【日常酒飯の「つまみめし」レシピvol.10】「お酒の締めにお米を食べようとすると、お腹がいっぱいで食べられない」。そんな声を聞くことがあります。ならば、お米を食べながら、お酒を楽しむのはどうでしょう?思わずお酒が呑みたくなるようなお米料理。つまり、「つまみ」になる「めし」。名付けて「つまみめし」。お米(ごはん)とお米(日本酒)のペアリングで、楽しい“日常酒飯”の食卓に。お酒の肴になるだけでなく、子どももおいしく食べられる「つまみめし」を、お米ライター柏木智帆がお米のコバナシとともにお届けします。
3月3日は桃の節句。私が子どもの頃は、ちらし寿司と言えば、刻んで甘辛く煮た人参と椎茸、酢れんこんが酢飯に混ざっていて、皿によそった後は刻み海苔や錦糸卵をのせるだけのシンプルなものでした。同年代の夫も似たようなちらし寿司が定番だったそうです。
最近はサーモンやいくら、ボイルえび、甘えびなど、海鮮がのった華やかなちらし寿司が多いようです。
しかし、わが家は夫がベジタリアン。そして、海鮮系は値段が高め。そうした理由もあって定番となっているのが動物性の食材を一切使用しない「野菜の五目ちらし寿司」です。
刻んだ切り干し大根・椎茸・人参を甘辛く煮て酢飯に混ぜ、酢れんこんと茹でた菜の花を飾って完成。酢れんこんに使うれんこんは太すぎないものを選ぶと、花のようなかわいらしい断面をそのまま活かすことができます。
お米の品種は粘りの少ないあっさりとしたものがおすすめ。粒離れが良く、口の中で粒がほろほろとほどける酢飯が理想です。お米は冷蔵庫の中で6時間以上かけてしっかりと浸水させると、米粒の芯までしっかりと火が入り、ふっくらと炊き上げることができます。寿司酢を混ぜるため、少なめの水で炊飯することもポイントです。
地味ではありますが、素朴でおいしいちらし寿司。これを食べると、私も夫も子どものころに食べたちらし寿司を思い出して郷愁に浸るのです。もちろんお酒にも合います。
このレシピに使っている赤酢とは、酒粕を原料にして酢酸発酵させた酢です。一般的な酢(米酢)はお米が原料でうっすらと黄みがかっていますが、赤酢は茶褐色。香りは独特かつ強めでありながらも、酢のツンとした刺激が少なくマイルドな味わい。そして、強い旨みが特徴です。
以前、赤酢100%のシャリを使った江戸前寿司店でそのおいしさに感激して家でも真似してみましたが、野菜の五目ちらし寿司には少々個性的すぎるように感じたため、寿司酢に少量だけ赤酢を混ぜる今のレシピに落ち着きました。
熟成された濃い色の赤酢はほんのりと甘さもあるので、砂糖などの甘味の添加を極力抑えるのにも重宝しています。また、赤酢の色のおかげでご飯に混ぜ込むときに目視で確認しながらムラなく均一に混ぜ込むことができるのも大きな利点です。
今回紹介したレシピは酢飯としては薄味ですが、ごはんに具を混ぜ込むためあえて薄味に仕上げています。具を混ぜない酢飯を作る際も、このレシピの酢の量ならば酢飯が苦手なお子さまにもおすすめ。2歳の娘は酢飯が得意ではありませんが、このレシピの酢飯は食べてくれます。
酢飯は熱々の炊きたてごはんに寿司酢を混ぜてから、人肌ほどの温かさになって酢飯がなじんできた頃に完成します。そのため、食べる直前に寿司酢を混ぜ込むのではなく、寿司酢がなじむ時間を想定して作っておくと良いでしょう(砂糖を使わない酢飯の場合は冷めると硬くなりやすいため、早く作りすぎるのもおすすめしませんが)。
また、酢飯に使う寿司酢は事前に作っておいたものでも市販のものでもOK。ちなみに、市販の寿司酢の中には、砂糖の代わりにハチミツを使ったものや、赤酢と米酢と酢だけでつくられたものなど、砂糖不使用のものもあります。また、酢は発酵方法によって味わいが変わり、赤酢は熟成期間によっても味わいが変わります。
さまざまな酢や配合を試してみて、家庭の定番酢飯を探してみてはいかがでしょうか。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。