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コラム

今、再びブーム!「アサイーボウル」にZ世代が注目している理由

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.54】日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

アサイーボウルが再ブームに!

クックパッドの食の検索データ「たべみる」によると、アサイーボウルの検索回数が今年、10年ぶりに大きく上昇し、2023年の約3.75倍にもなった。アサイーは、ブラジル原産のスーパーフードと呼ばれる果物で、味も香りもほとんどないが、紫色の表皮から分かるように抗酸化作用が強いポリフェノールが多く、鉄分、食物繊維、ビタミンE、マグネシウムなどのビタミン・ミネラル、オレイン酸といった脂質、アミノ酸類など豊富な栄養を含み、アマゾンではよく料理に使われている。アサイーボウルはリオデジャネイロやサンパウロなど都市で食べられているスイーツで、アサイーとバナナ、牛乳または豆乳・ヨーグルトで作ったスムージーの上にフルーツやシリアル、はちみつなどをトッピングする。ハワイでも人気で、10年前のブームはハワイ料理の人気にリンクしており、ハワイ料理店でも提供されている。

当時は美容によいとして大ヒットしたが、間もなく終息した。それが去年あたりから再流行しているのだ。『アットダイム』2024年7月1日配信記事「Z世代が熱視線!アサイーが再びブームになりそうな勢いで出荷量激増」に掲載された、アサイー関連商品を扱うパイオニア企業、フルッタフルッタ社長のコメントによれば、10年前のブームは芸能人やモデルなどのセレブがけん引したが、今回はSNSを通してZ世代で広がっているところが異なるという。同記事には、「Z総研2024年上半期トレンドランキング」の「食べもの・飲みもの」カテゴリーで、アサイーボウルが71・2パーセントのダントツ1位になっていることも書かれている。

前回のブームが1~2年で終息した要因について、『東洋経済オンライン』2016年7月18日配信記事「アサイーブーム終焉で煽りを食ったあの会社」が、翌年にはメディアの露出が減り消費者の関心が他へ向いた、と説明している。確かに2010年代半ばは、パクチーブームやアジア料理、おにぎらず、時短レシピなど多彩で大きなトレンドが次々に発生したので、消費者が目移りしたのかもしれない。食べ慣れない料理、食トレンドだったことも影響したのではないだろうか。

今回の流行の発端は、Z世代のインフルエンサーがSNSで発信し始めたことが始まりのようだ。もしかすると彼らは10年前のブームを知らず、新しい食べ物として発見したのかもしれない。ブームが続くとすれば、世代交代で好みが変わったという可能性もある。

前回のブーム時、2014年8月27日に放送された『孤独のグルメ』(BSテレ東)「杉並区阿佐ヶ谷のオックステールスープとアサイーボウル」が、2023年5月に再放送されたことも今回火付け役の一つ、とする記事もある。調べてみると、この回はそれ以前にも以後にも再放送されており、アマゾン・プライムなどでも配信されているので、タイミングが重なっただけかもしれない。

アミノ酸が豊富なのもZ世代に人気の要因

アサイーは冷凍なら、業務スーパーやコストコなどでも扱いがある。家庭でアサイーボウルを手作りできることも、人気の要因の一つ。

栄養価が高いこと、映えることはもちろん流行の要素として重要だ。しかし、それだけで爆発的な流行になるとは思えない。何しろ、さまざまな食べ物が映えを意識して提供されている。栄養価が高い食べ物も、他にいくらでもある。ではなぜ、アサイーボウルなのか。改めてアサイーおよびアサイーボウルの特徴に注目してみよう。

アサイーには、18種類ものアミノ酸が含まれている。若い世代を中心に、現代人が好む栄養素といえばプロテイン(タンパク質)だが、プロテインは20種類のアミノ酸で構成されている。つまりアミノ酸が豊富で炭水化物を含まないアサイーは、プロテインダイエットをしたい人にも向いている。実際、アサイーボウルはダイエット向き食品として流行している側面もある。

アサイーボウルは、牛乳・豆乳またはヨーグルトにアサイーを混ぜて作る。乳製品にもプロテインは含まれる。また、前回の記事でご紹介したように、今はグリークヨーグルトも流行中だ。アサイーボウルは、ヨーグルトスイーツのバリエーションと見なすこともできる。何しろ、アサイーボウルがメニューに載ったグリークヨーグルト専門店もある。

また、コロナ禍で流行したダイエット食にも、オートミールをご飯替わりにするコメ化があった。アサイーボウルに入るシリアルは、オートミールを含むことが多い。必ずトッピングされる果物も、家庭で食べる習慣は廃れつつあるが、果物を使ったスイーツは人気がある。アサイーボウルを食べることは、不足しがちな果物を補給することでもある。

つまりアサイーボウルは、特に若い世代が食べたい、あるいは食べるべきだと思っている食材ばかりで構成されたスイーツなのである。

外食やテイクアウト総菜、加工食品などを日常の食事にしている現代人は多い。そうした食生活で不足しがちなのが、野菜や果物。厚生労働省の統計でも、長年特に若い世代で野菜や果物の摂取量が減っていることが指摘されている。もしかすると、こうした流行によって、不足しがちな栄養を補う新しい習慣が生まれるかもしれない。果物や野菜が豊富に含むビタミンやミネラルは、元気の素だ。ふだん外注料理に頼りがちな人でも、アサイーボウルを積極的に食べていれば、過酷な夏を乗り切れるかもしれない。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)、『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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