日本No.1レシピサイト「クックパッド」編集部
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第13回目・14回目のゲストは、20th Centuryの長野博さんです。
小竹:長野さんというと、食べるのが好きで、お料理も好きで、業界きっての食の探究者というイメージがあります。
長野さん(以下、敬称略):いやいや、本当に好きで興味があるんです。僕は知ることがすごく好きで、人の話も聞きたいし、知識として蓄えたいという感じです。
小竹:食べ物には子どもの頃から興味があったのですか?
長野:うちは自営業なんです。自転車屋さんで、今も父親が経営しているのですが、自営業だと夕飯を食べる時間が結構遅いんですよね。
小竹:わかります。うちも米屋なのですが、8時半くらいでした。
長野:うちも9時とかが普通でした。そうすると、お腹が空いちゃうから、お菓子とかカップラーメンとか簡単なパスタとかを繋ぎで食べてから夕飯みたいなことがあったり、外食も結構多かったりしたんです。
小竹:それはご家族で?
長野:家族で行くこともありますし、うちの2軒隣くらいにラーメン屋さんがあって、多いときは週3回くらいでそこに行っていたり、牛丼屋さんに家族分を買いに行ったり、そういうことがすごく多かったんです。なので、外に食べ行くことが自然に自分の中に落とし込まれたというか。
小竹:私は田舎で外食がないからスペシャルなときしか行けませんでしたが、長野さんは日常の中に家庭料理も外食もあった感じなのですね。
長野:そうですね。もちろん母親もよく作ってくれていたのですが、外食の機会も意外と多くて。あと、今思い返すと、車で30分くらい行くところに連れて行ってくれたりもしましたね。
小竹:それは何のお店ですか?
長野:アメリカンステーキのお店で、サラダバーがあって。「サラダバーというものが世の中にはあるんだ!」って驚いて、サラダでお腹いっぱいになっちゃったりしたこともありました(笑)。
小竹:わかります(笑)。
長野:あと、家の近くのとんかつ屋さんに行ったら、注文してから40分くらい待ったんです。たぶん注文を聞いてから肉を叩いてじっくりと揚げるみたいな店なんです。そのときに、「とんかつはこのくらい待つのが当たり前なんだ」と感じて。今の舌であのとんかつを食べてみたいと思ったりもします。
小竹:そのお店は今はないのですか?
長野:それは40年くらい前の話なので、お店はなくなっちゃったんです。そういうことがちょこちょこあったので、家でも食べる、外でも食べるというのが自然になっていったのかもしれないです。
小竹:食べることへの意識が高まったのも子どもの頃からですか?
長野:やっぱり行くのが楽しかったですからね。あと、1年に1回か2年に1回くらい、ちゃんとしたフレンチのお店に連れて行ってもらったのも覚えていて。そのときだけは普通の感じではなく、ちゃんと着替えて連れて行ってくれていたのを改めて思い出します
小竹:ご両親もおいしいものが好きだということですね。
長野:たぶんそうですね。あと、行くこと自体が好きですね。モーターショーとか宇宙博とか、そういうイベントにもよく連れて行ってもらいました。その頃は行くのが楽しくて、もちろん食べておいしいんですけど、そこで興味が培われたという感覚ではないかも。でも、今思うとそこがすごく大事だったんでしょうね。
小竹:思い出の料理をよく聞くのですが、味よりもどういう風に行ったかとか誰と行ったかみたいなストーリーの話が思い出の料理につながっている人は多いです。
長野:うんうん。興味を持ち始めたのとは違うかもしれないですけど、バイトをして自分で稼いだお金で食べるとか、そういうものでやっぱり意識が変わってきますよね。
小竹:ちなみに、最初に自分でお金を払って食べたものは?
長野:高校生くらいの頃から行っている焼肉屋さんがあって、ものすごく安いんです。もう食べられないというくらい食べて、1人2500円とか。友達も何度も連れて行って、その友達も「あの店また行こうぜ」ってリピートしたくなるようなお店なんです。
小竹:たしかに安い!
長野:東京に住むようになってからも、東京の友達をわざわざ地元に連れて行ってそのお店に行っていました。その当時から少しは値上がりしていますけど、今でもお店は現存しています。そのお店は自分のお金で払って食べていましたね。
小竹:自分で払うとまた違いますよね。
長野:やっぱり意識も違いますしね。高校卒業して専門学校が横浜だったのですが、まだ東京に1軒もないときに家系ラーメンのお店がたくさんあって、友達がひとり暮らしをしているアパートの下も家系ラーメン店でそこで食べたりしていたのですが、行く時間によってスープの味が変わるんです。
小竹:より濃厚になるみたいな感じですか?
長野:そういう感覚もありましたし、働いている人でも変わるんです。そこで味の違いに気づき始めて、いろいろな家系ラーメン店に行き出したみたいなのがスタートですかね。だから、食べ歩きは家系ラーメンから。自分のお金で払って食べ歩きを始めたのはラーメンからなんです。
小竹:食べ歩きを始めた中で、今でも忘れられない味や料理はありますか?
