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コラム

ていねいに暮らしたいけど、忙しくて出来ない人へ。長谷川あかりさんが考える料理のヒント

クックパッドニュース編集部

日本No.1レシピサイト「クックパッド」編集部

クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、料理家の長谷川あかりさんがゲストの後編です。

“バズるような料理”を届けたいわけではない

小竹:この番組の第1回目のゲストの有賀薫さんが「スープはバズらない」と言っていたのですが、長谷川さんがレシピを投稿するとすぐにバズりますよね?

長谷川さん(以下、敬称略):そんなことないですよ(笑)。

小竹:最初に1万いいねついたレシピは「魚介中華粥」だそうですね。

長谷川:よくこれがバズったなって今でもすごく思うのですが、最初にバズったのは中華粥ですね。

小竹:そもそもレシピ投稿を始めたのはいつからですか?

長谷川:大学を卒業して時間ができてからなので、2022年の4月に始めて、そこから2週間くらいでこの中華粥でバズって…。本当にびっくりしたんですよね。

小竹:え!?すぐじゃないですか?

長谷川:なぜバズらないと思っていたかというと、有賀先生がスープはバズらないと仰っているのと似ているのですが、バズるような料理を届けたいわけではないというのが大きくて。

小竹:そうですよね。

長谷川:だから、バズらなくて当たり前だと思っていて、そのバズらなさがいいというのは自分の中でありました。この魚介中華粥もバズりそうには思えないですよね。

小竹:しょっつるとか太白ごま油とかって書いてありますもんね(笑)。

長谷川:そう!しょっつるに太白ごま油にホタテ缶に、最後に鯛のお刺身を乗せている。手軽でもないし、40分煮るから時間もかかるし。絶対にバズらないじゃないですか。

小竹:たしかに。

長谷川:どう考えてもバズらない料理だけど、絶対においしいし、体的にも心地がいいし、気温や体調にもマッチすると思って投稿したらバズったので、意外とこういうバズらない料理をみんなは求め始めているのかなって気づいたんです。

小竹:誰かがシェアしたとかではなく、じわじわと拡散されていった感じだったのですか?

長谷川:投稿して1時間くらいで2000いいねとか、すごい勢いで伸びたので、なぜだろうと少し不安になりました。寒暖差で春バテしている方に限定して投稿したので、「私だ!」と思ってくれた方が多かったのもあると思います。

小竹:うんうん。

長谷川:「中華粥」という多くは語らずとも体にいいと感じさせる料理名も良かったと思います。だしの素を入れていないことも驚かれたので、シンプルな調味料で旨味が再現できたら料理上手な気がしてうれしいといった点もあったのかも。自分事としてレシピを捉える方が多かったのも要因の1つの気がしますね。

小竹:でも、このときは何もわからなかったのですよね?

長谷川:何もわかっていないです。自分が発信したい料理を当時はまだうまく言語できていなかった。簡単すぎず難しすぎず、バズるレシピではないけど、ちょっとおしゃれで作ってみたくなるみたいなぼんやりとした理想の家庭料理が自分の中にあって。言語化できないからバズらないだろうと思っていたけど、そのぼんやりさを求めている方が結構多いのかもとここで気づきましたね。

小竹:レシピを作るときにはそういった意識を大事にするようにもなりましたか?

長谷川:なりましたね。料理は生活の中に溶け込んでいくものだから自分事になる。おいしそうとかではなく、自分の生活に馴染む、自分の体の状態を良くしてくれるレシピだというのを想像してもらえるような文章はすごく意識しています。

小竹:大事なことですよね。

長谷川:やみつきとか沼るとか、いわゆる料理のバズワードみたいな方向性ではなくて、今の気温がこうだからこういう体調にこう馴染んでいって、自分はこういう気持ちになったとか。生活の中に取り入れられそうだと思ってもらえる文章や材料、料理名などを意識しています。

小竹:料理のことよりも、あなたにとってという感じですね。

長谷川:そうですね。「この料理がおいしいです」より「この料理はあなたをこうさせてくれるものです」という伝え方のほうが、自分の理想としているところに近づけるなと思います。

誰かを助けられるようなレシピを考えていきたい

小竹:長谷川さんは「寒暖差で春バテしている方」とか「いたわりごはん」といったキーワードを使われていますが、お疲れ気味の人に伝えたいという思いがある?

