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コラム

人気料理家のウー・ウェンさんにインタビュー!中国の「医食同源」の知恵を日本の食卓にも取り入れよう

コロナ禍で変わった私たちの食生活。改めて「食」の大切さを見つめ直す時期にきていると語るのは、中国出身の人気料理家ウー・ウェンさん。中国には古くから「医食同源」の考えがあり、ウー・ウェンさん自身もそれにならって食生活を送っているといいます。そこで今回はウー・ウェンさんに健康的な食事をとるために心がけていることやおすすめの料理ついて聞いてみました。

中国は「旬」といわない

私は1990年に北京から日本に来て、今年で来日32年になります。日本で料理をするようになって驚いたのが「旬」という言葉があること。最初に聞いたときは「なんじゃそりゃ!?」と思いました(笑)。というのも、中国は二十四節気を5日ずつに分けた七十二候で生活をしているので、旬という概念がありません。

だからといって、中国では季節の食材を取り入れないということではありません。旬という概念がないだけで、七十二候にあわせて体に良い食材を食事に取り入れるという考えが古くからあります。特に中国人は「医食同源」の考えを大事にしていて、おいしい食事を食べることと医薬は同じことだと考えています。中国人の健康意識はとても高く、「これは体にいいんだよ」というのを口ぐせのようにいっています。

春を代表する小麦料理「春餅」、野菜はもやし

医食同源の考えは伝承される

体にいいと言われている食べ物は各家庭で代々伝えられていて、人々はそれをすすんで食べるようにしています。例えば、年明けから3月くらいまでは金柑をよく食べていました。金柑はのどや気管支に良いため、寒くて乾燥する北京ではおいしく食べられる時期になると全員が金柑を食べます。

きのこも中国ではよく食べる食材です。日本は“きのこ”というかわいらしい名前がついているけど、中国は“食用菌”といいます。自然から生まれたよい菌を食べることで健康を維持するという考え方です。

花粉症緩和にもなる「金柑」

冷たいものは要注意

中国では体温よりも低いものを体に入れるのは罪、のような考えがあって「冷たいもの」は口にしません。内臓を冷やすと免疫力が落ちるから、わざわざ自分から免疫力を下げるような行為はしないんです。そのようなことも学校で教わるのではなく、各家庭で言い伝えられていることです。

そのように、言い伝えられてきた健康的な食べ物を口にすることが多い中国人は、自分にあった体に良い食、自分の国で古くから食べられてきたものを食べる傾向にあり、海外の料理を頻繁に食べることはしません。日本のように「今日はイタリアン、明日は韓国料理にしよう」みたいなことはあまりないですし、中国以外の料理が国内で流行したり、頻繁に作られることはありません。多種多様な料理を楽しむ文化は日本ならではだと思います。

体に必要な栄養素をとる

コロナの影響で健康に対する意識が高まってきてはいるものの、ダイエットなどで極端な食事をするのはよくありません。炭水化物を食べないで、タンパク質ばかり食べても体がおかしくなると思うんですよ。

健康で美しい体づくりのために、栄養バランスを考えながら毎日料理を作ったり食べたりしてほしい!「タンパク質・炭水化物・ビタミン」を取るように意識するだけでもだいぶ違いますよ。

餃子はすばらしい完全食

中国の家庭料理は、とても“健康的”でヘルシー。栄養バランスの整った料理が多く、中でも「餃子」は私たちに必要な栄養素がバランスよく取れるのでおすすめです。皮が炭水化物、具は野菜とお肉からタンパク質をしっかり摂れるので、これだけで立派な完全食です。バランスよく食べていくことはすごく大事なこと。体に必要なものをとることはとても良いことだと思います。

日本で餃子といえば「焼き餃子」が有名ですが、中国の餃子といえば水餃子。中国人にとって餃子はとてもポピュラーなもので、日本人がお米を炊く、おかずを作る感覚で餃子を作ります。具材も冷蔵庫にあるもので作るので、わざわざ餃子のために具材を買ってくることはほとんどしません。また、餃子と一緒にお米を食べる人はいないです。

中国では餃子のみで食べます。中国は広いため地域によって食べられている料理が違い、北部は小麦、南部はお米が主食です。私が生まれ育った北京では、肉まんや餃子など、小麦粉を使った料理を多く食べています。

こんな世の中だからこそ食が大事

こういう状況だからこそ日々の食事で免疫力を高めていくことも大事です。自分が自分の体に必要なもの、体が欲しがっているものを作ると、体が喜びます。健康でいるために、食を大切にしましょう。生まれてから死ぬまで、1食1食で私たちの健康を作っているし維持している。だから粗末にしないほうがいいと思います。自分の体に入っていくものだからこそ、しっかり考えるべき。時間をかけたらかけた分、必ず自分に返ってきます。無駄はありません。自分が健康でいることが、人生の豊かさに繋がっていくと思います。

そうはいっても、どうしても毎日の料理を作るのが負担だという人もいますよね。そういう人は考え方を変えてみましょう。料理は人生のプロセスのひとつなので、これは生きる活動をしていると思えば楽しくなりますよ。食べるって生きている証しですから。そう思うと日々の料理を大切にしようと思えるようになるはずです。

(TEXT:河野友美子)

ウー・ウェンさんの新刊書籍『ウー・ウェンの炒めもの』(高橋書店)

ウー・ウェンさん

中国・北京生まれ。1990 年に来日。料理家、ウー・ウェン クッキングサロン主宰。医食同源が根づいた中国の家庭料理とともに中国の暮らしや文化を伝えている。主な著書『ウー・ウェンの100gで作る北京小麦粉料理』 『ウー・ウェンさんちの定番献立』(いずれも高橋書店)、『シンプルな一皿を究める 丁寧はかんたん』(講談社)、『料理の意味とその手立て』(タブレ)、『本当に大事なことはほんの少し』(大和書房)、『ウー・ウェンさんちの汁ものとおかず』(光文社)など。

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