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コラム

今の若者は「ベトナム料理ネイティブ世代」。ライスペーパーが人気な理由を探ってみた

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.43】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

Tiktokがきっかけ!若者にライスペーパーが人気

ライスペーパーと言えば生春巻きだ。ところが今、さまざまなアレンジ料理・スイーツの投稿がSNSで大ブームになっている。クックパッド食の検索データ「たべみる」でも、ライスペーパーの検索頻度は昨年に比べ、今年は何と約5.4倍にも増えているのだ。いったいなぜ、どんなレシピが流行しているのだろうか?

突如大ブレークしたきっかけの一つは、Tiktokクリエイターのみかさんが、2021年からダイエット食としてライスペーパーを使ったオリジナルレシピを考案し、多数紹介し始めたこと。その人気ぶりは、「Tiktok上半期トレンド大賞2023」のヒットアイテム部門で、みかさんが受賞したことからもわかる。例えば、カロリーカットのアイスクリームをライスペーパーで包み、片栗粉をまぶした雪見だいふく風、せんべい風、しゃぶしゃぶ風など、斬新な使い方を次々に考案している

みかさんのインスタをチェックすると、ライスペーパーを戻してから丸めて伸ばし、パスタ状にしてカルボナーラにして食べる。ライスペーパーを水で戻してから丸めてつなげ、ミスタードーナツのポンデリングを模したものに、醤油やみりんなどで作ったみたらし団子のタレをかけて食べる料理などがあった。自由自在の柔軟な発想力に驚く。

韓国でもライスペーパーでうるち米のもち、トッポッギをつくるなどのライスペーパー料理がブームになっているので、韓流ファンから流行が始まった側面もある。

そうした二つのSNS発の流行が反映され、クックパッドのレシピ投稿でもライスペーパーのアレンジが増えたわけだ。広島風お好み焼きの小麦粉を水に溶かして台にするところをライスペーパーに置き換えた「ライスペーパーお好み焼き」や、子育て世代に人気の重ね焼きで大葉、薄切り豚肉、スライスチーズを重ねライスペーパーに包んで焼く「ライスペーパーで豚しそチーズ焼き」などが、モチモチ食感でウケている。

面白さや映えが注目を集めるSNSがトレンドを引っ張る時代になり、こうしたなんちゃって料理、もどき料理などの斬新レシピは、人気になることが多い。『家事ヤロウ!!!』(テレビ朝日系)など、テレビ番組でもバズったレシピを再現し人気を集める傾向がある。

しかし、そうしたアレンジレシピ隆盛の時代でも、ライスペーパーは、最近まで見逃されてきたかもしれない。

それはおそらく、ライスペーパーはカレールウやケチャップ、パスタなどと異なり、まだどこの家庭でも当たり前にストックされている食材とは言えないからだろう。

ライスペーパーは生春巻きに使うもの、という先入観を離れて見直せば、材料は米粉と水だけ。米粉の代用としても、小麦粉、トウモロコシ粉の代用としても使える。そう考えれば、焼いても揚げても何でもありだ

「ベトナム料理ネイティブ世代」がブームを広めた

こうした流行が起こったのは、ライスペーパーネイティブというか、生春巻きを日常の食べ物として育った世代が大人になったことも影響しているかもしれない。昭和育ちの私は、30歳手前の1990年代の終わり頃、当時銀座一丁目にあったサイゴンの支店で初めてベトナム料理を食べた。そのとき食べたライスペーパー料理は、生春巻きと蒸し春巻き。どちらもとてもおいしく、中華料理の揚げ春巻きとは違う、もちもちの食感と透明感があるライスペーパーで料理が華やかになるのに驚いた。ちょうど、アジア料理のブームにベトナム料理が加わり始めた時期だ。

サイゴンはその後、2000年に渋谷駅前にあった東急百貨店が、東急フードショーのリニューアルオープンでデパ地下ブームに火をつけた際、看板料理の一つとして生春巻きを販売し、ブームになった。大人になって出合った私たち世代はおそらく、生春巻きなどに使うイメージから発想を広げることが難しかったかもしれない。しかし時代は変わった。

2010年代半ば頃から再燃したアジア料理ブームは、日本で暮らす移民が激増し本格的なアジア料理店が増えたことや、旅行その他で現地の食に触れた人が多くなったことが影響している。移民が多い全国各地の町に、移民たちが自ら輸入販売する食材店が増えたが、その中にはライスペーパーも入っている。

最初のブームと二度目のブームの大きな違いは、距離感が縮まったこともあり、家庭料理にもアジア料理が入っていったことだろう。特に人気が高い食材・調味料は、アジア食材店以外のスーパーなどでも手に入る。ライスペーパーもその一つで、手軽に買うことができるようになっている。そこへ、SNSを中心にしたもどき料理の人気、世界の料理に親しむ世代の登場が加わり、一気に火がついたと言える。

まさかライスペーパーでドーナツやお好み焼きを作れるなんて、思いつかない人が多かったからこそ、急激なブームで盛り上がるのだろう。その中に、将来世代も受け継ぐ定番アイテムは生まれるだろうか。しばらく見守っていたい。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『母と娘はなぜ対立するのか』『平成・令和食ブーム総ざらい』『日本外食全史』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』『ラクしておいしい令和のごはん革命』『家事は大変って気づきましたか?』など。

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執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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