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コラム

金沢おでんVS静岡おでん! 北と南の味を食べ比べ【ニッポン全国「和食探訪」の旅 vol.3】

東京すし和食調理専門学校の学校長・渡辺勝さんが、日本各地を旅してお届けする「和食探訪」連載。知られざる和食の起源や、絶滅寸前の郷土料理などにフォーカスし、素敵なエピソードの数々をご紹介します。

おでんを求めて北へ南へ

こんにちは。ご当地和食めぐりが大好きな「東京すし和食調理専門学校」の学校長・渡辺勝です。

今回は、本州のド真ん中を縦断しての食べ歩き旅。北は日本海側の金沢へ、南は太平洋側の静岡へ。お目当ては、寒い冬に最高にうまい元気の素「おでん」です!

金沢おでんは名前も味も初めての世界

金沢の街で食欲をそそるのが、繁華街の看板やのれんに踊る「おでん」の文字です。金沢は、人口100万人あたりのおでん屋さんの件数が4.4店。全国平均は0.5店ですから、実に8倍。堂々の全国トップです。

数ある名店から、どこで食べるべきか? 和食ハンターとして大いに迷いますが、昭和11年創業の老舗「高砂」の暖簾をくぐりました。

L字型のカウンターにドンと腰を据えると、目の前の大きな角鍋から立ち上る湯気。鍋の中には透き通った出汁。金沢おでんは京料理がベースだから、おでんもしっかり出汁が効いた上品な味わいです。

そして具です。他府県の人にとっては、味も名前も知らないものでいっぱい。

例えば「車麩(くるまぶ)」。金沢は、京都発祥の麩の名店が多く、麩は庶民の食材として多彩な料理に欠かせません。車麩は直径が10センチほどもあり、たっぷりと出汁を吸い込んでいて、食べればうまみがジュワッと広がります。そして「金沢ひろず」。これはがんもどきで、食感はフワフワです。

素材の味を引き出す出汁とスペシャルな具「カニ面」

「ばい貝」。いやはや、サイズがハンパない。貝殻は10㎝以上あり、身もクリーミーな肝もたっぷりで、地酒が合うったらありません。

赤かまぼこをナルトのように巻いた「赤はべん」、大ぶりな「タコ」、スライスして串に刺し歯ごたえ抜群の「タケノコ」、蒸したかまぼこの「ふかし」、厚切りの「大根」……これら海の幸や野菜の味わいを、すっきりした出汁が引き立てています。石川の地酒「加能山河」の熱燗を、おかわりしながら堪能しました。

しかしながら、お会計にはまだ早い。北陸の冬の味覚といえば、ズワイガニの雌の「香箱ガニ」です。日本海の荒波と、厳しい寒さに育てられ、甘く引き締まった身が最高です。このカニが材料の「カニ面」が冬の金沢おでんの目玉です。

おでんにカニ? 他府県の方には想像もつかないですよね? 

作り方はこうです。カニの身を丁寧にほぐし、甲羅に戻して、かんぴょうで巻いて出汁の中に入れる。それをお店のご主人が引き上げるタイミングが絶妙。カニのうまみとおでん出汁、そのハーモニーがベストなタイミングで食べるから、もうどれほどおいしいか……!

きれいに平らげたら、カニの甲にアツアツの日本酒を注いだ「甲羅酒」に舌鼓。カニのうまみと、おでん出汁と、日本酒が混じって、すこぶるうまいっ!!

家庭で簡単に作れる、金沢おでんの「生姜味噌」

思わず、夢心地の食レポをお伝えしましたが、ここで、家庭のおでんが金沢おでん風になる薬味を紹介しましょう。それは「生姜味噌」です。あまり馴染みのない薬味ですが、優しい甘みとほのかな辛さが、どんな具にも合うんです。

今回はそのレシピをご紹介します。とっても簡単ですよ。

材料は、味噌:大さじ5 砂糖:大さじ4 醤油:大さじ3。これらをよく混ぜて、電子レンジで、1分ほどチンします。そこに生姜を10グラムほど摺り下ろして、絞り汁ごとよく混ぜれば出来上がりです。

二日目のおでんなど、味が沁みた具にも生姜味噌がよく合います。ぜひお試しくださいね。

静岡おでんは地元のソウルフード

さて、おでんの街といえば、静岡も負けていません。静岡駅の西には、「静岡おでん街」があり、「青葉横丁」と合わせて小さなおでん屋さんが40店舗ほども集中しています。

どこもおいしそうですが、「静岡おでんフェスタ」の「おでんバトル」で優勝して名を上げた「海ぼうず」本店へ足を向けました。店先の真っ赤な大提灯に、「しぞ~か」の文字が浮かびます。そう、「しぞ~か」と発音するのが地元風なんです。

