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コラム

【裏ワザの裏側】鶏むね肉をもっと柔らかくするには「塩水に漬ける」が正解だった

料理の裏ワザには、きちんとした理由があった!その理由を、料理研究家・関岡弘美さんが、クックパッド食みらい研究所 特任研究員・石川伸一先生に徹底取材。裏ワザの科学的根拠を解説します。

料理研究家の関岡弘美です。料理の「裏ワザ」と呼ばれる意外なテクニックが成立する理由を解明するこのコーナー、第2回目のテーマは「鶏むね肉を柔らかくジューシーにする裏ワザ」。今回も、みなさんに代わって裏ワザの裏側にある、科学的な理由を解き明かしていきたいと思います。

つけるだけでジューシーに?鶏肉が大変身!

以前クックパッドニュースで紹介した鶏肉を水に漬けるとジューシーになるという記事でも証明されたように、鶏肉を水に漬け込んでから調理すると、柔らかくジューシーに仕上げることができます。

ところが、水よりも「塩水」につけたほうが、さらにジューシーになるという情報が。そこで、鶏もも肉よりも安くて家計にやさしいのに、パサつきがちな鶏むね肉を使い、水や塩水に漬けた鶏肉にどんな変化が起きるか実験していきたいと思います。

まず、鶏むね肉にフォークをさして水分が入りやすいようにします。

1.そのまま
2.水に2時間つけたもの
3.塩水(5%濃度)に2時間つけたもの

上記3種類のパターンを用意。

それぞれをフライパンでソテーして、食感の違いを比較します。見た目にはそれほど差がでませんが、食べてみると差は歴然。塩水につけた鶏肉が最もジューシーで美味しくなりました

1.そのまま
そのまま焼いたものは、むね肉らしい肉の質感をかみしめる味わい

2.水に2時間つけたもの
水に漬けたものは、1に比べてしっとり、パサつきが抑えられています

3.塩水(5%濃度)に2時間つけたもの
水に漬けたものよりも、さらにジューシーさがアップ!しっとり感が全く別ものです

しっとり、柔らかに仕上がるのはなぜ?

今回も、石川先生に鶏むね肉が柔らかくなるメカニズムをうかがいました。

—塩水に漬けると、どうしてこんなにしっとり感が増すのでしょうか?

「まず、ジューシーさの要因は、肉の内部の「保水力」がアップしたことが要因と考えられます。ちなみに、保水力とは水分を内側に蓄えて保つ力のことです」

—ただの水と、塩水では大きな差があるように感じたのですが、理由はどこにあるのでしょうか?

「塩が筋肉線維の構造を破壊して内部に入り込み、肉のタンパク質と作用しあって細胞に水が保持されやすくなります。よって、普通の水よりも塩水に漬けたほうが、保水力が上がります」

—塩の作用で、肉の内部に水分が入りやすくなるということなんですね!では、保水力が上がると肉がジューシーになるメカニズムを詳しく説明していただけますか?

「肉を塩水に漬けると、水分を含んで10%以上も重くなります。通常、肉を焼くと加熱によって20%程度の水分が失われますが、塩水に漬けた肉は事前に吸収した水分があるぶん、水分を多く保ったまま焼き上がります。これが保水力が高まると、加熱してもジューシーに仕上がるメカニズムです」

—ただジューシーなだけでなく、肉質自体も柔らかくなるのはなぜですか?

「肉には加熱すると“線維タンパク質”が集まり固くなるという性質があります。しかし、塩水が入り込んで“線維タンパク質”が溶解すると密な集まりにはならないので、塩水に漬けた肉は加熱しても柔らかさを維持できるんです。」 

—なんと、塩水にそんなにすごい効果があったとは! それでは固くなりがち肉は、何でも塩水に漬けてしまえばジューシーで柔らかくなりますね!

「そうですね。ただ、塩水漬けのデメリットは、肉が塩辛くなってしまうことです。そのため、漬け汁に砂糖や果汁などを入れて甘さと酸味を加えると、塩辛さを抑えることができると思います」

パサつきがちなお肉は「塩水」でしっとりさせよう!

この裏ワザは、鶏むね肉以外にも、ささみ、豚や牛のもも肉など、脂肪分が少なく、硬くなりがちな他の肉にも応用可能。生姜焼きを焼きたいけれど、豚ロース肉は値が張る…というときは、比較的安価な豚もも肉を塩水に漬け込んで、しっとり柔らかく仕上げることもできますね。

今まで「ぱさぱさする」と家族に不評だった肉も、塩水に漬けてしっとりジューシーな食感に仕上がれば、喜ばれること間違いなしです!

取材協力

石川 伸一(いしかわ しんいち)
福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、クックパッド食みらい研究所 特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。

執筆:料理研究家 関岡弘美

出版社にて食育雑誌の編集に携わった後、渡仏。 料理、製菓等を学び、レストラン、パティスリーで研修後、帰国。 雑誌、広告等を中心に活動するほか、都内でおもてなし料理とワインの教室を主宰。ブログはこちら

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