長谷川:今は大体の人が疲れていると思うんですよね(笑)。例えば、共働きでお子さんもいてとかで仕事をしながら家事もするとなるとすごく大変じゃないですか。そんな中で料理に100%時間を注いで頑張れる人って、たぶんいないと思うんです。

小竹:いないでしょうね。

長谷川:そう考えると、今の家庭料理は疲れている人が作るものだと思うので、家庭料理を発信すると考えたときに誰を助けたいのかとなると、「みんな疲れている」から始まっちゃいますね。

ある日のお疲れ様献立。疲れが溜まると血の巡りが悪くなるのか身体がむくむので、むくみ解消を意識した食材をチョイス

小竹:レシピの中に「助けたい」という思いがあるのですね。

長谷川:あります。誰が助かるのか、どうやって助けるのか、どの部分が助かるのか。そういうコンセプトの部分を決めてからレシピに落としていくので、こういう料理がおいしそうみたいなことから入ることはほとんどないです。

小竹:褒められたいという思いがあって、それによって自分の気持ちが乗っていくとさっきも言っていましたが、それに近いですね。

長谷川:近いかもしれない。いろいろなタイプの料理家さんがいらっしゃいますが、私は決してアーティスティックな人間ではないですし、プロの料理人とも全く形が違うので、おいしいものをこう調理してこう届けるとかは正直ないんです。ただ、誰かが助かるようなレシピを作ることに興味があるので。

小竹:ほかに、レシピを書いているときに気をつけていることは?

長谷川:こういう気持ちになるから作ってほしいと思っていても、作りたいと思ってもらえないと意味がないし機能しない。じゃあ、自分が高校生のときにどういう基準でレシピ本を買っていたかというと、結局レシピ名なんです。

小竹:はいはい。

長谷川:外食に行ったときも、メニューを見て「これ絶対に頼みたい」と感じる料理は、結局は料理名で選んでいる。「いちじくとブルーチーズの春巻き」って書いてあったら絶対頼みたいし(笑)。

小竹:あるある(笑)。

長谷川:これは絶対に食べたいと感じるけど、ちょっと想像がつかなくてワクワクする食材の組み合わせとか、その食材の組み合わせからは想像がつかない調理法とか、そういうのをタイトルに入れることで、これは自分の生活に役に立ちそうだし作ってみたいと感じてもらえる。

小竹:疲れていたとしても。

長谷川:そうそう。疲れているけど、これは作って食べてみたいと思ってもらえるような料理名をすごく考えています。

小竹:長谷川さんのレシピは蒸し料理が結構多いですよね?

長谷川:タイトルに“蒸し”と書いてあるだけで、疲れている自分をいたわってくれそうなイメージが一発で伝わる。だから、わかりやすくコンセプトが伝わるし、多くを語らずとも刺さってほしい人に届いて、届いたら助かるであろう人に届きやすくなるんです。

小竹:“焼く”より“蒸し”?

長谷川:元気がほしいときやがっつり食べたいときは“焼き”でもいいけど、仕事で疲れた後に重い腰を上げてご飯を作るというときには“蒸し”のほうが私はうれしい。そこは私の感覚でやっているだけですけどね。“ソテー”とか“焼き”は、自分のテンションが上がっているときじゃないと私はハードルを感じるので、“蒸し”とか“煮る”になりますね。

「炊飯器は蒸し器」と長谷川さん。ご飯を炊くついでの温野菜サラダ

小竹:あと、“シンプル”とか“すっきり”とかも多いですよね。

長谷川:でも、“すっきり”を言いすぎて、それをご指摘いただいたこともあるんです。自分のXで検索をかけてみたら、めちゃくちゃ“すっきり”って言っていて(笑)。すっきり詐欺になっちゃうと思って、最近はちょっと控えています(笑)。

“手をかけた感”が得られるレシピを目指す

小竹:ほかにも作るときに気をつけていることはありますか?

