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コラム

おいしく味わえるのはいつまで?「窒素ガス充填」されたお米を食べ比べてみた

【お米ライターのコメバナシvol.10】私たちにとってお米はあって当たり前の存在ですが、実は意外と知らないことだらけ。そこで、巷でよく耳にするお米に関する「疑問」や気になる「噂」をお米ライター柏木智帆が検証します。おいしい白飯や米料理さえあれば食卓は豊かになる!をモットーにお米のおいしさを追究していきます。

精米後6カ月経過したお米の味わいは…

スーパーのお米売り場で精米年月日から1カ月ほど経過したお米を発見しました。劣化しているのでは…と思いながらもパッケージを見てみると、「本商品は窒素ガス充填していますので、精米日から6カ月以内はおいしくお召し上がり頂けます」と書いてありました。

窒素ガス充填とは、袋の中の空気を抜いて真空状態にした後、代わりに窒素ガスを封入するという方法です。酸素がほとんどない状態のため、酸化(劣化)しづらいのだそうです。

本当に6カ月以内ならばおいしく食べられるのかどうか気になり、お米を購入して6カ月経過目前まで保管し、食べ比べてみました。スーパーの売り場と同じ環境に近づけるために、あえて室温保管しました。

いよいよ封を空けると、すでに生米の状態で古米臭がありましたが、少しでもおいしく食べたいので、表面の酸化した部分を落とすために念入りに研いでみました。

炊飯中から古米臭が感じられ、炊きあがった後もやはり古米臭がありました。劣化のせいかツヤはなく、ごはんをほぐすためにしゃもじを入れた時点で、その感触から粘りが薄いことが分かりました。

念入りに研いだおかげか、窒素ガス充填のおかげか、劣化はしてはいるものの、常温で6カ月近く経過したお米にしては劣化具合がそこまでひどくないように感じました。窒素ガス充填されていなかったら、もっと劣化していたかもしれません。それでも、白飯で食べるには非常に厳しく、「おいしくお召し上がり頂けます」の文言に疑問がわきました。

だからお米は「精米年月日」表示

いくら窒素ガス充填をしているからと言って6カ月経過したお米は厳しいことが分かりました。ならば、1カ月経過くらいならばどうだろうと思い、精米日から1カ月経過した窒素ガス充填のお米を探して食べてみました。すると、常温保管にもかかわらず、まったく劣化していませんでした

窒素ガス充填したお米は精米後どのくらい経つと劣化していくのでしょうか。

インターネットで見つけたあるお米屋の説明によると、「精米したての風味が保てるのは約3カ月。そこから徐々に風味は落ちていくのですが、6カ月くらいはおいしく食べられます」と書いてありました。「風味は落ちていく」のに、「おいしく食べられる」のはなぜなのか、また疑問がわきました。

ちなみに、精米から4カ月が目前に迫った窒素ガス充填のお米を食べてみたところ、古米臭がし、粘りが薄くなっていて、たしかに「風味は落ちて」いました。4カ月で劣化しているのであれば、「精米日から6カ月以内はおいしく食べられます」の表記は、それぞれのお米の質や保管環境によって違うとは言え、やはり正確ではないように思いました

スーパーで販売されているお米は基本的に室温です。夜間は店内空調を切っている店が多いため、夏場に夜間の温度が下がらない地域は特に劣化が早いことが想像できます。また、秋の収穫から日数が経過した夏は、冬に比べると劣化しやすいお米が多いことも想像できます。

そして、繰り返しになりますが、お米の劣化速度はお米そのものの質によっても違い、精米前の玄米の保管状況によっても違います。そう考えると、窒素ガス充填されたお米の“賞味期限”は精米後6カ月と言い切ってしまって良いのでしょうか。

「お米の表示は、なぜ賞味期限ではなく、精米年月日なのか」という理由はここにあるように思います。
※2020年の春頃からは精米年月日に加えて「精米年月旬(上旬・中旬・下旬)」も表示できるようになりました。

お米は米質や保管状況によって劣化速度がまちまち。だからこそ、お米は生鮮食品であることを前提に、精米したら密閉して冷蔵庫で保管して2週間以内に食べ切ることが「無難」だと思っています

「精米日から6カ月以内は…」の表記にはフードロス削減の観点もあるのかもしれませんが、本来おいしく食べられるはずの期限を過ぎてしまっては本末転倒です。窒素ガス充填したお米は、「おいしい状態で食べるためには3カ月以内を推奨、なるべく早く食べきりましょう」などと表記したほうがお米本来のおいしさを楽しめる方が増えるのでは…と感じるのですが、いかがでしょうか。

柏木智帆

お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
【ブログ】柏木智帆のお米ときどきなんちゃら
【クックパッド】柏木智帆のキッチン

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