長野:今でこそクオリティの高い食べ放題のお店がいっぱいありますけど、僕が高校生当時も食べ放題のお店は結構あったんです。そこも親が連れて行ってくれたのですが、ロースなのかカルビなのか何の肉なのかわからないけど、お腹いっぱいになるからいいやみたいな感じで(笑)。
小竹:うんうん(笑)。
長野:そういうお店で焼肉を食べていたのですが、あるとき友達が焼肉専門店に連れて行ってくれたんです。そこで「焼肉っておいしい!」と改めて感じて。「タン塩を頼んでいいよ」と言われて、そういう言い方をするということはタン塩は高いんだなとか感じながら食べたのはすごく覚えています。
小竹:私は高校生のときにバブルだったので、いろいろなお肉を食べた記憶がありますが、私もお肉の区別はできませんでしたね。
長野:当時は今みたいに部位を出す時代でもないですし、わかりやすい部位だけでしたしね。こういう部位を食べようという意識も全くなく食べていたけど、「タンってこんな感じなんだ」みたいな感じでしたね。
小竹:焼肉やラーメンは今でもお好きですか?
長野:今でも食べますけど、今はもうオールジャンルです。麺でも甘いものでも全てです。ソフトクリームならソフトクリーム、わらび餅ならわらび餅、大福なら大福みたいに、それだけをピンポイントではしごすることもあります。
小竹:お話を聞いていると、味だけではなく、人を見たりお店を見たりする感じですか?
長野:人やお店よりも物を見ちゃいますね。例えば、ソフトクリームであれば、素材や質、製造する機械も見ます。かき氷も大体2社なので、どっちの会社の機械を使っているのかなとか。
小竹:どういう氷を使っているのかとか?
長野:氷は大体は純氷か天然氷かに分かれるので、天然氷ならどこの蔵元なのかもあるし、純氷なら純氷でいろいろな会社がありますから。それよりも削りとシロップをどういう風に作り上げようとしているのかなとかですね。
小竹:そこに興味があるのですね。
長野:お客様の前に出るまでにどういう工程を通ってきているのか。素材も料理の工程もどういう人が作っているのかも全てに興味があります。わかって食べたほうが絶対に楽しいし、本当はすごいのにスルーしているのはもったいないと思うので、そこはキャッチしたいです。
小竹:10年以上、畑をされていたのですよね?
長野:そうですね。番組で畑をやらせていいただいて、作物はあらゆるものを作りました。発酵食品もお酒系とお酢やみりん系でなければ大体作ったと思います。スパイスも作って、その畑だけで採れたスパイスと食材でカレーを作りました。
小竹:お米も?
長野:お米も作りました。ただ、どうしてもクミンだけができなかったので、クミンは入れるバージョンと入れないバージョンを作りました。なんでも大体やりましたね。
小竹:塩麹はどうですか?
長野:塩麹は塩違いで作りました。同じ米麹でも、塩によって状態は全て変わるんです。塩にはマグネシウム、カルシウム、カリウムなどのミネラルが入っていて、その含有量が違うので、それによって全て状態が変わる。梅干しも同じ梅で塩違いで作りました。
小竹:梅干しは毎年作られているのですよね?
長野:そうですね。梅しごとは梅狩りから毎年やっています。今年は一番いい時期に蜂が飛びづらくて受粉ができなかったとか、いろいろな原因があって難しかったみたいですけど、僕がいつも梅狩りに行っているところは、一緒に行った人数に対して大丈夫な量が採れましたね。
小竹:私は紫蘇を入れないで干すのですが、紫蘇は入れますか?
長野:入れますね。最近は干さずに梅漬けにする人も多いみたいですが、やっぱり干すのが大事ですよね。つゆによって皮が柔らかくなるからそこも大事だし、下が土か土ではないかでも変わってくるので、梅干しは奥が深いです。
小竹:私は下は土ではないですね。
長野:都心だと難しいですよね。僕もなかなかそれは難しいのですが、やっぱり違うという話はよく聞きます。あと、ただ塩をまぶして入れるだけではないとか、ちゃんと重さを測るとかも教わりました。重い梅は上にして重しにするって。
小竹:全く気づかずにそのまま入れていました…。
長野:あと、ヘタを取ったとこにちゃんと塩を塗り込むことで梅酢が早く上がるとか、そういうことを名人に教えてもらったんです。100年持つ梅干しということで教えていただきました。
小竹:毎年作るのなら、年ごとの梅干しが家にあるのですか?
長野:一番古いので10年ものとかもありますよ。色は茶色や黒のようになってきますけど、味わいは変わりますね。もちろん塩の角も取れますし。小竹さんは何%くらいで漬けているのですか?
