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1年以上休校が続くインドネシア。家庭の食卓に「SUSHI」が登場し始めたワケとは!?【#コロナ禍で変わった世界の食卓】

新型コロナウイルスの影響で、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。その中でも、とくに食生活が変わったと感じる方も少なくないでしょう。日本では自宅で料理を作る人が増え、家族で楽しめるホットプレート料理やお菓子作りの人気が高まりましたが、こういった現象は日本国内だけのものなのでしょうか。今回、クックパッドではコロナ禍による食の変化に注目。世界の食事情について各国に取材し、現地の方にお話を伺いました。

第3回は「インドネシア」の食事情を調査。インドネシアの日本国大使館の統計によると、首都のジャカルタには約2万人もの日本人が在住しています。日本と繋がりの強いこの国の食卓は、コロナ禍でどのような影響を受けたのでしょうか。現地の方に話を伺いました。

学校が1年以上休校。そのとき親は…

インドネシアでは新型コロナの影響で昨年から1年以上休校が続いています。日本で休校が続いたときは、小さい子を持つ親から「朝から晩まで子どもの世話に追われて大変」「家族分の食事を一日中作るのはツラい」という声も多く聞かれましたが、インドネシアではこの状況はどのように捉えられているのでしょうか。インドネシア西ジャワ州のボゴール在住で、18歳と8歳のお子さんを持つ主婦・アイ・リスティアンティさん(40歳)に話を伺いました。

「パンデミック前は朝と晩に料理を作っていましたが、今は1日に3回、もしくはそれ以上に作る回数が増えました。子どもたちは自宅でオンライン授業を受けているため、料理のほかに子どもの勉強も見てあげなければなりません。親たちは誰もが先生にならねばならず、この状況にストレスを抱えている人も多いはずです。私自身も勉強を嫌がる子どもの機嫌をとったり、宿題を手伝ったりしながら、家族の健康を考えた食事を作っていますが、とても大変です」

オンラインで食品を買う?買わない?

子どもと接する時間が増えたことで変わったことも多く、戸惑いを感じることも。また、買い物の仕方にも変化が生まれたそう。

「インドネシアでは公共の施設への入場が通常の50%に制限されたため、買い物にも気軽に行けなくなりました。そのため、多くのお店がオンラインで食品の販売を始めましたが、私は自分の目で選んで新鮮な食材を買いたかったので、生鮮食品だけは市場で買うようにしています。どうしてもオンラインで買わなければいけないときは、実店舗では見つけにくいものや、目で見て確認する必要のないものを買っています」

インドネシアではGo-jek(ゴジェック)やGrab(グラブ)などのインドネシア版Uberともいえるサービスがコロナ禍でさらに普及し、食事や食材や日用品までなんでも届けてくれます。ただ、やはり新鮮なものを自分の目で選んで買いたい! という欲求はあるようですね。休校が続いている状態なので、家族全員の食事をまかなうにはやはり家で作る方が経済的ですし、テイクアウトに頼りすぎない傾向があるのかもしれません。

家で作る料理が、意外な方向に変化

外で遊べない子どもたちに食事をエンタメとして楽しんでもらえるよう、料理やお菓子作りも工夫してこなしているというアイさん。制限も負担も増えていく中、家庭で作る料理にはどんな変化があったのでしょうか。

「移動の頻度が限られるようになり、外食もそれまで週に2回は行っていたのが月に1、2回に減りました。その結果、お寿司やしゃぶしゃぶなど、いつもショッピングモールで食べるものも自分で作るようになりました。パンデミック前までは“日本食はレストランで食べるもの”という認識だったので家で作ることはありませんでしたが、今ではお寿司やしゃぶしゃぶのほか、鉄板焼きや味噌汁、ラーメンなども自分で作っています」

実は、インドネシアには自動車産業を中心とする日本企業が進出しており、駐在員も多く住んでいるため、日本で耳馴染みのある外食チェーン店が多数存在します。吉野家やしゃぶ八、肉のハナマサ、大戸屋、富士そば、丸亀製麺などが人気を集めており、日本人のみならず、インドネシアの多くの人が利用しているそう。

現地の吉野家の店舗の様子。日本食のチェーン店はインドネシアの方にとっても日常的な存在とのこと。
(写真提供:ジャカルタブログ

こちらはインドネシアで人気のラーメンチェーン店「一喰堂」

また、日本人が経営していない日本食のお店もたくさんあり、自由な発想のメニューが人気を集めています。

「パンデミック前は日本食レストランによく行っていました。中でもお気に入りは『ICHIBAN SUSHI 一番寿司』。日本のスタイルでありながら、よりインドネシアにあう味にローカライズされているんです。巻き寿司を天ぷらにして、スパイシーソースとマヨネーズをかけた『ボルケーノロール』が家族全員大好きです」

