子どもになるとさらに注意が必要に。
「ぎんなん食中毒のなりやすさは人によって異なると考えられますが、現時点では子どもの中毒患者が多いことがわかっています。その原因として、体の大きさや、一般的に子どものほうが痙攣が起きやすいことに加え、毒性物質の吸収または解毒能力が異なることを推測していますが、はっきりとした原因はまだわかっておりません。子どもは何でも口に入れてしまうので、ぎんなんと知らずに食べてしまい痙攣が起きた症例も。そういった点からも、幼児には与えないほうが良いと思われます。また、高齢者も食べ過ぎには注意して下さい」
まだまだ判明していないことも多いぎんなん食中毒。小さなお子さんにとっては不安なこともありますが、大人は食べすぎに気をつけて、一粒一粒味わって楽しみましょう。