長谷川:簡単になりすぎないようにしています。家庭料理を担う方にとって、簡単で時短がいいというのはもう共通認識なので、基本的には簡単だけど、少し手をかけるとこれだけリターンが来るということを発信したほうが、わざわざ作る意味を感じてもらえる。

小竹:うんうん。

長谷川:簡単すぎるとせっかくかけた10分がスッと流れてしまうというか。だったら5分伸ばしてリターンが大きいことを伝えたほうが作ってみようと思えるし、作った満足度も高まるので、面倒な部分を切りすぎないようにしています。

小竹:クックパッドも「簡単」が一番のキラーワードだったのですが、最近は落ちてきています。もう当たり前になってきているということですよね。

長谷川:「簡単」「時短」は大前提なので、そこはみなさんもう興味がないと感じます。正直、別に作らなくてもいい。作らなくてもいいのにわざわざ作るのなら、簡単だけど少し自分で手をかけた感が得られるものを作ったほうがいいのだと思いますね。

小竹:なるほど。

長谷川:ミールキットが売れたときにそう感じました。ミールキットって自分が料理をしたと思える要素だけが綺麗に残っている。面倒で大してリターンがないところはバッサリとカットしてある。料理を自分で作ってみんなに食べてもらっている、自分で食べているという実感を得られることが、ミールキットの一番の魅力だと私は感じました。

小竹:たしかにそうですね。

長谷川:私のレシピに関しても、そこまでリターンを感じられない手順のところは必要なもの以外は省いて、私がここを頑張ったことでこんなにおいしくなったと語れる部分は残したいと考えています。

小竹:絶妙なバランスですね、料理名が大事と言っていましたが、アイデアはどうやって練っているのですか?

長谷川:外食に行ったときが多いかもしれないです。食材の組み合わせがユニークで、自分では思いつかないようなお料理を提供してくれるお店が好きですね。レシピ名を作るときに参考にするのは、創作性のあるイタリアンやフレンチ、和食とかですね。

小竹:メニューが決まってから、レシピはどういう風に決めていくのですか?

長谷川:自分がプロデューサーになってアイドルグループを作るイメージで考えています。まずはアイドルのコンセプトから決める。どういう衣装を着て、どういう曲を歌って、どういうファンの方がいてとか。

小竹:おもしろい。

長谷川:こういうグループを作りたいというのがあるか、オーディションをしていく中で「この子が中心になる」と決めたら、その子をキーにしてメンバーを決めていく。スター性のある子がいたら、その子を引き立てるコンセプトで、その子とバランスがいいメンバーでグループを作るみたいな決め方をすると思うんです。

小竹:わかります、わかります。

長谷川:レシピも一緒で、料理のコンセプトや要素をまずは決める。例えば、クレソンの料理なら、クレソンのこういう面を見せるとか対象者は誰かとかを決めて、そこから具材を決めてレシピにおろしていく。作りながら「これはおいしい」みたいな作り方ではないので、ずっと紙に向かっている感じです。

小竹:私はメンバーから決めるタイプですね(笑)。冷蔵庫の中を見て考えます。

長谷川:私はその作り方は全くしないんです。「こういう料理があったらみんなこういう気持ちになってきっとうれしいと思う」から入るので、材料とか作り方はその後になりますね。

「こういうレシピを作りたい」と考えることが好き

小竹:自分のレシピをこういう人に届けたいという具体的なイメージは持っているのですか?

長谷川:SNSで料理を発信しようと思ったときに「誰を助ける料理でありたいのか」ということをすごく考えました。自分が作る料理なので、基本的には自分と近しい属性の人にはなるのですが。例えば、都内在住のディンクスないし、小さなお子さんが1人いるくらいの年齢で、ご飯にお金をかけたい、おいしいものでカロリーを摂りたい、適当に食事を済ませたくない気持ちが強めの人。お洋服も割とお金をかけたい、ていねいな暮らしのYouTubeを見るのが好きだけど、私生活が忙しいからていねいには暮らしきれないことに悩んでいる人(笑)。

小竹:具体的(笑)。

長谷川:何を考えて過ごしているか、どういうものが好きでどういう思考回路で動いているか、外食はどういうお店に行っているかとかまで、すごく具体的に考えていますね。

小竹:それはレシピでも割と一貫していますか?

