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コラム

作家・阿古真理さんのキッチン探しストーリー 第十一編「今野ご夫妻のキッチン」

理想のキッチンを叶えるwebマガジン「たのしいキッチンmag」。生活史研究家・作家である阿古真理さんによる新連載を開始します。連載タイトルは「作家・阿古真理さんのキッチン探しストーリー」、阿古さんがご自身の理想のキッチンを手に入れるための情報を、住宅関係事業者やキッチンメーカーに取材する企画です。なんとなくご自宅のキッチンに納得がいっていない方や近い将来キッチンを購入する予定のある方が、本連載を通じてそれぞれの理想のキッチンに出会える手助けになるよう情報を発信していきます。

こだわりのキッチンを持つ人を探すと、細かいところまで自分好みに仕上げたオーダーキッチンが多くなる。しかし、世の中の多数派は、システムキッチンを導入する。 ユーチューブで自宅のキッチンを紹介する「キッチンツアー」動画も、オーダーキッチンの場合が多い。

「システムキッチンでよかった!」、という人の声もぜひ拝聴したい。と探していたら、都区内のにぎやかな商店街で自営業を営む今野英治・今野聖奈子夫妻が昨年末、ご自宅マンションの部屋を全面リノベーションした際、パナソニックのシステムキッチンを導入し大満足している、と聞き取材させていただいた。

ご両親から受け継いだマンションの1室をフルリノベ

ダイニング側から見たキッチン、高めのカウンターとワインセラー、メーカーを選択した際のポイントの1つだという白色系の木目化粧板が部屋になじむ

今野さんが育った一戸建てを、ご両親が4階建てのマンションに建て替えたのは35年前。1階にテナントを入れるなど、一部を賃貸にしていた。 2人が結婚してからは29年、ここで暮らしてきた。以前、今野さんのご両親が暮らしていた2階へ移ってからは17、18年。リノベのきっかけは、配管の老朽化だった。

「3年ぐらい前に、3階へ移った母の部屋で給湯器の配管が破裂し、2階の僕らの部屋に滝みたいに水が降ってきて、『これはまずい』と思いました。銅の配管に緑青が動脈硬化みたいに溜まったことが原因で、『他のフロアでもいずれ起こりますよ』、と水道業者さんに言われました。ここから1階のテナントさんに水漏れしたら大変、と全部床をはがしてスケルトン状態にしてからリノベしました。なんだかんだで半年ぐらいかかったかな」と英治さんが説明する。

フロア全体をリノベする必要があったことから、以前は窓がない部屋で暗かったLDKを、南東の窓に面するレイアウトへ変えた。午前中は照明をつけなくてよくなったので、「本当によかった」と2人とも話す。

当初入っていたL字型キッチンは、すでに十数年使われていたこともあり入居時に2列型に交換。2人であちこちのショールームを見て回った結果、表面の化粧材に高級感があるパナソニックの商品を選んでいた。

ふだん使う聖奈子さんに不満がなかったことや、やはり他社より上質な印象を受けたことから、今回もショールームをいくつか巡った結果、パナソニックでLクラスシリーズを選んだ。

背面の収納とキッチンの距離は98センチ、キッチンから振り返って丁度手が届く絶妙な幅とのこと

「柱の位置の関係で通路幅が98センチになったのですが、そのおかげで調理台の前に立ったままほとんど1歩も動かずに、コンロ前の冷蔵庫にも、後ろの棚や引き出しにも手が届くんです」、とうれしそうに話す聖奈子さん。

自宅から徒歩2、3分の職場と往復し、朝昼晩、2人の食事を用意する多忙な生活で、ラクに作業できるキッチンになってとても助かっているそうだ。

パナソニック独自の設備「ワイドコンロ」とオープン対面のレイアウト

聖奈子さんがもう一つ気に入っている点が、以前パナソニックのidobataスタイルの記事でも紹介した、横並び1列の3口のIH、ワイドコンロだ。

「最初、この人は保守的だから、前と同じ俵型の3口コンロを選ぼうとしたんですよ。でも、僕が『絶対、こっちのほうがいい』とワイドコンロを選びました。これなら手前のスペースも使えるし、幅が広いと使い勝手の意味でも余裕ができます。俵型だと、奥のコンロはほとんど使えないんですよ」

と英治さんが話せば、聖奈子さんは

「新しくトライするのはけっこうめんどくさいんです。慣れているモノのまま移行できれば一番いい。でも、交換してみたら、英治さんが言った通り本当にラクでした。鍋の柄が通路に飛び出さないし、手前にお皿を置いてそのまま盛りつけられる。鍋の場所を入れ替えるときも、俵型は手が邪魔になりがちだけど、これはそういうこともないんです」とうれしそうに話す。

パナソニックのシステムキッチンのみで搭載できる「ワイドコンロ」、コンロ手前が一時置きや作業スペースとして利用できる。魚焼きグリルが入らないので、手前も引き出し収納にできた

コンロ前と横だけが壁で、他はオープンな対面式のペニンシュラキッチン。

英治さんが、「油が飛ぶかもしれないから、コンロ前は壁でいいと言いました。ガラスの壁を立てる方法もすすめられたけど、料理する姿は見えなくていいと思ったんです」と話せば、 聖奈子さんが「私は作業中に部屋を見渡せるから、リビングダイニングを向いていて欲しかった」と、この形にした理由を2人がそれぞれ説明する。

背面の食器棚の収納が充実していることもあり、キッチンの上部収納をつけなかったので視界が広い。
背面収納の袋戸棚も、高過ぎると身長158センチの聖奈子さんの手が届かないため、あえて天井まではつけなかった。