魚を生食する文化ではないインドネシアでは、握り寿司に抵抗がある人々も多いため、火の通った具材を使った巻き寿司がとくに人気です。ICHIBAN SUSHIでも巻き寿司のメニューが豊富で、リーズナブルに日本食を楽しめるとして現地の人に親しまれているチェーン店です。

SUSHIを家で楽しむ機会が増えた

実際にアイさんのように家で日本食を作る人は増えており、クックパッドインドネシアでは「SUSHI」のレシピ投稿数が2019年には1315品だったのに対し、2021年5月現在で2220品にまで増えています

またGoogleの検索データにも変化が見られます。インドネシアで初めて新型コロナウイルス感染者が報告された2020年3月は、人々は寿司のようなナマモノを食べることへの恐怖心が高まり、SUSHIの検索動向はいったん下降しました。これは主に寿司レストランなど、外食をするための検索が減ったと考えられます。その後に春から夏にかけて検索数は上昇しますが、こちらは家庭で料理することを目的とした検索が増えたものと思われます。

ステイホームが始まった2020年春から夏にかけて、インドネシアでの「SUSHI」の検索数が変化していることがわかります。(Google Trendより)

インドネシアではナマモノを使った寿司は外食で食べるもので、家で作る場合はナマモノを使わない巻き寿司が主流。日本では家庭で作る寿司というと、ちらし寿司や手巻き寿司など色々とありますが、インドネシアでは巻き寿司を指します。

「家でお寿司を作るときは、ナマモノは避けて、子どもたちの好きなチキンナゲットとアボカドを米と海苔で巻いて作ります。最近はハラル(イスラム教徒で許可されている食材)の代替品も多く、日本食を作るのも簡単になってきました。寿司のほかにも、鉄板焼き、ラーメン、たこ焼きを作るのは大好きで、レストランで食べるのと同じような味になるとうれしくなります。本格的な味を再現するために、必要な食材を調べて購入したり、鉄板やたこ焼き器など、レストランで使われているものと同じような食器や道具を探したりもしました。それに、日本料理は材料がシンプルで、調理も簡単なのがいいところだと思います」

現地では日本の調味料も売られており、ハラル対応の醤油やみりんも手に入ります。そして、日本風の調味料としてめんたいソース(日本でいうところの明太マヨネーズ)がとても人気があり、家庭で作る寿司の味付けによく使われるのだとか。この記事のメイン写真で紹介しているのはめんたいソースで作られた寿司で、「SUSHI MENTAI」と呼ばれるそう。

インドネシアの家庭で日本食作りが人気になった昨年の春は、「mentai」の検索数が伸びています。

全世界の親が直面した⁉️おやつ問題

パンデミックの初めの頃には、日本食だけでなく「セミラン(おやつ)」や「スナック」のレシピを検索する人が増加傾向に。家族のために軽い食事やおやつを作るためのヒントを見つけようとする人が増えました。

「cemilan resep」(セミラン=おやつ のレシピ)の検索の伸びは凄まじく、2020年の4月頃はそれ以前の4倍ほどになっています(Google Trendより)

「子どもが休校で家にいるため、外のおやつを食べたがる子どもたちをなんとかしなければいけません。そこで私はパンデミック中にたくさん実験してレシピを開発したり、飲み物やおやつなども手作りしました。例えば、学校のおやつとして人気のある『チレン』というスナックを作ったほか、今まで外で食べたり買ったりしていたものを家で再現してみることが多くなりましたね」

インドネシアの国民的なスナック「チレン」。キャッサバ粉を使った揚げ菓子。(画像提供;クックパッドインドネシア)

インドネシアでは、今でも多くの学校が閉鎖された状態。昨年から引き続き、思うように買い物に出られない、外食もしづらい日々が続いている状況ですが、できるだけ家で料理することで、感染リスクを減らせるという安心感も得られるのだそう。これまで作ったことのない異国の料理に挑戦したり、調理や食卓の演出のために道具を揃えたりと、自分で「楽しみ」を探しながら様々な工夫をしつつ料理に励んでいるようです。

皆さんも世界各国の料理に目を向けてみると、新たな発見があって面白いかもしれません。

(TEXT:河野友美子、中山あこ、植木優帆)

#コロナ禍で変わった世界の食卓

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースでは、コロナ禍で変わった世界の食事情をリサーチ。各国で高まったムーブメントや、人気になった料理を現地の方にお伺いしました。世界の食卓に、明日から取り入れられる食のヒントがあるかもしれませんよ。

取材協力:クックパッドインドネシア

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