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コラム

料理とラグビーの意外すぎる共通点。強豪ラグビー部の監督が部員に「晩ごはんトレーニング」をする理由

小竹貴子

クックパッド初代編集長の小竹貴子が、食を通じて社会課題の解決に取り組む人にお話を聞く企画。東海大学付属大阪仰星高等学校ラグビー部監督、湯浅大智さんにお話を伺いました。

強豪ラグビー部が「料理」でトレーニング!?

新型コロナウイルス感染拡大防止のために、ほとんどの学校が休校となった2020年。
東海大学付属大阪仰星高等学校ラグビー部は、この年に近畿大会で優勝し、その後の選抜大会で全国優勝を目指していました。しかしコロナ禍の影響で大会は中止、さらに部活動の休止も余儀なくされました。
ラグビー部監督の湯浅大智さんは、部員の自宅トレーニングメニューの一つとして、1週間に1度家族のために料理を作り「感謝の心」を学ぶ「感謝の晩ごはん」という取り組みをスタート。当時、クックパッドニュースでも取材しました。

数年が経ち、コロナ禍も明けて自由に部活動ができる環境が戻った今も、どうやらこの取り組みは続いているそう。私はさっそく監督にお話を伺うことにしました。

料理の大切さについて、湯浅さんは「料理は、ラグビーの戦略と同じくらい創造力と科学を必要とします」と語ります。

湯浅さんは、キャプテン、コーチ、監督として大阪仰星高校ラグビー部の6度の全国大会優勝に関わり、ご復帰の優勝を果たしています。2023年には書籍『紺の誇り 負けない準備の大切さ』(ベースボール・マガジン社)を出版し、高校ラグビー界での「名指導者」として知られています。輝かしい経歴とともに、いつも湯浅さんのプロフィールに書かれるのは、彼が大の料理好きということです。

料理とラグビーの意外すぎる共通点

湯浅さんが料理好きな理由には、生まれ育った家庭環境が大きく影響しています。湯浅さんの両親は共働きであり、小学生の頃から自分で料理をする機会が多かったのです。

「子どもの頃から、冷蔵庫の中にある限られた食材を使って工夫を凝らして料理を作るのが好きでした」と湯浅さんは話します。特に妹さんにリクエストされた料理を作ることが多かったそうです。

多忙を極める現在でも、日々の料理は欠かさないという湯浅さん。「ラグビーの技術は料理の食材、戦術は調理法に例えられます」と語り、料理とラグビーの両方には問題解決力や創造力が求められる点が共通していると話してくれました。「そうそう、料理をしている最中にラグビーの戦略が思い浮かぶこともありますよ」と笑いながら付け加えました。

親が担う料理の大変さ。高校生がごはんを作り、感じたこと

「感謝の晩ごはん」プロジェクトは、現在毎年1~2回、テスト前後や長期休暇の期間に実施されています。

生徒たちは家庭で料理を作り、その過程や家族の反応をレポートにまとめて提出します。この取り組みは、生徒に料理の技術だけでなく家族との絆を深め、感謝の気持ちを育むことが目的です。

実際にプロジェクトを始めてから、湯浅さんはその効果を強く実感していると言います。家庭での料理経験により、生徒たちは親への感謝の気持ちを再認識し、その気持ちがラグビーのフィールドにも良い影響を与えているのです。プロジェクトは、生徒たちにとって大きな成果をもたらしました。

プロジェクトに参加している高校2年生の中田さんは、この取り組みで普段では感じにくい感謝の気持ちを実感したと語ります。
「家族のために料理を作る『感謝の晩ごはん』が自宅トレーニングの一環になったことで、普段とは異なる視点で家族とのコミュニケーションが取れました。母がいつも自分の栄養を考えて料理を作ってくれている姿を見習って、自分でも料理を作ってみました。その過程で、母が担っている日々の料理の大変さを体験し、改めて感謝の気持ちが芽生えました」

また、中田さんは湯浅さんの指導方針についてもこう話してくれました。「湯浅先生は、日常生活とラグビーのフィールドは地続きだと教えてくれました。小さな行動一つひとつがフィールドでのプレーに影響を与えると実感しています。日常生活を丁寧に過ごすことで、ラグビーのプレーも向上するという考え方が身に付きました」

「文武両道でなく文武一道」。湯浅さんの指導のアプローチは、通常の技術指導に留まりません。ラグビーの練習に加えて、本を読むことや芸術活動を奨励し、幅広い知識と発想力を養うことが重要だと伝えています。

「ラグビーはコミュニケーションのスポーツなので、語彙力が重要になります。また、プレーを数式に例えるための数学的思考力や仮説を立てて実験する理科的発想力に加え、情報収集と戦略立案の社会科学的知識も必要です」と湯浅さんは語ります。

こうした指導により、生徒たちは自らが置かれた現状を正確に認識し、自分の課題を克服するための具体的な方法を見つけ出す力を養います。湯浅さんの下で成長した生徒たちは、ラグビーのフィールドだけでなく、社会に出たときに必要なスキルを身につけ、自己成長を続けられるようになるでしょう。

料理が育む「感謝の力」が生み出すもの

湯浅さんらしい教育信念を象徴する取り組みである「感謝の晩ごはん」プロジェクト。料理を通じて生徒たちは感謝の気持ちを学び、家族との絆を深めます。このプロジェクトは、当たり前の日常に対する感謝の気持ちがどれだけ大事なのか、大切な人との信頼関係の基礎を築くための素晴らしい機会だと感じました。

コロナ禍以降、学校の宿題として家庭で家族のために料理をすることが課題として出されるケースは増えましたが、「感謝の晩ごはん」というテーマで、料理の意味をしっかりと伝えている事例はまだ少ないように思います。

料理を作る意味や料理を通じて身近な人へ感謝の心を育む大切さを教えることは、生徒たちの成長にとって非常に重要に感じました。

常に「ありがとう」「とっても美味しかったよ」と感謝の言葉を素直に言える関係を築くことで、信頼関係の基礎ができあがります。、これが日常生活とラグビーのフィールド、ひいては社会生活全般において非常に重要だと教えているように感じました。

最後に、これから高校ラグビー選手権予選も始まります。湯浅さんの指導のもと、チームが勝ち進むことを祈っています。

執筆者情報

小竹貴子

クックパッド株式会社 広報部 本部長
農林水産省 食育推進会議専門委員

2004年入社。2006年初代編集部門長就任。 2009年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010」を受賞。 広報部門以外に、クックパッドの家庭科を担当している。 著書に「ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる」(日経BP社)『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(学研プラス)など。 毎日の料理を楽しみにするポッドキャスト『ぼくらはみんな食べている』でパーソナリティを務める。

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