既製品の導入と造作工事で、趣味と利便性を同時に叶える

調理台の前には、英治さんが描いた簡単な設計図を基に、工務店が作成したカウンターが加えられている。 キッチン側にゴミ箱、ダイニング側にドリンクセラーの冷蔵庫、グラスなどを入れた食器棚が入る収納棚も兼ねている。

棚の高さは1100ミリで、ダイニング側から調理台を隠す役割もある。 カウンター上は、料理その他の一時置き場にした。ビールがダイニング側の冷蔵庫にあるので、英治さんは好きなときに気兼ねなく取り出せるようになった。

聖奈子さんも調理中に邪魔されなくて済む。今野さん宅のキッチンは、コンロ前に冷蔵庫が置かれている一般的なレイアウトだが、冷蔵庫が奥にあって困る問題は、このように解決する方法もあるのだ。

調理台前に造作したカウンター、一部は食器棚として、その他にドリンクセラーや小物入れなどを収めている

ゴミ箱の収納スペースは、聖奈子さんが大事にしたポイントの一つ。

「これから一生使うかもしれないキッチンで失敗したくないから、リノベ前に周りのお友達からキッチンについて何がダメで何がよかったか、いろいろ聞いたんです。そうしたら、ほとんどの人が『ゴミ箱置き場はいっぱい作っておいたほうがいい』と言うんです。それで、パナソニックの食器棚にオープンなゴミ箱置き場を入れたほかに、ディノスで買った2つのボックスに分かれた2箱、合計4つにゴミを仕分けできるゴミ箱の置き場をシンク横につけました」と聖奈子さん。

目について欲しくない既製品のゴミ箱ケースが使用時以外はピッタリと収まるようにカウンターが設計されている

ゴミ箱置き場については、ダストン理恵さんや駒田由香さんからも聞いた。 今は、数種類以上にゴミを仕分けすることを求められる時代だ。 生ゴミにビニール類、ビン、缶など、キッチンで出るゴミの種類は多いが、駒田さんが指摘していたように、ゴミ箱置き場が十分に確保されていないキッチンは多い。

シンク横以外にも背面収納にゴミ箱を設けている

カウンターのダイニング側は冷蔵庫の上にスペースが空くので、食卓で使う調味料セットのほか、つめ切りやメジャーその他日常で使うこまごまとした道具を入れる引き出しも作った。おかげで部屋がすっきりした、と聖奈子さんは喜ぶ。

カウンター側冷蔵庫上部の引き出し、食卓に出す調味料セットや小物入れとして活用されている

ドリンク類用の冷蔵庫は、実は2つある。
食器棚の横に15度で保ちたいワイン用の冷蔵庫を置き、ダイニング側のドリンクセラーはビールのために5度に保たれている。

「今は省エネ設計になっているから、電気代は気になるほどはかかりません」と英治さん。

「一つ、私がメーカーさんに作っていただきたいのが、『取扱説明書入れ』なんです。マグネットで家電の横につけられるボックスがあれば助かるのに、と長年思っています」と聖奈子さんが言う。

電子レンジ用のトレイと取扱説明書の置き場に困ったため、英治さんが簡易的なボックスを作り電子レンジの下にセットしている。

「作り手は100円ショップでもいいんだけど、家電の横にセットできれば、困ったときに、いちいち取扱説明書を探さなくてもすむでしょう」と指摘する。英治さんも「車にだって車検証入れがあるのに……」と言う。

わが家でも、取扱説明書はまとめて本棚の一角に入れているが、本のように背表紙で見分けることもできないので、その都度探す面倒な思いをしている。

レンジ下のDIYで作成したというボックス、置き場に困ったキッチン周りの取扱説明書やオーブンプレートなどを収納している

選びやすく、品質が安定しやすいのもシステムキッチンの利点

食器棚の引き出しは内法が670ミリもあり、食器やカトラリーなどがたっぷり入る。中の仕切りも、あらかじめ用意されていたとのこと。

「自分で仕切りを買わなくていいのは助かりました。いちいち寸法を測って買いに行くのも大変でしょう。底にすべり止め加工もしてあるから、普通に出し入れする分には食器も動きません。

オーダーキッチンも、好きな人にはいいと思います。でも、私は時間もないし、すべての寸法を測ってデザインを決めていく大変さを考えれば、システムキッチンがよかったんです」と聖奈子さんは説明する。

背面収納内の食器、底がすべり止め加工になっており開閉時も安心、と聖奈子さんは話す

長年、台所の担い手を務めてきた聖奈子さんが語る言葉は、いちいち生活実感に基づいていて説得力がある。

実はコンロを選ぶ際、英治さんは「中華鍋を振りたいから」ガスコンロが欲しいと言ったが、「その頻度がどのぐらいあるか、でしょう」と聖奈子さんが却下したのだという。 聖奈子さんは、お手入れがラクで一時置き場にも使えるIHコンロが断然いい、と譲らなかったのだ。

システムキッチンでも、商品のパーツは大量にある。 長年台所を担ってきた聖奈子さんだからこそ、何が必要で何が不要か判断できたのだろう。

自作や工務店製の収納を加えたこともよかった。
ふだんあまりしないにせよ、暮らしを自分事として捉えている英治さんの的確な提案も効いている。
部屋での納まりがいいベージュの化粧板を選んだのも、英治さんだ。

自営業ということもあるのだろうが、夫婦で一緒に暮らしを積み上げてきた2人のコンビネーションが印象的だった。

考えてみれば、家族は家事を積極的にするかどうかに関係なく、日常的に目にし冷蔵庫などを利用するのがキッチンだ。
それなりに意見を持つのが当然とすれば、もっと家族で関心を持ってもいいのではないだろうか?

集合写真:今野英治さん、今野聖奈子さん、著者阿古真理(左から)

※この記事は理想のキッチンを叶えるwebマガジン「たのしいキッチンmag」から転載しております。

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。
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