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コラム

最強の時短料理!?改めて「スープ」の魅力に迫る

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.13】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

近年の「スープ」ブームのきっかけ

寒い冬。温かいスープが食べたい、と思う人は、最近増えているのかもしれない。もちろん以前からも、冬になると夕食のクリームシチューや、朝食のコーンスープのCMは流れていた。それでも、多くの日本人にとって、「汁もの≒味噌汁」だった期間が長かったのかもしれない。というのはここ数年、スープが「流行」しているからだ

スープストックトーキョーが、具だくさんの「食べるスープ」を引っ提げ、お台場のヴィーナスフォートに1号店を開いたのは1999年8月。同チェーンを通じて、さまざまな味、具材を組み合わせられるスープの魅力に気づいた人はいただろう。しかし、それでもまだまだスープの可能性は眠っていた、と言える。

ここ2~3年、スープのレシピ本が次々と刊行され、書店の棚にスープレシピ本コーナーができるほど流行しているのだ。レシピが流行するということは、作り方が分からない、レパートリーがない、と思っている人が多いからである。それは、スープを日常的に作る文化があまりなかったからではないだろうか

アマゾンで「スープレシピ本」と入れると、ここ1~2年刊行の本がずらりと並ぶ。『365日のスープ』(macaroni、KADOKAWA、2019年)、『基本調味料で作る体にいいスープ』(齋藤奈々子、主婦と生活社、2020年)、『やせる!キレイになる!ベジたんスープ50』(Atsushi、小学館、2020年)、『まいにち腸活スープ』(奥薗壽子著、小林暁子監修、PHP研究所、2020年)……。

スープが流行するきっかけは、2016年に二つあった。一つは、「スープ作家」を名乗る有賀薫さんが2016年に『365日のめざましスープ』(SBクリエイティブ)でデビューしたこと。彼女の作品がヒットして、スープ単体でレシピ本が成立すると発見されたのか、次々とスープレシピ本が出た。ジャンルができたことが、他の本の人気も高める。

例えば、有賀さんの2019年に出た『朝10分でできるスープ弁当』(マガジンハウス)が、10万部のベストセラーとなった。すると、時短料理の大御所でもある奥薗壽子さん監修で2013年に出た『奥薗壽子のスープジャーのお弁当』(世界文化社)も、書店に平積みされるようになった。類書も登場。クックパッド食の検索サービス「たべみる」でも、「スープ弁当」の検索が急上昇。2019年は前年の1・8倍、2020年は前年の2倍も検索されている。

もう一つのきっかけは、コンビニ各社が、具だくさんの食べるスープの販売を強化したこと。レシピ本の動向を見ていると、2016年にスープの存在感が急浮上し、ここ2年ほどで市民権を得たと言える。

それまで汁ものの中心は味噌汁で、カレーやシチュー、ラーメンやうどんが加わるぐらい、とパターンが決まっていた人は多かったのかもしれない。それはつまり、スープの無尽蔵な可能性に気がついていなかった、ということだ。

時短かつ栄養たっぷり。スープの魅力

以前、『料理は女の義務ですか』(新潮新書、2017年)でも書いたが、スープは人類が長い間作ってきた基本の料理である。

作る量や分ける人数を調節できる。煮返して何度も食べられる。しかし、味噌汁やおすましは、煮返すのに向かない。だから、日本人は何度も煮返して食べられるスープの便利さに、あまり気づいていなかったのかもしれない。それから、失敗が少ない。火が十分通っていなかったら、再加熱すればよいし、具材が煮崩れても食べられなくはならない。肉や野菜のうま味も十分に活用できる。

疲れたときに癒してくれる料理でもある。健康管理やダイエットが目的のスープレシピ本が目立つのも、歯や消化器官への負担が比較的少ない料理という側面があるからだろう。

クックパッドの食の検索サービス「たべみる」で個別にスープの人気をたどってみると、なぜかミネストローネがここ10年ほど人気だ。まず、2010年から2012年にかけて1・45倍ほど伸び、しばらく増減をくり返した後、2017年頃から再び増加している。そして2020年12月には、ポピュラーなスープの中でも特に検索頻度が高かった。

ミネストローネは具材の種類が多く、細かく刻む必要がある。ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、セロリなど、定番の材料は皮むきが面倒だ。手間がかかるのに人気が上がっているのは、コロナ禍で家にいる時間が長くなり、家族の健康を気遣う程度が上がったからかもしれない。なるべくたくさんの野菜を使って、栄養バランスのよい食事で免疫力を上げたい。そんな思いが垣間見える。

そして、先に挙げたように、たっぷり作っておけば二度三度と食べられる。コンソメ味ならトマト缶を追加して味を変える、パスタを加えるなどのアレンジもできる。その利便性ももしかすると、支持が上がってきた理由なのかもしれない。

次に人気が高いのは、クラムチャウダーだ。これはタンパク源であるアサリが入り、牛乳を入れる場合もある。1品で一汁一菜を兼ねられる点も魅力だ。コース料理の最初に出されるスープは具材が少ないが、食事の中心なら具だくさんにできる。そのことも、多くの人にとっては発見だったのかもしれない。

汁もの好きな私は、真夏以外たいてい汁ものを食卓にのせる。中華スープの素を使って、きくらげやニンジン、大根のスープにする。残り野菜を炒め合わせて、コンソメまたは牛乳またはトマト缶を加える。冬は豚汁や粕汁も作る。もちろん味噌汁もある。味つけと具材の組み合わせ方次第で、いくらでもバリエーションが広がるし、多忙な時期は、それこそ初回の手間だけかければ、3回ぐらい温め直すだけで済むところも気に入っている。

そのように自分に引きつけて考えれば、スープの人気は、時短を求める多忙な人の増加と軌を一にしていることに気づく。もしかすると、最強の時短料理なのかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。

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