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コラム

凍らせるだけでモチモチ!「冷凍卵」のヒミツを探る!

クックパッドニュースで最も人気のある記事ジャンルといえば「裏ワザ」。実は、料理の裏ワザには、驚きだけでなくちゃんとした理由があるんです!その理由を、料理研究家・関岡弘美さんが、クックパッド食みらい研究所 特任研究員・石川伸一先生に徹底取材。裏ワザの科学的根拠を解説します。

料理研究家の関岡弘美です。料理研究家になってはや7年、料理について深く学べば学ぶほど、料理は科学であると実感する日々です。そして、いつも不思議に感じるのが、料理の常識からはかけ離れた「裏ワザ」と呼ばれる意外なテクニックの数々。裏ワザはなぜ成立するのか…みなさんに代わってその謎を解き明かしていきたいと思います。

ネットで話題の「冷凍卵」とは?

クックパッドニュースで取り上げたことが話題になり、2014年秋にネットから広がって以来、テレビなどでも取り上げられ、一躍有名な存在となった「冷凍卵」

生卵を冷凍するだけで、加熱していないのに卵黄が流れ出さずにゼリー状に固まり、モチモチの食感になるのです。

どんな風になるのか、実際に作ってみましょう。
生卵を割って、冷凍可能なポリ袋などに入れるか、割らずにそのままポリ袋に入れ、密閉して冷凍庫へ。冷凍すると殻が膨張して割れるので、丸ごとの場合もポリ袋に入れてから冷凍します。

完全に凍ったものを、そのまま解凍せずに殻をむくと、こんな感じ。生のままですが、卵形に固まっています。

そのまま解凍すれば、冷凍卵の出来上がり。 卵白は、もと通りになりますが、卵黄だけが箸で切れるくらいのもっちりとした状態になるのです。

どうして卵黄がモチモチするの?

さて、ここからは、石川先生に冷凍卵の科学的な性質を伺いながら、冷凍卵のヒミツを解説していきたいと思います。

—冷凍するだけで、どうして卵がこんな風に変わるのでしょうか?

「変化の正体は、液体状のものが固形状になる「ゲル化」という現象。生の状態ではバラバラに存在している卵黄のたんぱく質が、凍らせることで集まって大きなかたまりになり、離れなくなることから起こると考えられています。これは、卵黄のたんぱく質だけに起こる変化で、卵白にはその変化は起こらず、解凍するとそのままもとの卵白に戻ります。」

—たんぱく質が集まって、卵黄が半熟卵みたいに固まるんですね。でも、一度溶きほぐした卵黄は、冷凍、解凍しても、モチモチにはなりませんでした。これはどうしてなのでしょう?

「溶きほぐすことでたんぱく質がバラバラになるので、凍らせてもかたまりにはならず、解凍後も生卵と同じ液体状の卵黄になると考えられます。」

なるほど!モチモチ卵黄にしたいときは、そのまま冷凍、普通の卵黄として使いたいときは溶きほぐしてから冷凍すればいいということがわかりました。続いて、冷凍卵を調理した際に起こる疑問点について、石川先生に質問してみました。

—冷凍卵で黄身のしょうゆ漬けを作ると、通常味が染み込むのに2〜3日かかるところが、1時間ほどで味をつけることができます。これはなぜでしょうか?

「冷凍することで卵黄のたんぱく質同士が固まり、細胞の中に大きな溝ができます。その溝に漬け汁が入り込んで、味が染みこみやすい状態ができるからではないか、と考えられます」

まだまだ広がる!冷凍卵の世界へようこそ

「冷凍卵」の性質を利用すると、黄身のしょうゆ漬けのように、本来は手間や時間、技術が必要な料理にも、手軽にトライできます。例えば、殻ごと冷凍した卵を、解凍せずに殻だけむいて衣をつければ、生卵では難しい半熟卵のフライなども簡単に作れます。

さらに、生のままでも切ることができる冷凍卵の黄身は、スライスしたり、他の食材に混ぜ込んだりして、使うことも可能。黄身のカルパッチョや、黄身と野菜の和え物など、通常の卵では作れなかったメニューまでできてしまいます。

新たな可能性を秘めた「冷凍卵」は、オリジナルのメニュー開発にうってつけの素材。ぜひ、新しいメニューにチャレンジしてみましょう!

※冷凍する卵はひび割れのない賞味期限内の卵を使用しましょう。また、解凍は冷蔵庫で行い、殻を割ったら2時間以内に食べることをおすすめします。

取材協力

石川 伸一(いしかわ しんいち)
福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、クックパッド食みらい研究所 特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。

執筆:料理研究家 関岡弘美

出版社にて食育雑誌の編集に携わった後、渡仏。 料理、製菓等を学び、レストラン、パティスリーで研修後、帰国。 雑誌、広告等を中心に活動するほか、都内でおもてなし料理とワインの教室を主宰。ブログはこちら

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