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コロナ禍で、男子厨房に入る!ジェンダー格差の大きいパキスタンの食卓事情【#コロナ禍で変わった世界の食卓】

新型コロナウイルスの影響で、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。その中でも、とくに食生活が変わったと感じる方も少なくないでしょう。日本では自宅で料理を作る人が増え、家族で楽しめるホットプレート料理やお菓子作りの人気が高まりましたが、こういった現象は日本国内だけのものなのでしょうか。今回、クックパッドニュースではコロナ禍による食の変化に注目。世界の食事情について各国に取材し、現地の方にお話を伺いました。

第2回は、日本から約6000キロの距離にある「パキスタン」の食生活の変化に注目。パキスタン国内で第3の都市といわれるファイサラバードに暮らすハディア・イブラヒムさん(29歳・主婦)に話を伺いました。

コロナ禍以前のパキスタンの家庭は、日本の昭和!?

日本でも度々ニュース等で話題になる「ジェンダー格差」の問題。パキスタンは特にその差が激しく、世界経済フォーラムが発表した2021年のジェンダー格差レポートによると、パキスタンは153位となっており(日本は120位)、ジェンダー格差が大きいことがわかります。そんなパキスタンの家庭内における家事・育児のバランスはどうなっているのでしょうか。

「パキスタンでは男性の家事参加は、皆無です。私の夫も料理をする習慣がありませんでした。それどころか、水を飲みたいというだけでも、いつも私や子どもを呼んで持って来させるほどでした。買い物は手伝ってくれますし、献立のアイデアもくれます。でも、料理の手伝いはしませんでした。男性は外で仕事、女性は家で家事という家庭が多いですね

男性がすべての決定権を持つパキスタンでは、このように男女で家庭内の役割がはっきりわかれているそう。日本もかつては「男は外で働いて女は家庭を守る」「男子、厨房に入るべからず」という時代がありましたが、パキスタンでは今もそういった風潮が強くあるそうです。

「私は子どもたちのためにほぼ3食、朝食、昼食、夕食を作り、時にはおやつも作ります。一緒に住む義母は料理に強いこだわりを持っていて、市販のものより自家製や作りたてを好むため、私も作りおきなどはせず、いつも新鮮な料理をその都度作るようにしています」

パキスタンは出生率も高く、女性一人あたりが生む子どもの人数は平均3.55人(2021年の男女格差レポートによる)。ハディアさんのご家庭も子どもが3人おり、女性の家事負担が相当大きいことが伺えます。

コロナ禍で夫の心境に変化が!?

パキスタンでは家事や育児の負担を軽減するために、中流階級以上の家庭では時間単位でメイドさんを雇い、家事を依頼する人も多くいます。ハディアさんも一人ですべてをこなすのは無理があるため、メイドさんにモップがけやお皿洗い、洗濯などの家事を手伝ってもらっているそう。しかし、新型コロナの影響で街がロックダウンになり、メイドさんが家に来られなくなってからは、全ての家事を自身だけで負担するようになってしまいました。

こうした事態はハディアさんの家庭だけでなく、パキスタンの多くの家庭で起きていましたこうした事態はハディアさんの家庭だけでなく、パキスタンの多くの家庭で起きていましたが、一体どのように乗り越えたのでしょうか。

「今までは仕事や学校で家に居なかった夫や子どもたちですが、忙しくしている私の様子を見て行動に変化がありました。一人一人が家のことにより責任感を持つようになったのです。夫はコロナ禍で在宅勤務になり、子どもたちもオンライン授業になったため、家族みんなが家事を手伝ってくれるようになりました。夫が初めて自分で作ったのはチャイです。ロックダウン中のある朝、私が目を覚ますと台所にある鍋が焦げていたんです。私があまりにも忙しそうにしていたため、自分でやろうという気になったようで、夫がその鍋でチャイを作ろうとしたようです。彼が私の手を煩わすことなく、自分で何かを作ったのはその時が初めてでした。そういった夫の行動は子どもたちにも良い影響を与えていて、長女も妹や弟たちのためにサンドウィッチやポップコーンを作るようになりました」

パキスタンやその周辺国で日常的に親しまれているチャイ。茶葉と牛乳、スパイスを煮出して作るのが一般的。(画像提供:Adobe Stock)

こうした状況で、洗剤のアリエールが男性の家事への参加を促すCMを放送して話題になりました。自分が在宅勤務の中、家事に育児にと一日中忙しく働く妻の様子を見て、慣れないながらも少しずつ料理を手伝ったり、洗濯をしてみたりと家事に挑戦する夫。そして、そんな夫の変化を嬉しく受け入れる妻や子ども達の様子を描いた心温まる内容。パキスタンの家庭ので起こっている状況を映し出していて、男女ともに共感する方が多かったのでしょうね。

家庭内感染の危機!そのとき夫は…?

