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コラム

冷めてもおいしく、実は手軽。料理家・尾崎史江さんが提案する「旬を楽しむ精進弁当」

味も食感もバリエーション豊かで、冷めても味わい深い。季節の移ろいまで感じさせてくれる料理を提案している「食堂いちじく」。主宰するのは、イベントや出張料理、メニュー開発など幅広く活躍している尾崎史江さんです。今回初の著書、「食堂いちじくの精進弁当」が発売されました。多くの料理家さんもとりこにする、お弁当作りの秘密を尾崎さんにお伺いしました。

精進料理と出合い、自分らしい料理の道へ

もともと料理が好きで、地元・岐阜にあるお寺がやっているカフェギャラリーに展示を見に行った際、調理補助の募集を見つけて応募してみたんです。

お寺ですから、もちろん精進料理。調理のメインはお料理好きの主婦の方で、季節に沿ったコース仕立てのランチをお出ししていました。ここでは、ストイックになりすぎず、動物性のものも、かつおぶしを少しだけおだしに使っていましたね。

まかないは、ごま豆腐の切れ端や、残った野菜の炒め物や揚げ物。これがおいしくて。調味料が少なくても、その季節ごとに力強い味わいがあり、飽きることがない。ケータリングなどで定番のかき揚げはここで学んだものがベースになっています。

それまで、精進料理というと味が薄かったり、難しい決まりがたくさんあるのではないかというイメージを抱いていたんですけれど、身近にある旬菜や乾物のぎゅっと詰まった滋味をいかすことで、初めて“本当の味”を教えてもらったような気がします。肉、魚に限らず、野菜にも尊い命がある。旬を迎えた食材に敬意を払い、調理し、食べることで、「料理」の原点に触れたように感じました。

そこから、料理を仕事にしていこうと決めたとき、このとき感じた精進料理の魅力や考え方を大事にしていきたいな、と思ったんです。

おうちごはんに精進料理のエッセンスを

先ほどもお話ししたように、精進料理だから肉も魚も卵もNG! とネガティブに考えるのではなく、旬の野菜をおいしく取り入れ、身体が元気になるような食のスタイルとしてとらえてみてほしいんです。

私が考える、おうちでの精進料理をおいしくする工夫は、3つあります。

1.旬の食材を使う

スーパーで買う野菜って、実は偏りがちですよね。でも、季節によって店頭に出てくる野菜は違います。春なら山菜やそら豆、グリンピース、菜の花……。夏はとうもろこしやカラフルなピーマンやトマトかな。パッと見ただけでも色やツヤがあるし、たくさんとれるわけだから値段も手ごろ。その力強さは、調味料に頼らなくてもシンプルな調理で充分においしいですよ。

2.油を上手に使う

精進料理は、意外と油を使う料理が少なくありません。江戸時代に中国からもたらされた精進料理=普茶料理(ふちゃりょうり)の影響を受けているからです。普茶料理には中華料理の技法を取り入れた、油を上手に使うメニューが多いんです。

野菜は、素揚げや炒め物にすると、油の力で素材のうまみやコクがぐっと引き出されます。野菜以外でもたんぱく源として使う車麩や高野豆腐などの乾物も、揚げ物にすると満足感が増すのでおすすめです。

3.アクセントになる風味を足す

味が少し淡白でも、パッと広がる香りがあると、満足感が違うし、飽きずに食べられると思います。

一番手軽なのが、ごま。ポイントは、使う前にフライパンなどで乾煎りすることです。もちろん、煎らなくても使えるのですが、香ばしい香りの立ち方が全然違うのでぜひやってみてください。実は、ごまって油分が多く、香りだけでなく、コクもプラスできます。例えば、すし飯に混ぜ込めば、動物性の具材を使わなくても奥深い味わいになりますよ。

ほかにも、ゆずやレモン、木の芽、大葉、みょうがなど、季節の香味野菜もおすすめ。香りをかいだときに脳から季節を感じ、料理がもっとおいしくなるでしょう。味がぼんやりしているな、と思ったら、梅干しや粉山椒、一味唐辛子を使うと味の輪郭がはっきりします。

おうちで精進料理を作るときは、どんな食材を使うとよい?