長谷川:基本的に全てそういう軸でレシピを作っています。でも、そういう方にしか届けたくないわけではなく、対象者を尖らせた方が逆に広がりやすいと思うんです。自分の軸がブレると結局誰にも刺さらないので。自分の強い意思がないとレシピもぼやけてしまうから、一貫性は全て持たせるようにしたいと思っています。

小竹:うんうん。

長谷川:あと、作ってくださる方が「これは長谷川あかりさんのレシピだ」と作成者を見なくてもわかるレシピにしたいです。私がレシピ本にハマっていたときに「これは○○先生のレシピっぽい」と思って名前を見ると、その先生だったことが結構あったんです。レシピを見ただけで私だとわかってもらえるようなものを一貫して出し続けたいと考えると、こういう人に届けたいレシピというのを自分の中に強めに置いておくのは必要なことだと感じます。

小竹:そもそも長谷川さんは料理が好きですか?

長谷川:最近気づいたのですが、私は料理が好きなのではなくて、「こういうレシピを作りたい」って考えるのが好きなんです。実際に料理はたぶんそんなに好きではない気がします。

小竹:そうなんですね(笑)。

長谷川:こういう料理を作れる人間でありたいし、こういう料理を作って食べたいけど、こんなに手間はかけられないという自分がいるから、こういう料理を作っているかのような気持ちにさせてくれるインスタント簡単ていねい料理を考えようと思う。

小竹:インスタント簡単ていねい料理(笑)。

長谷川:料理が好きでプロの調理技術を持っていると、ついていけない領域に入ってしまう。それはそれでもちろん需要があるけど、家庭料理レシピを発信する上では、そこまで料理が好きではないけどやりたいことは高いところにあるという私の裏腹さのおかげで、“ハイエンドな料理を作っている気持ちにさせてくれる簡単料理”という新しいジャンルに踏み込めている気もするんです。

小竹:なるほど。

長谷川:素敵な料理を作りたい気持ちもなくて料理もそんなに好きではない人は、もっと簡単料理寄りになって、それはそれですごく人気があるジャンルです。私は、こういう料理を作りたいけど手間はかけられないが、手間をかけた実感はほしいみたいなめちゃくちゃなことを言っているんです。大きな声でこんなにめちゃくちゃなこと言う人はあまりいないと思う。

小竹:全くいないです(笑)。

長谷川:めちゃくちゃなものをどう成立させるかというのを考えるのはすごく好きなので、それが自分の個性になっていったらいいなと今は思っています。

小竹:今後やってみたいことは?

長谷川:このレシピがおいしいということ以上に、このレシピがどう生活に馴染んで、その人にとってどういうポジションで残っていくのかということにやっぱり興味がある。

小竹:うんうん。

長谷川:今はSNSや本で文章をベースにレシピを伝えてたくさんの方に作っていただけていますが、ストーリーを絡めてレシピを見せていけたらより具体性を持って、自分の生活に馴染んでくれそう、自分の生活を良くしてくれそうと思ってもらえるかなと感じています。

小竹:なるほど。

長谷川:例えば、ドラマや漫画でストーリーとともにレシピをお届けするという形が実現できないかなとぼんやり考えています。ドラマのレシピ監修をしたり、レシピとドラマを連動させたりなど、うまくレシピと絡めて見せることができたら、より自分事になるし、レシピも魅力的に見える気がします。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第9回・第10回(7月5日・19日配信) 長谷川 あかりさん

料理家・管理栄養士/10歳から20歳まで子役・タレントとして活動。大学で栄養学を学んだ後、SNSで手軽かつオシャレなレシピを発信し、瞬く間に人気アカウントに。雑誌、WEB、テレビなどでレシピ開発を行う。7月3日に初のパーソナルムック『DAILY RECIPE Vol.1』(扶桑社)を発売。著書に『つくりたくなる日々レシピ』『クタクタな心と体をおいしく満たす いたわりごはん』『いたわりごはん2 今夜も食べたいおつかれさまレシピ帖』『材料2つとすこしの調味料で一生モノのシンプルレシピ』がある。

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子

クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
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執筆者情報

クックパッドニュース編集部

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