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コラム

【食トレンド総まとめ】米粉、豆、トルティーヤ…2022年は「主食」が注目された年!?

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.35】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

2022年の食は「主食」に注目が集まった

2022年もあと少し。今年もさまざまな食が流行した。そこで12月配信の今回は、連載で取り上げた流行を軸に、2022年の食トレンドを振り返ってみたい。

今年目立った流行のポイントは2つある。1つは、主食関連。まず、ダイエット向きの食材として注目されるプロテイン(タンパク質)について、2月24日配信記事で紹介した。ちょうど1年前の2021年12月に、オートミールの米化ダイエットについて取り上げた後で、コロナ禍のステイホームで運動不足になったことを気にした人たちがいることが分かっていた。プロテインの流行は、「太りやすい」炭水化物を避け、替わりにタンパク源を摂ろうと起こった流行だった。

スポーツをする人たちの間で、効率的に筋力をつけたい、と始まった側面もある。さらに、植物性タンパク源としての豆への注目も影響していると書いた。食料危機への問題意識から、ヴィーガンなど肉食を避け豆を食べようとする人たちが日本でも増えている。大豆ミートなどの代替肉が登場し、インド料理や中東料理の流行からヒヨコ豆が注目される、ヨーロッパのレンズ豆料理が人気になる、と豆料理への関心も広がっている

メキシコの主食、タコスは8月24日配信記事で紹介した。メキシコ料理は近年、東京で日本人向けにアレンジしたレストランが次々と誕生し、『マツコの知らない世界』(TBS系)などでも紹介されている。この夏は、スーパーがトルティーヤやサルサソースなどをピックアップしタコスをすすめる、サブウェイが唐辛子を効かせたタコスミートを挟むサンドイッチを売り出すなどしていた。暑い季節に、暑さを吹き飛ばす目新しいアイテムとして注目されたのかもしれない。

2月に始まったロシア-ウクライナ戦争は、食糧危機がすぐそこに迫っていると感じさせた。何しろどちらも鉱物資源、石油、そして小麦などの資源国だ。日本は小麦の85パーセントを輸入に頼っている。昔はコメと小麦の二毛作をする農家も多かったが、1955年にGATT(関税及び貿易に関する一般協定、現WTO)に加盟し、進んでいく輸入自由化競争の中で工業国へとシフトし、小麦の生産も減少した。

先に記した豆についても、日本人が最も親しむ大豆は9割以上を輸入に頼っている。こちらも昔は自給していたが同様の理由で、栽培が減少した。

ほぼ自給できているコメも、今年は改めて注目された9月24日に配信した記事のテーマは米粉。2005年から数年間の第1次ブームと、2018年から始まった第2次ブームがあり、第1次ブームは品質がまだ高くなかったが、第2次ブームは米粉用の品種が開発されるなど環境が整ったことから始まっている。米粉料理のレシピも次々と開発され、広がっていたところへ戦争が起き、小麦粉の代替として一躍脚光を浴びたのだ。

主食に注目して今年のトレンドを見ると、世界情勢の影響をもろに受けていることが分かる。コロナ禍が起こって生活が大きく変わったことやSDGs関連の報道が増えたことで、ひたすら経済発展を求めてきた現代社会のあり方を見つめ直す人も多い。食の根幹への注目が、コメなど主要穀物に関連する流行を産む側面もあるのだろうか。とはいえ、タコスは目新しさが流行の要因と考えられるし、7月29日配信記事のドーナツなど、相変わらず小麦粉を使った食品も流行しているので、SDGsも多様な価値観の一つとして注目されただけとも言える。

キンパやおでんなど韓国グルメも話題に

2つ目のポイントは韓国料理。やはり主食系だが、4月22日配信の記事で取り上げたキンパだ。中には、節分ですっかり全国区になった恵方巻でキンパを選ぶ人も出てきた。

今年、世界的に流行したネットフリックス配信の韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』でも、主人公のウ・ヨンウの父がキンパ屋を経営し、彼女が職場にキンパの弁当を持参する場面がよく出てくるので、来年はもっと流行するかもしれない。何しろ、2020年にネットフリックス配信で大流行した韓国ドラマ『愛の不時着』に出てくる韓国チキンも、流行しているからだ。韓国ドラマは、食べる場面がナチュラルによく登場するので、主要キャラクターが食べていた韓国料理は流行しやすい。キンパもコンビニで販売されるほか、専門店も登場しているので、手に入れやすくなった。また、日本ののり巻きより作り方が簡単な側面があって作る人が増えるなど、ポテンシャルは高い。

同じく、韓国おでんも11月28日配信記事で取り上げた。こちらも、アマゾン・プライムで最近改めて配信されている2015年の韓国ドラマ『彼女はキレイだった』で、主人公が屋台で食べるシーンがある。日本ではおでんが専門店や居酒屋などで提供されるが、韓国では屋台の定番料理である。韓国おでんもキンパも、日本から伝わって現地化した料理だ。外国へ伝わって形を変えた料理が改めて流行するというのも、興味深い現象である。

幕末の開国以来、外国との交流で生まれた料理はたくさんあって、現地化されて生まれた洋食や中華もカレーも、日本的な進化を遂げている。そうしたベースがあるから、外国発の食はトレンド化し定着しやすいのかもしれない。食のトレンド化が加速されたここ30年余りの間でも、世界各国の料理が流行って定着した。それでもなお、まだ知らない外国の料理やスイーツを取り込もうとする日本人の好奇心は高い。来年はどんな食が流行するのだろうか?

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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