まず、肉や魚の代わりになる、植物性たんぱく質が重要ですね。豆腐や厚揚げ、テンペなどの大豆製品やお麩を使います。大豆ミートも手軽に購入できるようになりました。車麩や生麩はグルテンの弾力を活かして、肉や魚に引けを取らないメイン料理を作ることができます。

特に、もっと世の中で使ってほしい!と思うのが、高野豆腐。ほとんどのスーパーで手に入り、保存がきいて、値段も安い。淡白すぎて、スポンジみたいな口当たり? と思ってしまっている人がいたら、ぜひこの本の「高野豆腐と卵もどきの2色そぼろ丼弁当」をはじめとした、高野豆腐レシピを試してみてほしいです。

また、精進料理生活をはじめると、野菜や素材自体の味がおいしく感じられるようになり、調味料もナチュラルな味のものを選びたくなります。甘みなら、白みそやみりん、玄米甘酒を使えば、ほんのりと、自然の味に寄り添った甘みをつけられるんです。醤油なら、お料理に応じてぜひ薄口を使ってみてください。少量できりっとした味になり、彩りを損なうことがありません。ほかにも、今まで出合った中でおすすめの調味料を本の中で紹介しています。

あと重要なのが、おだし。かつおぶしは動物性ですから、基本的には昆布や干し椎茸でとります。今回の本では、毎日のお弁当に活用してほしいので、冷蔵庫に入れて放っておけばいい「水だし」を紹介しました。それぞれ水と一緒にポットに入れてひと晩以上おいておくだけです。どちらも、戻し終わったものもおかずに使います。混ぜて使っても味に奥行きが出ますね。

お弁当作りをもっとスムーズにする方法は?

本の中では、主菜1、副菜2、ごはんという構成を基本にしています。

主菜は前日に用意しておけるものを前提に。副菜は作りおきか、さっと作れるものにしました。主菜を前日に用意しておき、当日は仕上げて詰めるだけ。夕食と一緒に作ってしまっていいんです。

実は、精進料理とお弁当は相性がいいんです。肉は冷めると脂が固まり、ちょっと味や食感を損ねることがありませんか? お麩や大豆ミートなら、そういった心配がなく、味が劣化することなく、完全に冷めてもおいしく食べられます

精進料理もお弁当も、思い立ったらチャレンジできる

この本には精進料理とお弁当というふたつのテーマが入っています。これは無理やりくっつけたわけではなく、精進料理がお弁当にとっても向いているから。

精進料理というと、まだまだ味が淡白で、物足りないんじゃないかというイメージを持たれているかもしれませんが、そんなことはないのです。最初にお話ししたように、旬の素材にはパワーがありますし、お弁当ですから“ごはんがすすむ”ような味にしています。主菜に使う乾物は保存がきくので買いだめができ、思い立ったらチャレンジできるはずです。

「身体に優しい」というイメージはその通り。お肉をたくさん入れたお弁当もおいしいですが、思ったよりも消化に体力を使ってしまいます。学校や会社に持っていくだけでなく、リモートワーク中の自分のために作っていただくのもおすすめなんです。「毎日のランチが結構面倒」という声も多いですが、前日や前々日に仕込んでおいて、当日の朝はお弁当を仕上げるだけと考えれば気も楽になりますよね。

ぜひ、精進料理のお弁当を味方につけて、素材のおいしさ、食べたあとの体の軽さを味わってみてください。

「食堂いちじくの精進弁当」おすすめレシピを紹介

車麩のカツレツ弁当

「車麩のカツレツ」なら、冷めてもジューシーでおいしい主菜に。車麩をまとめて戻し、衣をつけた状態で冷凍しておいてもOKです。当日の朝、使う分だけ揚げ、冷ましてからお弁当箱に入れましょう。

一緒に詰める副菜は2品。「にんじんと切り干し大根の香り和え」は作りおき、「ブロッコリーの白和え」はあっという間に作れるメニューです。主食の「そら豆ご飯」は、少しもち米を混ぜて、ほっこりしたそら豆とのコントラストを楽しみます。冷めても風味と香りが効いていて、春らしい彩りもうれしいですね。

高野豆腐のバインミー弁当

「高野豆腐のバインミー」は、高野豆腐を手軽に使い、おいしく食べられるメニューです。高野豆腐はスティック状に切り片栗粉をまぶして揚げ、ソースにさっとくぐらせるだけ。これがおいしくて、ついついつまみ食いしてしまうほど。これをコクのあるにんじんのディップやなます、パクチーと合わせてバゲットに挟みます。

また、副菜の「セロリとかぶのマスタードサラダ」は、セロリを葉ごと使えるのがうれしいところ。塩もみして水分を出してからドレッシングと和えるので、水分が出にくく、お弁当向きです。

食堂いちじくの精進弁当』(立東舎

(撮影:竹内章雄、スタイリング:久保原惠理、TEXT:北條芽以)

尾崎史江(おざき・ふみえ)

料理家。地元・岐阜のお寺で精進料理に携わり、興味を抱く。旬の食材を生かした身体にやさしく満足感のある料理を主に、レシピ開発や飲食店のメニュー開発およびフードディレクション、出張料理、料理教室などを行っている。イベントやお弁当で精進料理を基にした料理を紹介する「食堂いちじく」、組み合わせの妙が絶賛のミニどら焼き「小どら」を主宰。

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