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コラム

これは…うまいっ!じゃがいも×カルボナーラでお手軽「ポテトサラダ」【数字のないレシピたち Vol.8】

決められた材料、分量、調理法などない。何にも縛られず、自分だけの「美食」を味わうために作る料理があってもいい。それはきっと、心満たす色鮮やかな時間をくれるはず。出張料理人・ソウダルアが綴る、人と料理と時間と空間の物語。

あまり、ぱっとしない冬だった

本当に寒い日が続くとぬくもりを求めるけれど、肌寒い程度の日とたまに来る妙に暖かい日の繰り返しはなにか中途半端で出会いを求める思いや新しい何かを始める気持ちが湧きづらかった。

可もなく不可もない日が続いているうちに年度末に入り、上司に有給消化を促された。
どうせならと思って、一週間の休みを取ってみることにした。
と言っても、特にやりたいことがあるわけでもないので、いつもより余計にSNSを見たり、大して興味もない動画をおすすめのままに流したり、ゲームアプリにも手を出してしまうと、出勤しているよりも妙に忙しない。
このままじゃ、頭も体も鈍ってしまいそうだ。
とりあえず、外に出てみよう。

一歩、外に出てみると、いつの間にやら春が来ているような柔らかい風が吹いていた。
まるで、冬眠明けの熊のように 食べものを求めている自分に気づく。
そう言えば、すこしハマりかけていた料理も随分していない。

普段は寄らないスーパーの軒先に並んでいる新じゃがが目に入る。
どうせ、時間はいくらでもある。ポテトサラダでもつくってみるか。

ポテトサラダに入れるもの、、、。
きゅうり、人参、玉ねぎにハムかベーコン。
あと、ゆで卵。
そう言えば、マヨネーズも切らしている。
これは随分と大変なことになると思い直し、スーパーの中を物色する。
かと言って、惣菜のポテトサラダを食べる気にはならず、店内を練り歩く。

ぼんやりとやってきたパスタコーナーでふと思いつく。
そして、カルボナーラソースを手に取り、パッケージの裏を見てみる。

ベーコン チーズ 卵黄 生クリーム、、、。

どれを取っても、じゃがいもに合いそうだ。
これなら、茹でて混ぜれば ポテトサラダ(のようなもの)ができるんじゃないだろうか。
そう思うといても立ってもいられなくなり、さっき一度置いた 新じゃがとちょっとお高めなカルボナーラソースを買って、帰路につく。

兎にも角にも早く食べたいので 鍋に水を入れて、新じゃがも入れて、火にかける。
その間に「じゃがいも 茹で時間」でググってみると案外、このやり方が正解だったようで少し嬉しくなった。
一人でにやりと笑ってしまう。

茹で上がる直前にパスタソースも鍋に入れる。
竹串なんて、家にはないのでフォークをぷすりと刺してみると抵抗なく、ふわんと崩れたので、ざるにあける。
そのまま、一口食べてみる。
ほっくりと口の中で溶けて甘い味がひろがる。

うんうん、いい感じだ。

ボウルに入れて、皮も取らずに わしわしと混ぜていく。
いよいよ、カルボナーラソースのお出ましだ。
クリーミィな香りが成功を予感させる。
さらに、ねちねちと混ぜ込んでいく。
まあ、こんなもんでという所でやめ スプーンですくって食べてみる。

これは、、、うまいっ。
なんなら、パスタよりもうまい。

ホクホクとした食感の新じゃがは濃厚なカルボナーラと相性が抜群だ。
チーズの香り、ベーコンの旨みを卵黄と生クリームが包み込み、そのすべてをじゃがいもが受け止める。
たまにぴりっとくる黒胡椒もまた良し。
キッチンで立ったまま、ばっくばくと一口、もう一口と食べてしまう。

そうだ。
多分、もう咲いているはずの、あの桜の木の下で早めの花見をしてみよう。
ビールでも買って、このポテトサラダをつまみにすれば、それはきっと、とても気持ちいい。

ごちそうさま。

ほくそ笑みながら。
お気に入りの器にポテトサラダを移しながら。
すこし、慌てながら。
心の中でつぶやいた。

ソウダルア(出張料理人/イートディレクター) 

大阪生まれ。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道がそのまま仕事に。“美味しいに国境なし”を掲げ、日本中でそこにある食材のみを扱い、これからの伝統食を主題に海抜と緯度を合わせることで古今東西が交差する料理をつくる。現在は和紙を大きな皿に見立てたフードパフォーマンスを携え、新たな食事のあり方を提案中。


【フードパフォーマンス映像】
https://vimeo.com/275505848

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