小竹:私は11%です。
長野:低いですね。低いと梅酢があがりづらいから、管理がしっかりできているんですね。チャックがついているビニールの袋だと失敗しづらいですよね。空気を抜いてあげて。
小竹:そうそう。最初のとき、あれで作りました。
長野:梅酢も回りやすいし、空気に触れるところが少ないから、塩分量が少なくてもカビにくいですよね。
小竹:長野さんは何%で作られているのですか?
長野:僕は16%くらいのイメージですけど、漬けたりすると手やボールに残るので、それを見込んで17%弱くらいのグラム数でやっています。僕は梅酢があがらなくてカビたことがあるので、15%以上にはするようにしていますね。
小竹:持って来ればよかった。食べてもらいたかった(笑)。
長野:食べてみたかったです(笑)。僕はあえて昆布を入れてみるとか、いろいろなことをやりました。梅干しに旨味が入るのかわかりませんでしたけど。昆布を入れて梅紫蘇を入れたんですけど、色がめちゃくちゃ薄いんです。薄い黄土色みたいな、紫蘇を入れないときの色みたいになるんです。
小竹:じゃあ、毎年この梅しごとの時期は大忙しですね。
長野:そうですね。でも楽しいです。梅シロップも漬けますし、梅シロップも10年物とかがあります。濃いコーヒーのような色になっていますね。
小竹:梅しごと以外では味噌とかも毎年作っているのですか?
長野:最近はやっていないですが、味噌ももちろん作りました。大豆を入れずにアーモンドだけとか、いろいろと作りました。大豆に何かを足すことは多いですが、大豆を入れないで味噌を作ってみたくて、アーモンドと麹と塩で作りました。あと、大豆を入れずにカカオ味噌も作りました。そういう実験的なことを発案してやらせていただきましたね。
小竹:発案されたのですね。
長野:そうです。たんぱく質があれば味噌に近づくはずだと思って。ちゃんと発酵の指導をしてくださる方にも話して、「おもしろいですね。やってみましょう」と乗っていただいてやりました。
小竹:ごま油も手作りしたそうですね?
長野:作りました。ごまは白ごま、金ごま、黒ごまがあるのですが、油分量や香りのバランスがいいのが金ごまだという話になり、金ごまを育ててごま油を搾りました。搾りたては本当に油なのかと思うほどサラッとしていて、ドリンクみたいに飲めます。香りも全然違いますね。
小竹:そんなに違うのですね。
長野:あと、育てることで、これだけの面積でこれだけのごまが採れて、これしか搾れないんだということもわかる。拳2つ3つ分くらいの袋で30ccも搾れないくらい少ないんです。焙煎したほうが抽出しやすいので、全く焙煎しない、ちょっと焙煎する、しっかり焙煎するという形で、油分量の比較もしました。
小竹:1本の番組で1食材とかでやられていたと思いますが、1つの番組に相当時間がかかりますよね?
長野:カレーも種からなので半年以上かかりました。ごまも何ヶ月も育ててやっと搾れるし、お米も育てて、その育てたお米に麹菌をつけてもらって、それを元に米麹で醤油を作ったりもしました。だから、醤油が2年かかる上に、その前にお米を育てる期間もあるという感じです。
小竹:そういうことをずっとしていたら、見方も大きく変わりますよね。
長野:ごま油も買ってきたものでも本当に大切にしますよね。1滴こぼしたら何粒分なんだろうってやっぱり思う。自分たちが少量しか搾れなかったことを経験しているので、そういう大切さが本当に染みます。
小竹:そうですよね。
長野:あと、醤系もやりましたね。魚醤、穀醤、肉醤と全部やりました。肉醤は今少ないので、やってみるとおもしろいと思いますけどね。
小竹:私は石川県出身なので、魚醤の能登のいしるとか好きです。
長野:いしるも作りましたよ。内臓入りと内臓無しで作りました。本当にいろいろやりましたね。買ってきた素材でも作ったし、育てた素材でも作ったというのは、すごくいい経験をさせてもらいました。
小竹:そんな中でも梅しごとは毎年やっていると。
長野:そうですね。味噌はまだ残っているし、魚醤もものすごくあるから追加で作る気にはならない。梅も梅シロップがどんどん溜まっていくので、来年どうしようかと思いながらも、実が残るから作ろうって感じですね(笑)。
(TEXT:山田周平)
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第13回・第14回(9月6日・20日配信) 長野 博さん
1972年10月9日生まれ、神奈川県出身。1995年「V6」としてCDデビュー。現在は「20th Century」のメンバーとして、テレビや舞台、LIVEなど多方面で精力的に活動中。食のあらゆるジャンルに興味を持ち、調理師免許の資格も持つ。「水野真紀の魔法のレストラン」(MBS)、「よじごじDays」(TX)などにも出演中。また、20th Centuryプロデュース「喫茶二十世紀」は神宮前で開店中。
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クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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