そんな中、ハディアさんご自身が新型コロナに感染。家事や育児を一手に担っていた妻が感染したとき、これまで家事をしていなかった夫はどのような行動に出たのでしょう。

「私は新型コロナに感染しましたが、ほかの家族は全員無事でした。つまり、毎日料理を作って、家族全員分の食事づくりを夫が担うことになったのです。彼は今まで何ひとつ料理をしたことがなかったので、彼がビリヤニを作ったときはとても驚きました。ビリヤニのほかにも、チキンカレー、ダール(豆の煮込み)、サブジ(野菜の炒め蒸し)など、YouTubeのレシピを見て作ってくれました」

ハディアさんの夫が実際に作ったビリヤニ。ビリヤニとは、パキスタンやインドなどで親しまれているスパイスとお肉の炊き込みご飯のこと。

隔離中は、メッセージアプリを使って夫と作り方を共有するなど、料理によって生まれたコミュニケーションもあったそう。ハディアさんの夫・ハサンさん(39歳)にも話を伺いました。

「今までは仮に妻の具合が悪かったとしても、自分が家にいなかったのでその大変さを知ることができませんでした。体調が悪い中でも家事や育児のことを気にかけている妻を見て、本当に心苦しくなりました。そこで自分も料理をしてみよう、と腰を上げましたが、初めて料理をする時は正直怖かったです。でも、私が作ったものを妻が喜んで食べてくれたことや、実際に完成したビリヤニの写真を別の街に住む妹に送ったら『今度作ってほしい!』と言ってくれたことが、とても嬉しかったです。その後実際に妹が遊びに来た際にビリヤニを作ってあげたんですよ。『おいしい!』と感動してくれたので自信につながりました。料理を作ったときはまず自分よりも先に妻に食べてもらい、ドキドキしながら反応を見るようにしていますが、これはとてもいい経験です。私は”料理は女性のもの”だとは思わなくなりました

今は在宅勤務が終わり、仕事が忙しくなりハサンさんが料理を作る時間は減ってしまったそうですが、子どもたちはいつも「パパ、ビリヤニを作って! ママのビリヤニに飽きちゃったよ!」とリクエストしているそうです。

若い世代は、「食」の変化に柔軟に対応

このような例はハディアさんのご家庭に限ったことではでなく、インタビューの聞き手となった同年代の現地取材スタッフの夫も、この自粛期間を通して料理に参加するようになったとのこと。男性の家事への参加は比較的若い世代ほど、柔軟に対応しているようです。

パキスタン人と結婚した日本人妻でブロガーのJANさん(20〜30代)も、結婚当初は家事を半々にしていたと言います。

「自分たち夫婦は日本に住んでいることもあり、結婚当初は家事を分担して頑張っていました。ただ、夫が慣れない日本生活でヘトヘトになっていることもあるので、今は妻である私がメインで行っているんですけどね」

JANさんの夫の親族の感覚では、現地では男性が家事をすることはありえないという認識なのだとか。パキスタン郊外にお住まいとのことで、“男性は家事をしないもの”という認識は、年齢差だけでなく、首都のあるイスラマバードと郊外とでの地域差もあるのかもしれません。

またJANさんによると、外食に対する考え方も年齢によって異なるそうです。

「基本的に中年以上の年代の方は家での食事を好みます。うちの夫の実家では、義父は義母の料理以外食べたがらないので、外食することは年に一回程度と、とても珍しいことのようです。一方で、夫の兄など若年層になると週3〜5くらいで友人たちと外食を楽しんでいます。コロナ禍でレストランへは行けなくなったので、今は自宅や友人宅に招いての食事に移行しているようですね」

新型コロナによって人々の働き方も変わり、それにあわせて家庭での過ごし方も変わってきた今。パキスタンの人々もいずれは、男女関係なく家族みんなで料理を作って楽しむ、そんな生活スタイルに変化していくかもしれませんね。

(TEXT:河野友美子、中山あこ、植木優帆)

#コロナ禍で変わった世界の食卓

本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。クックパッドニュースでは、コロナ禍で変わった世界の食事情をリサーチ。各国で高まったムーブメントや、人気になった料理を現地の方にお伺いしました。世界の食卓に、明日から取り入れられる食のヒントがあるかもしれませんよ。

取材協力:クックパッドパキスタン

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