お米は日本の主食ですが、世界を見渡すとお米を食べている国は意外とたくさんあります。お米の食べ方や炊き方、保管方法、そしてお米の価値観など、世界のお米を知ると、その多様性や魅力を再発見することができます。そこでこの連載では、知っているようで知らない海外のお米料理をお米のコバナシとともにお米ライター柏木智帆がお届けします。
数年前にスペイン・バルセロナで現地の人にイチオシのお米料理は何かと尋ねると、「POKE BOWL」の店を教えてくれました。
当時は「ポケボウル」を知らなかったので、「何それ…ポ◯モンのモ◯スターボール?」といぶかしく思いながら店に向かいました。
店に入ると、野菜や魚介類などさまざまな具材がケースの中にずらり。マグロ、アボカド、豆腐、きゅうり、人参を選ぶと、店員さんが透明のボウル型容器に入れたごはんの上に具材をのせてくれました。どうやら「ポケボウル」とは好きな具をごはんにトッピングする「のっけ丼」のようです。
お米はイタリア産ジャポニカ米。見た目は日本のお米にそっくりです。ごはんは炊飯器からよそっていたので白飯かと思ったらなんと酢飯。たしかにメニューには「SUSHI RICE」と書かれています。ごはんはパサッとしていて、ところどころ固まってダマ状になり、温かいのに冷や飯のような状態でした。ごはんだけでは食べづらかったのですが、混ぜるとライスサラダのようになって、粘りのある日本のお米よりも合うように感じました。
その後、「ポケボウル」はハワイのローカルフードだと知り、調べてみるとハワイだけでなく、日本やシンガポール、オーストラリアなどさまざまな国にポケボウルの店がありました。
ポケ(ポキ)はハワイ語で「(魚の)切り身」。塩、醤油、油、香味野菜、海藻などを混ぜて調味したポケ(ポキ)をのせた丼もの(ボウル)がポケボウルなのだそうです(酢飯にしないのが主流のようです)。
しかし、お米料理と言えばパエリアをはじめ煮込んだお米が定番のスペイン。日本的な丼ものが受け入れられるのだろうか…と思いながら、ごはんと具を混ぜると、どこかで見たような料理になってきました。
思い返すと、それは数時間前にバルセロナの市場にある惣菜店で見たライスサラダ。これならスペイン人にもなじみやすそうです。周囲を見回すと、スペイン人が上手に箸を使ってポケボウルを食べていました。
この惣菜店にはビーガン向けに動物性を使わないポケボウルもありました。もはやポケボウルと呼べるのか謎ですが、好きな具材で自由に楽しめるのも冒頭のスペイン人がこのポケボウルを推す理由の一つかもしれません。
以前にクックパッドニュースのコラムで、お米を肴にお酒を飲む「つまみめし」レシピを紹介していましたが、ポケボウルもまさに「つまみめし」。ビールとの相性がバッチリでした。
一緒にポケボウルを食べた夫は「「カミアカリ」でこの料理を作ったらうまそう」と言っていました。
カミアカリとは、静岡県の米農家・松下明弘さんが生み出した巨大胚芽の玄米専用品種。胚芽部分がサクサクとしていて玄米でも軽やかな食感です。
たしかにこの品種をポケボウルに使うと、ジャポニカ米の白飯よりもさらにサラダ感覚が増して、また違ったおいしさになりました。コーンフレークなどクリスピーな食感になじんでいる国の人にも受け入れられそうです。
巨大胚芽米が手に入らない場合は、普段食べているお米でも大丈夫。できれば粘りが少なく粒がしっかりとしたお米をおすすめします。
ちなみに、パラパラとした長粒米を使うとポケボウルというよりもライスサラダ寄りになりますが、野菜や豆など具材によっては合います。ちなみにバルセロナの市場の惣菜店では「ラルゴ」という長粒米がライスサラダに使われていました。
ポケボウルは常夏のハワイで好まれているだけあって、丼ものとは言え軽やかな食べ心地。汗ばむような陽気の日には、ぜひ作ってみてはいかがでしょうか。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
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