ここで「静岡おでんの会」が定めた「静岡おでん五箇条」という定義を紹介しましょう。

(1)黒はんぺんが入っている
(2)黒いスープ
(3)串にさしてある
(4)青のり・出汁粉をかける
(5)駄菓子屋にもある

「駄菓子屋にもある」――つまり、静岡おでんは「B級グルメ」ということ。静岡といえば、「富士宮焼きそば」というB級グルメの傑作が有名ですが、おでんも肩を並べる名物なのです。

魚介と肉と黒スープのハーモニー

さて、静岡おでんの主役「黒はんぺん」って何でしょう? 東京で、はんぺんといえば、出汁の上に浮いたフワフワの白い三角形ですよね。しかし、黒はんぺんは、サバやイワシの新鮮なすり身から作られ、色は灰色で、平べったい半月型です。歯ごたえはプリプリで、すり身の風味と、醤油が効いたおでんの黒い出汁がベストマッチ! 

小さなさつま揚げの「おだんご」もうまい。スープをよく吸ってフワフワです。「牛スジ」始め、牛や豚など動物性の具も多彩です。「フワ」という具は、皆さん初耳ではないでしょうか? これは牛の肺です。見た目は焼き鳥風で、噛むと出汁がジュワッと染み出します。「モツみそ」は豚のホルモン串。甘辛い生姜味噌との相性が抜群です。

「生わかめのしゃぶしゃぶ」は、串に刺した生わかめを出汁にくぐらせ、磯の香りと出汁の風味がマッチして、知らなかったおいしさ。

静岡おでんを「B級グルメ」と侮ることなかれ。すり身などの魚もたっぷり、牛や豚など肉も多彩で、それぞれの脂や風味が、真っ黒い出汁の中に溶け込んでいます。だから、濃厚で甘みがあって美味しい。さらに煮干しやサバの粉末の香ばしい出汁粉と、青海苔をかけると風味が引き立つ! 他のおでんとは違うクセになる味わいです。

我が家で食べる静岡おでん

美味しい静岡風おでんを、家で楽しめる出汁のレシピです。特徴は黒い出汁。市販のおでんの素は使いません。

かつお出汁1.5ℓに濃口醤油を150cc、砂糖、みりんを各大さじ1.5杯、これに塩を一つまみ入れます。好きな具材を入れて、じっくりと煮込みましょう。

マストアイテムの黒はんぺんは、ネット通販で手軽に買えます。出汁粉、青海苔も取り寄せできます。

黒はんぺんやおだんごなど、魚製品は青海苔を多めにかけ、牛スジなど、動物性のものは出汁粉多めで、風味が引き立ちます。これは、地元のおでん屋の常連さんに伝授されたコツです。

終わりに

大阪のおでんは「さえずり」と呼ばれるクジラの舌の部分が不可欠です。東京の「ちくわぶ」も、関東以外の人は馴染みがない具です。

ところ変わればおでん変わる。おでんは地域色豊かな料理です。中でも「金沢おでん」と「静岡おでん」はツートップだと私は思います。

共通する特長があります。まず、どちらの地域も食材が豊かだということ。

金沢は、「世界農業遺産」に認定された能登の里山・里海があり、海の幸を中心に、米、加賀野菜、そして水まで、日本有数の食材の宝庫です。

静岡も「ふじのくに食の都」を名乗る食材の産地です。駿河湾の海の幸や米、富士山の伏流水、太平洋岸でも屈指の食材豊富な地域なのです。

もうひとつ、どちらも力のある藩や大名の庇護を受けて食文化が発達しました。金沢といえば百万石の加賀藩です。静岡は徳川家康の晩年の隠居所でした。美食を求める気風は、庶民の食にも影響を与えました。

ちなみに、静岡おでんの具の牛スジは、関西以西のおでんではポピュラーですが、関東では使われません。これは愛知・静岡が、関西と関東の食文化の分かれ目だと示しています。地域差を含め、和食の探求者を自認する者として、おでんをもっと調べなきゃと思います。それには、もっともっと、いろんな地方でおでんを食べなきゃ(笑)。

みなさんも、お近くで、旅先で、様々なおでんをチェックしてはいかがでしょうか? 次回の「ニッポン全国『和食探訪』の旅」は、学問の神様・菅原道真で有名な福岡県・大宰府からお伝えします。受験シーズン、合格祈願&学業成就にご利益がある和食とは? どうぞお楽しみに!

渡辺 勝

東京すし和食調理専門学校の学校長。度重なる海外出張で日本の良さや和食のおいしさに気付く。趣味は旅行と食べ歩き。近年、郷土料理の素晴らしさに目覚め、日本の宝である『郷土料理』を世に広める使命を個人的に請け負っている。

東京すし和食調理専門学校

日本で唯一のすしと和食を学ぶ調理専門学校。2016年4月に東京都世田谷区に開校。海外からの留学生も多数在籍。校舎1階のカウンターにて学生によるすし懐石料理店「一膳」を定期的に営業。卒業生はすしや和食の専門店や旅館、海外のホテル内和食店などで活躍中。

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